メディアグランプリ

ずるいかずるくないかをみんなで考えてみた


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:井出崎小百合(ライティング・ゼミ6月コース)

 
 

「小さい子だけ、何もやらなくてずるい」
 

先日の地域清掃活動日に小学4年生のアカリが言った。
 

「そうだ。ずるいするい」と小3のナナミも続く。
 

うちの保育園では、月に2回、スタッフや保護者の有志を集めて、
園児たちも一緒に地域の清掃活動をしている。
そこには、学校を休んでまでやってくる卒園児もいる。
 

夏休みは卒園児である小学生も預かっているので、
みんなで清掃活動に行く。冒頭の言葉は、その時に出た言葉だ。
 

私は悲しくなった。
 

小さい子というのは、3歳4歳の子どもたちのことだ。
小学生も在園中は、小さい子たちが例えば園で持ってきてはいけないよ、と
言われているおもちゃなどを持ってきても、
年長さんたちは「小さいからいいよね」と、小さい子たちの気持ちに寄り添い、
ルールがあっても、理解してあげている。
それは、大人がそうしろと言わなくてもだ。
小さい子がリュックが背負えないと言うと、背負ってあげ、
困ったことがあると、助けてあげる。
出来る人が出来ることをする、そんな文化がうちの園にはあるはずなのに、
「あの子だけずるい」という言葉が、大きい子から小さい子に向けられて言われたのには
正直ショックだった。
 

「そんなこと言われると、私、悲しいな」と言うか、
「何を言いよるん。そんなしょーもないこと言っとらんと、はよ、掃除し」と言うか……
 

いつもなら、まあ、その2者択一なのだが、今回は、なんとなくその場はスルーして考えた。
 

「なんで、ずるいって言葉が出たんだろう……」
 

うちの保育園は基本、全体で同じ活動をする、ということがほとんどない。
自分がやりたいことをやりたいだけする、というスタイルだ。
やりたいことをやって、やりたくないことはやらない。
しかし、地域の清掃活動だけは、大人の都合で押し付けている活動だ。
やりたくなくても参加させられる。
 

やりたくないのに、やらされるから、やっていない子を見て
「ずるい」となるのではないかと気づいた。
 

お昼休憩時、アカリとナナミに、
「さっき、小さい子が掃除してなくてずるいって言ったやん。
あれさあ、なんでずるいって思うんかなあって思ったんよねー。
で、考えてさあ、掃除やりたくないのにやらされているから、
やらない子を見て、ずるいって思うんかなーと思って。
無理やりやらないといけないことになってて、申し訳なかったなあと思って。
だから、アカリたちもやりたくないんだったら、やらんかったらええやん」と伝えてみた。
 

「え? いいん?」
 

「別にええよ。やりたくないことやらんでも」
 

「じゃあ、今度から、やらんとこー」
 

その場は、なんとなく私の中でもそれが正解かなという気がしたのだけど、
それを言っても、私の中ではなんか、ざわざわが残った。
 

このざわざわは何なのか。
一晩考えて、翌日、子どもたちと「平等」と「公平」について考えてみることにした。
 

朝の会で「昨日さあ……」と言いかけると
お説教されるのかと思ったのか、ナナミが「えー、またその話~」と言う。
私は、
「怒ってるんじゃないよ。ナナミが、『ずるい』って思ったのは、
ナナミの大事な気持ちだから、それをちゃんと言葉にしてくれたのは、
とっても嬉しいなと思ってるよ。
大事なことに気づかせてくれてありがとう。
でも私はね、なんで『ずるい』って気持ちが出て来たのかなあってことを
みんなで考えてみたいんよねー」と伝えた。
 

「例えば、昨日さあ、私だけ軽トラで(掃除道具や落ち葉を入れるコンテナを積んで)
行ったやん? あれはずるくないん?」
 

「ずるいよー。なんで私たちも乗せてくれないん?」
 

「みんな乗れないやん。じゃあ、みんなでコンテナと掃除道具、ひとり1個ずつ運んだらいいよね。帰りも、みんなで重たいの持って帰ったらずるくないやん」
 

「違う違う! みんな乗れないんだったら、何往復もすればいいやん」
 

「一番に乗れる人、ずるくないん?」
 

「ずるくないー」
 

「それは、ずるくないんや(笑)」
 

それでは、視点を変えて、と、よくある「平等」と「公平」の絵を用いて、
 

「壁の向こうで楽しそうな声がするんよ。みんな見たいやん。
みんなおんなじに、というんだったら、同じ高さの台持ってきたら、
一番小さいこの子だけ見れないやろ。
これは、大きい子だけ、ずるいーってならんの?」
 

「なるー。大きい子だけ見れてずるいー」
 

「え? でも、みんな同じがいいんやろ? みんな同じ台やん」
 

「じゃあ、こっちの絵は、小さい子は大きい台で大きい子は小さい台。
みんな壁の向こうが見えるけど、小さい子だけ大きい台、
ずるいーってならんの?」
 

「ならん!」
「いや、ずるいー」
 

いろんな意見が飛び交う。
 

「そうなんだあ。じゃあさあ、メガネかけてる人おるやん。
自分だけメガネかけて、よく見えるのずるいん?」
 

「それはずるくなーい」
 

「なるほど。じゃあさあ、例えば、耳が聞こえない人がお医者さんに行って、手話で通訳してもらうとするやん。その通訳の人の給料、みんなのお父さんお母さんが払う税金で雇ったら、それはずるいん? ずるくないん?」
 

「ずるくなーい」
 

「ふーん。じゃあさあ、毎回私ばっかり軽トラ運転するの、いやなんよねー。
みんな運転しなくてずるいやん」と言うと
 

「そんなん、大人やし。子ども運転できんし」と、小3のカナエが言った。
 

「そうなんやー。じゃあさあ、小さい子も小学生も大人も、
みんな同じだけ掃除しないといけないんかねー」
 

お話は、これでおしまい。
 

いつも、大人の思う正しいに誘導したり、
これが答えですと言わないようにしたいと思っている。
これがなかなか難しいけど。
 

「で?」ってところで終わって、あとは自分たちでもやもやする。
もやもやし続ける。
 

そうやって自分で「なんでかなあ」と考え続ける力が付くといいなあと思っている。
 

そして私は、「教え導く人」でなく、
子どもたちと一緒に悩んで考えて迷い続ける人でありたいと思っている。
 

 
 
 
 
***
 
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2024-08-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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