「高校サッカー」は「社会の縮図」だった
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:たむ(ライティング・ゼミ)
「もっと、大きな声をだせー。1年気合いを入れろ」
背中から先輩の大きな声が聞こえる。背中から聞こえてくる声にびくつきながら声を張り上げる。
「○○ゴールがみたーい! みたーい、みたーい。○○ゴールがみたーい!」
応援に声を張り上げる後輩。
正直、ゴールをみるよりも先輩たちの後ろの声が気になる。
なぜかと言うと、声が小さいと判断された場合、きつい「居残り練習」が待っているからだ。
「居残り練習」とは、先輩方が良いと言うまで走り続けないといけない。倒れても無理矢理立たされて走らされる。しかも、連帯責任だ。高校サッカー強豪校によくある、「伝統的な練習」だ。
正直、この当時はよくわからない「伝統的な練習」のおかげで私は「社会」を生き残れている気がする。
まず、「社会」にでて直面することは「理不尽」である。
会社にもよると思うが、私が入社した会社では、上司の言う事は「絶対」だった。指示されたことができていない場合は、1時間以上の説教だ。説教はまだましで、人格否定までされていた同僚もいる。
また、面白いことに指示された通りの行動をしていたとしても説教が始まるのだ。
「やり方が違う」「おれの言う通りにしないからだ」
と罵声が飛ぶ。
結果がでても
「ほら、おれの言った通りだろ」「おれの言うことは正しかっただろ」
というセリフになる。
高校サッカーも実力社会と思われるかもしれないが、一概にそうではない。
監督のチーム構想や戦術、極端にいうと監督の好き嫌いで選手が試合に出れるかどうかが決まってくる。
僕の同級生は非常にサッカーがうまかった。高校1年にして、プロチームのスカウトからも注目されている存在だった。
しかし監督は、スタメンはおろかベンチにもいれることはなかった。
彼はうますぎてチームプレイができなかったのだ。そして、少し生意気だったので監督に嫌われていた。そんな彼を、監督は使いこなせなかった。あるいは、育てることができなかった。もし、彼が海外のチームに入っていたなら、日本代表にだってなれたかもしれない……。
その当時の日本のサッカーでは、スーパースターは生まれにくかったと私は思う。
大人が子供の可能性に蓋をしてしまうのだ。
長所を伸ばすことをせず、短所をなおす指導。
それは、「個性」を生み出すことを禁じ、「協調」を生み出す指導。
社会人になっても同じようなことを経験した。
頭がよく、行動力に優れていた同僚が、上司に言う。
「もっと、効率的で成約率の高い方法があります」
すると上司は、
「まだなんにも経験していないお前が意見を言うのは10年早い。おれの経験からこのやり方が一番いいんだ。意見があるならもっと結果をだしてから言うんだな」
確かに会社では、数字・結果がすべて。
高校サッカーも結果すべてだった。
しかし、結果を得るための場所・フィールドを上司や監督は用意してくれない。
とくに、上司や監督が好みではない優秀で口がたつ人材には。
私が高校サッカーで学んだことは、「処世術」だった。
私は、優秀ではなく非凡のサッカー選手だった。
僕は社会でも、非凡に業務をこなしたこと、それと「処世術」で社会という荒波にのまれることなく泳いでいる。
この「処世術」は、高校サッカーの「理不尽な環境」に対して、私がどのように先輩や監督に接し、自分のフィールド、活躍できる場所を作り、結果をだしていくことができるのか。そのことを常に考えていた。
もちろん、結果をだすには、個人の力量も必要である。しかし、個人の力量を磨いたとしても、それを披露するフィールドがないと誰もみてくれない。誰もみてくれないと、評価してくれる人がいない。評価をしてくれる人がいないと結果をだすことができない。
私は、社会の構造を高校の部活、サッカーで学んだのだ。
「社会が部活と一緒だなんて、職種が営業など体育会系の集団だからだ」
という反論があるかもしれない。
私の知る限りでは、営業職だけでなく、IT・コンサル・技術・研究、接客・サービス業、医療など、どの職種でも集団生活をするなかで、「理不尽」はあり、「処世術」は必要なのだ。
最近、ブラック企業が社会を賑わせている。
ブラック企業の定義は、従業員の意に反した長期労働である。
確かに、ブラック企業の長期労働は、問題である。しかし、ブラック企業と言っている人の中には、企業から活躍のフィールドをもらえていないと、不満がある人たちが言っている場合もあるのではないかと思えてくる。
その人たちは、努力せず、意見も言わず、言われた仕事を最低限したら、企業で長く働き続けたら、給与をもらえると思っている人たちではないだろうか……。
もしくは、言われた仕事もできない人たちでないだろうか……。
その人たちは、同僚が出世し、活躍するなかで、不満を感じるだろう。
そして、こう思う。
「おれも、結果をだせるフィールドがあればできる。あいつは運よく活躍できるフィールドがあったからだ」
私も不満があれば、そう思うかもしれない。
高校サッカーの「理不尽」な経験がなければ確実にそう思っていただろう。
私が彼らと違うのは、高校サッカーの3年間で「理不尽」を経験したからだ。
「社会」は「理不尽」である。
ただ、その「理不尽」を理解したうえで、自分の持てる能力を発揮する。そして、結果をだせるフィールドを自分でつかみとるのだ。
また、この「理不尽」に向かって強い心をもって、立ち向かっている人たちもいる。
先輩、上司、監督、社長から僻みや妬みを食らい続けている。
しかし、びくともしない。
それは、自分の力で戦えるフィールドをいつどんな状況でも用意できるからだ。
その彼らは、常にどんな相手にも自分の意見を堂々と言っている人たちだ。
私は、そんな彼らを尊敬しており、憧れている。
今、冬の高校サッカーの真っただ中である。
あのときの「理不尽」な経験と、仲間と一緒に「理不尽」と戦った記憶を思い出す。
それは、まぎれもない青春であったと同時に、今後の荒波の人生を生き抜く力の源だ。
そして、
高校生たちが、ひたむきに日本一を目指す姿は、私の胸の奥にある熱いものを呼び起こしてくれる。
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