高齢者の事故を無くす手段を考えたとき、見えたのはかつての地域のあり方だった
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:大川泰史(ライティングゼミ)
「今日はお母さんと来てくれてありがとうね。おばあちゃんもう目が悪くなってね。ほんといかんとよ」
私が介護士となってしばらくして休みになった時のことだった。
母方の祖母が、緑内障という目の病気にかかってしまい、車の運転が出来なくなったのだ。
「明日休みなら、一緒におばあちゃんの受診を手伝わんね。久しぶりにあんたに会ったらおばあちゃんも喜ぶよ」とお母さんが誘ってくれた。
僕も祖母とは、仕事が忙しくてなかなか会えていなかったこともあって付き添うことにした。
祖母が住む土地は、佐賀の山奥のといった場所だ。
まさに限界集落と呼ばれるような場所に近いのかもしれない。
そんな地域にはバスはおろか、コミュニティバスといった交通手段もない。
車がないといった状態はその場所に住む当事者にとって死活問題なのである。
近年おいて、高齢者を巡る交通には暗いニュースがつきまとう。
大きく問題となっているのが、認知症と思われる高齢者の交通事故だ。
昨年の10月28日、横浜市で認知症と疑われる高齢者が通学中の小学生の列につっこみ、小学1年生の児童が亡くなった。
加えては高速道路を逆走したり、アクセルを踏み間違いたりなどといった交通事故のニュースは枚挙に暇がない。
日本老年医学会によれば65歳以上の男性ドライバーにおいては、6割以上が中程度の認知障害を抱えているというデータもある。
団塊の世代と呼ばれる世代が現在約60~64歳程度と言われる中で、今後認知症もしくは疑われるドライバーが増加していくことが予想される。
運転に不安を覚える高齢者も多いため、運転免許の返還といったことも進んでいる。しかし、先ほどの祖母のように交通に著しい支障が生じる地域では進まないのが現状だ。
高齢者をめぐる交通事故とは、もはや事故の加害者・被害者の問題ではなく社会問題と呼べるような規模において考えられるべき課題なのである。
介護士として働く僕は、こうした社会問題をなんとか解決できないか密かに思っていた。
しかもボランティアなどではなく、行政の支援などではなく、ビジネスという発想においてだ。
社会問題を解決するビジネスをソーシャルビジネスという。その分野で起業する起業家を一般的に社会起業家と呼ばれる。比較的に近年になって注目されているビジネスの分野だ。
3年目の介護士は社会企業家という職業で交通の解決を図ってみようと思う。
介護×社会企業家という視点でどうかあの社会問題を解決に導きながら、事業として成り立たせていける方法はないだろうかと模索していた。
行きついたビジネスのアイデアは、交通難民と交通事故をめぐる問題の解消のみならず、かつて日本の地域社会が持っていたようなあり方を目指している。
それは地域のおじいちゃんやおばあちゃんが地域の子供たちを
「あんた、そんなことをしたら罰当たりよ。いかんよ」
「あんた、勉強頑張っているね。その調子でえらくなってな」とか
規範や道徳を教えたり、そっと頑張りを見守っていけたり、高齢者と地域の子供たちといったお互いの関係の再構築を図りたいと持っている。
主に4つの事業を組み合わせることによって実現を目指したい。
一つは、月額定額制のコミュニティタクシー事業だ。
この月額定額制といった仕組みによって通常のタクシーの値段設定では、使うことが厳しいといった人を支援したい。
通常のタクシーにおいても身体障碍の割合によっては、割引になる制度があるが、それでも毎日やちょっとした場所や友達の家に遊びにいくといった私的な利用はなかなかしずらい。
そういったニーズを抱えている層をなんとか救えないだろうか。
高齢になって様々な疾患やけがによるもの、もしくは、身体に障害をもっている人を主たる利用者と設定し展開したい。
そして本当に必要なのは、コミュニティバスすら通らない限界集落のような地域に住む人。 そう祖母のような人だ。
やはり、好きな時間に好きな場所にいくということは、その人自身の人生や生きがいといった問題に大きな影響を与えている。
祖母の受診の送迎の際に
「こんな状況をなんとかできないだろうか」
こんな思いを抱いたのがはじまりだった。
祖母のような全国にそんな問題を抱える人、そんな人たちに恩恵が得られるようなイメージでこんな仕組みがあったらなと思っていた。
一方でこんな定額制のタクシーは仕組みは絶対に採算が取れないとも思っていた。
だからこそコミュニティバスすら通らないのだ。
やっぱりこんな事業無理なのかもしれない。
そんな風に思っていた。
しかし、祖母との受診の付き添いで見えたのは、宝となる無駄だった。
この無駄こそが、ビジネスになるのではと考えた。
多くの人が病院で、ストレスに感じるのは、受診までの待ち時間ではないだろうか。
だが当時者にとって受診は、待ち時間はあまり感じないかもしれない。例えば風邪をひいていて先生に診てもらうといった状態のときに、待ち時間はしょうがないと思える。
しかし、受診を付き添いする身になってみると思うのが、相当この時間が長いのである。
繰り返して言う。ほんと長いのである。かつ受診しない人にとっては、無駄な時間だ。
当事者も含めてかもしれないが多くの人がこのジレンマというか、無駄な時間にさいなまれている。
受診の待ち時間という拘束は生産活動を大いに台無しにする。大きい尺度で見れば
年間何億ほどの損失や社会的なコストをもたらしているのだろうか。
海外においては、ホームレスに診察券とってもらい、診察までの待ち時間を代行してもらうサービスすらあるという。そこまで議論を広げる気はないが
「この時間があったらいろんなことができるのに」
と多くの人が抱えているジレンマだ。
しかし、その後の祖母の発言が発想の転換をもたらした。
「このあと、味噌とか醤油が切れとるけん買い物せんといかんとよ。申し訳ないけどごめんね」
「よかよ、よかよ」と平然と返していたのだが、内心マジかと思っていた。
この長い受診のあとに買い物もあるのか思っていた。
この場を借りて謝りたい。おばあちゃんごめんなさい。
だがこの発言に気づいたのである。
「この待ち時間で、何か生産的な活動。買い物ができたら便利じゃん」ということに。
この待ち時間を有効活用したいというニーズは待合室のみんなが抱えているのではないかと気づいたのだ。
イメージしているビジネスは、近所のスーパーと提携し、チラシのような商品情報をiパッドなどのタブレット端末へ情報入れておく。
かつ買い物が決済し、受診後には届くような仕組みがあれば、この時間が有効活用できるのではないかと思ったのである。
スーパーには、売上の何パーセントかを中間マージンとしてもらえる仕組みにしようと思っている。
スーパーにとっても、広告費の無駄を省き、買い物にこれない層をアプローチできる手段になりえるので入ってきやすい市場となるのではないかと思う。
だが、一つ問題があるのである。タブレット端末などを高齢者が使用できるかどうかといった問題である。スマホを扱える層が多くなってきているとはいえ、扱えない世代が大多数だ。タブレット端末による商品閲覧にこだわる理由は移動売店やコンビニエンスストアの差別化を図るかつ、商品在庫を抱えてしまうという恐れがある点だ。
在庫を抱えるということ自体に多くのコストやリスクを生じさせると思う。
なのでタブレット端末による決済という形が望ましい。
これを乗り越えるアプローチとして考えているのは、子育て中の女性が参加してもらうことを考えている。
子育て中の女性はスマホ世代を扱うことができる世代だ。こうした人々に携わってもらうことで高齢者が介助してもらいながら、買い物を支援できる。
かつ待合室全員に買い物支援を行うことできることが出来れば大きな収益となる。
多くの人がこの時間の有効活用を求めるニーズがあると思うからである。
タクシー事業の収益としていく面もあるが、成果報酬的な面も入れて、頑張れば、頑張るほど女性の取り分としていくことで、女性の社会進出を後押しするような仕組みにしたい。
なぜ子育て中の女性という視点に至ったかというと大学時代に女性をめぐるジェンダー的な問題が社会問題としてあるといった授業を受けた経緯もあるが、
友達が子供出産してからのしばらくしてからの一言だった。
「子育ては楽しいんだけど、子供と一日中家の中にいると社会から取り残されたというか、すごい孤立したように感じるんだよね」といった発言だった。
そんな思いを抱く人は社会に大勢いるだろうし、活躍する場や支援できる場がもっと社会に整備されることができればこんな思いをしなくてよいと思ったことがきっかけだった。
買い物支援に加えてやはり、付き添いといった役割も必要だ。
車の乗り降りはやはり、疾患やけがを持っている人にとって大きな障壁であるし、受診先での保険証の呈示などの手続きも認知症を持っている人にとって介助が必要とされる案件の一つだ。
付き添いと買い物の支援は関連事業の一つとして展開し、タクシー事業の補てんを目指せるものとしたい。
3つ目が病院や施設バス、コミュニティバスといった地域バスのシェア事業だ。
やはり、高齢者においての主な行先の一つは病院だ。
町で見かけるのは無料で送迎サービスをしている病院の多くだ。感じるのは、やはりこうしたバスが町で見かけるのが多くなったなと思う、反面これはありすぎて交通の邪魔になっているということだった。
ここにあったのだ「宝の無駄」である。
ある病院では、この無料送迎に関して年間800万ほどの経費がかかるという。かつ利用者が増大する背景があるため、年間の経費は膨れていく一方なのだ。
つまり、こうした無料送迎は病院とって不良債権な案件なのである。
しかし、一度初めてしまったサービスを停めることは、病院の評判などを落としかねないし、病院の通院利用者の足が遠のきかねない。つまり収益に影響しかねない。
そうした病院に対して仮に500万程度既存送迎のサービスを維持できうる仕組みを提案できれば、経費を抑えることができ、かつサービスの水準を維持できるとなれば多くの市場があるのではと思う。
逆に言えば、個人経営の小さい病院には送迎のサービスは運営できない。そうした病院には送迎のサービスを提案して売上が見込める。
また地方自治体の行うコミュニティバスは大方が赤字というデータがある。
指定管理者としてコミュニティバス事業に参入することができれば、地方自治体からの財源が見込める。
かつこのビジネスが解決するのは、交通渋滞である。町にあふれかえる通所バスを合理化し、一本化できうることができれば、社会的なコストを減らせる。交通渋滞は多くのビジネスにおいて社会損失になるのだ。これを改善できうることによって大きな社会的な改善につながると思う。
最後は、カフェ事業だ。
しかしただのカフェではない。それは、高齢者と子供の見守りができるかつ教育的な機能を持たせたものを展開したい。
これは、付き添いによる子育て中の女性と高齢者の関係性が深化したときにできうるのを
目標としたい。まさにこのビジネスの副次的な効果の本丸だからだ。
付き添いの女性と高齢者が関係ができれば、こんな話になると思うのだ。
「あんたの子供、週の3日のこの時間なら見守っておこうか。時間もあるから大丈夫よ」
そうなのだ。関係性ができれば子供を世話してあげようかという提案もあるのではないかと思うのである。
子育て中の忙しいお母さん、時間がある高齢者のニーズを一致させるのだ。
昨年の流行語の一つに選ばれたのは、「保育園落ちた日本死ね」という待機児童の問題だった。僕が考えているのは、関係性が築ければ、地域の高齢者に預かってもらうという仕組みもありなのではないかと思っている。
だが、しかし。
さすがに全幅の信頼をおいて地域の高齢者に預けることは難しいと思う。
そこで必要と思うのが、第三者の目だ。
カフェの経営者には、保育士、社会福祉士、介護福祉士といった専門職を配置することによる第三者の目を置く。
それによって担保された場によって保育することによって運営する。
保育料もかからないし、預けている時間でパートにでるなどの社会進出が促進される。
高齢者も子供と関わることによって認知機能の維持にもつながるし、かつ高齢者同士の場となれば、独居の孤独死といった問題も防げるかもしれない。
場の創出としてのカフェ事業が必要と思う。
加えて考えているのは、教育の機能だ。
この考えのきっかけを得たのは、凋落する書店業界に新しい価値を生み出している書店である天狼院書店だ。
天狼院書店はただの本屋を超えている一つの要素がゼミに形式による教育の提供だ。
この記事を書いているライティングゼミはただの書き物のゼミには終始していない。マーケティングなどの面にも反映できるもある切れ者ゼミだ。
ライティングゼミ以外にも非常に有用なスキルを学べるゼミや講師などを招きイベント化することによって本屋の価値を変えていていっている。
こうした教育的な機能が今日おいて必要と思うのだ。
子供預けたお母さんが調理師、介護士、整体、美容などの技術系だったり、マーケティングのようなビジネススキルを習得する場を作ることができればより社会に活躍する場が生まれるし、お母さん同士によって新しいビジネスが生まれるかもしれない。
技術系を習得したお母さんには、社会に出ていただくのはもちろんのこと付き添い業務において買った商品を調理したり、介護的なサービスを提供するなど付き添いのオプションメニューとして展開していくことで、事業価値を高めてもらうことができうるかもしれない。
主たるタクシー事業を補填するために関連事業によって収益を安定化させるのを目標としている。
このビジネスで解決する課題は、
交通難民、交通事故、交通渋滞の緩和、子育て中の女性の社会進出。
このビジネスが広がれば、広がるほどにこうした問題が解決していく。
全国にこうした社会問題あるため、全国に市場がある。
お金になれば、社会問題は加速度的になくなっていく。そうなったら面白いことこの上ない。
祖母の話ばかりに終始していたが、きっかけはもう一人いる。
祖母と同時期に父方の祖父も自転車から落ちて足の骨を折って、運転できなくなったのだ。
この祖父の存在もこのビジネスを展開できたらと思うきっかけになった。
うちのじいちゃんは本当に活発的な人だった。
さっきまでいたかと思えば、ちょっと近くの野球場に足を運んでいたりする。
「近所の○○くん、あの高校で活躍してるよ。上手になったね」
「そがんね。知らんかった」
地元の中学高校の試合をチェックしてくれて僕に教えてくれたりするのが日常の会話だったりした。
そうした祖父が手術を終え、お見舞いのため病院にいったある日のことだった。
家族は先にお見舞いに来て僕だけだった。
祖父は自分が介護士していることを知っていて、仕事は大変かとか、飯はちゃんと食べて取るかといった話をしていた。
そうした会話の途中にトイレを催したらしく、せっかくだからお前に手伝ってもらおうかねということになった。
トイレに座る介助を手伝ってしばらくしてベッドに戻ったときだった。
ぽつりと祖父がつぶやいた。
「なんもしきらんくなってごめんな」
とそういって祖父は泣いていた。
介護士をやってよく利用者の方が言うことがある。
「年を取ったらなんもできんくなるよ。いいことなんて一つもない」
すごく悲しくなる言葉だ。働いていていつもそう思う。
大学時代の恩師が教えてくれた話がある。
おばすて山みたいな話もあるけどな、あんな話は全国の一部なんだ。
近代以前の村社会では、お年寄りは価値付いたものとして捉えられていた。
農業を主体とするような村社会では春に種をまいて、夏に水を撒いて、秋に収穫し、冬は田を休めて春を待つといった円環的な社会においては非常に価値ある存在だった。
日照りのときや、害虫が大量発生したときといったイレギュラーの事態において助けを乞われる存在は、その村のお年寄りだった。
彼らは山における雲のかかり具合などから明日の天気を知ったり、祭りの様々な準備や意味体系を伝えたりするなど生き字引的な存在だった。
村社会において彼らは「役割」があり、村社会の中で機能する存在だった。
そうした円環的な社会においては、彼らの果たす役割は大きかった。
しかし、近代のような円環ではない直線的な変化を伴う社会においては、彼らの知識は活用されにくくなった。時代は日々変化していく中において、古い知識では対応できなくなってきているからだ。
僕は祖父が泣いたところなんて見たことがなかった。
祖父は大工をやっていた。私の家は祖父が作ったという。
そんなすごくて、たまに野球の話をするおじいちゃんで大好きだった。
学校の帰りに道に祖父の事業所があった。
若干小学校から帰宅のまでの道のりが長かったので、おじいちゃんの仕事が終わるまで待って、家まで乗せてもらうちょっとずるい手を使っていた。
車を運転することは祖父にとって好きな時間に野球を見たり、孫を送ってあげたりといった。生きがいや役割を担っている一つの要素だったのだと気づいた。
時代において役割は変化するかもしれない。身体の状態によって変化するかもしれない。
だが、「役割」や「生きがい」を無くして、祖父や祖母が過ごしていき、老いていく姿を見るほど悲しいことはないと思う。
「なにもできない」といった自己の有用感を否定するような思いをしてほしくない。
「役割」がないなら創出したい。
カフェ事業などでつながった子供たちへ地域の「親」のような「役割」を担ってほしい。
地域の、ふるさとの、未来を担う子供たちを時には厳しく、時には暖かく見守ってもらえる。
それはかつての地域にあったような「役割」をイメージしている。
地域からあなたは必要とされているよ。有用と思われているんだよ。価値あるものなんだよ。といった感覚を感じてほしいのだ。
ソーシャルビジネスだの真新しい言葉を言ってきたかもしれない。
社会の損失やコストなど大きい話をしてきた。
だけど、祖父や祖母が何とか充実した生き生きとした生き方ができればと思うのである。
死ぬまでにこんな仕事が出来たらと思っている。
*** この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。 *この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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