メディアグランプリ

デジタルカメラという、写真撮影の課金サービス


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記事:庭田涼平(ライティングゼミ・4月コース)
 
 
「今時デジカメ使ってるの? スマホで充分じゃない?」
 
私が愛用のデジタルカメラを手にして街へと繰り出していると、スマホを構える周囲の人々から、私に向けてそんな心の声を発しているような気がする。
正直なところ、私もその意見に賛同する部分が多い。
スマホよりも遥かに重くて大きなデジカメを使うよりも、ポケットからスマホをサッと取り出して写真を撮る方が、どう考えたって遥かに楽だ。
おまけに、最近はスマホの画像処理技術が進化しており、スマホで撮ってもデジカメと遜色ないように見えるクオリティの写真が撮れる。
だから写真を撮るためには、わざわざデジカメを使わなくとも、スマホで充分だという声はごもっともである。
この文章の読者も、この意見に賛同する方が多いのではと予想している。
それでも、私にはわざわざデジカメを写真撮影のために使うだけの、理由や動機があるのだ。
私にとってのデジカメでの写真撮影を例えるなら、課金サービスなのである。
事の始まりは、5年前に軽い気持ちで行った、写真撮影という行為に対する課金であった。
 
当時の私はどうにか就職活動を終え、束の間の休息に入ったところだった。
卒業研究がその後に控えていたものの時間は余っており、何か新しいことを始めるには丁度良いタイミングだった。
そこで私は、就職先がデジカメに関する仕事をしている部門があることから、デジカメを買ってみようと思い立った。
 
まだ学生でお金が無かった私は、中古のデジカメを探してみることにした。
すると、型落ちではあるものの3万円程度という、デジカメとしては破格の値段で売られている機種を発見した。
このデジカメの安さを課金に例えるなら、いわゆる微課金レベルの出費である。
デジカメにしては安いし、デジカメがただの置物になっても特に困ることは無いだろうと思い、軽い気持ちで購入してみた。
 
デジカメが届いた後、早速デジカメを外出に持っていってみた。
デジカメの操作方法や、撮影のコツなどは全く分からなかったが、とりあえず沢山シャッターを押して大量に写真を撮ってみた。
不思議なもので、デジカメの扱い方が分からなくとも、何枚も写真を撮ってみれば、そのうち数枚は良い写真が撮れているのであった。
これに気を良くした私は、お出かけする時はデジカメを持っていくことが次第に増えていった。
 
そうして写真を撮っているうちに、中古のデジカメに対して物足りなさを覚え始めた。
友人が使う新しいデジカメに触れる機会が何度かあり、その便利さを直接体感した。
折角写真を撮るなら、便利で使いやすいデジカメが良い! 
そう思った私は既に社会人になっており、自由に使えるようになったお金で比較的新型のデジカメを買った。
しかも、定価14万円もした。
もう、微課金とは言えない。
デジカメにかなりのお金を費やした。
 
だが、デジカメへの課金は私を裏切らなかった。
新型のデジカメは、中古のものとは明らかに撮り心地が違った。
デジカメに搭載された機能が多すぎて、むしろ持て余すくらいだった。
一気に上がった性能に振り回されながら、私は出掛ける先々にデジカメを携えて行った。
散歩で見かけた何気ない花、当時付き合っていた彼女、野球場でプレーするプロ野球選手、美味しい料理、旅行先の景色。
とにかく好きなものや綺麗だと思ったものを沢山撮影した。
経験は裏切らないようで、撮影の数をこなしていくうちに満足の行く写真が撮れることが増えていった。
 
ある日、私はスマホで撮った写真とデジカメで撮った写真をふと見比べてみた。
スマホで撮った写真は、綺麗に加工されていてぱっと見は綺麗に見えた。
けれど、どこか雑に撮影されているような感じがして、好きな写真は多くなかった。
その一方、デジカメで撮られた写真は、拙いながらも一枚一枚綺麗に撮ろうと工夫がされていて、個人的に好きな写真が多かった。
 
機材の違いはあれども、どうしてスマホとデジカメでは撮れる写真に違いが出るのだろうか? 
この理由は、デジカメは写真を撮るためだけにある道具であり、そこに私は課金をしたからだと私は考えている。
スマホは写真を撮るためだけではなく、知人と連絡を取ったり、情報を集めたり、音楽を聴いたりと、様々な目的のためのツールである。
その一方でデジカメは、写真を撮ることしか出来ない。
デジカメを手に持っていると、他のことが出来なくなるのだ。
その代わり、デジカメを持っている間は写真を撮ることの優先順位が一番になる。
その効果は、使うデジカメが高ければ高いほど強くなっていくように感じた。
だから、デジカメで撮る写真は一枚一枚が自分の中で大切なものになってくれて、良い写真が撮りやすいのだと私は確信した。
写真を撮る時にスマホを使っても、撮るために課金した道具じゃないから、撮る写真に拘りが生まれないのだ。
 
今年、私はとうとう定価33万円の最新型デジカメを購入してしまった。
デジカメに対する課金としては、かなり高額になってしまった。
前のデジカメと比べて、機能もデジカメの性能も比べ物にならないくらい上がった。
そして何より33万円という値段が、デジカメで写真を撮ることの重大さをより一層引き上げているように感じられてならない。
私はこれからもカメラに課金することで、写真を撮るという体験を楽しんでいく。
この課金サービスからは、もう逃げられなさそうだ。
 
 
 
 
***
 
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2024-05-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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