あなたは「黙カット」派ですか?
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:妹尾有里(ライティング・ゼミ6月コース)
「黙カット」が人気だという。
美容室のメニューやクーポンの中に「スタッフとの会話を控えたいかどうか」が選べるようになっていて、会話を控えるものを「黙カット」と呼んでいるそうだ。コロナ禍に感染症対策としてニーズが高まったようだが、「元々欲しかったサービスだった」という声もあり、感染症対策とは関係なく歓迎する向きも多い。反対に、「美容師さんとの会話が楽しみ」「静かすぎると緊張する」という人もいるようだ。
私自身は美容室に行くときには、必ず読みかけの文庫本を持参する。施術中は貴重な読書タイムだ。しかし、美容師さんはどう感じているだろうか。施術に集中できていいと思ってくれていたらいいが、「自分と話したくないのかな」と複雑な気持ちにさせていたとしたら申し訳ない。
中高生の頃は、美容師さんから話しかけられることに苦手意識があった。単に大人の人との会話に慣れていなかったせいもある。社会人になると男性の美容師さんが何だか苦手になり、指名できる時には女性の美容師さんを指名した。今は男性か女性かより、カットが上手かどうかの方が気になる。技術が確かであれば男性でも女性でも。しかし、どちらかと言えば物静かな人の方が好みだ。
静かな読書タイムを期待していたのに、実現しないこともある。お隣りに話好きなお客さんがいると、会話が盛り上がって非常ににぎやかになるからだ。「うるさいなぁ」と思いつつも、話好きな人の話はおもしろい。思わず聞き入って楽しんでしまうこともある。時には、近所の飲食店の評判など、耳より情報が入手できることもある。話している方は、まさか隣りの客が自分の話に聞き耳立てているとは思ってもいまい。
話好きなお客さんに上手に対応している美容師さんのコミュニケーション能力に関心することもある。お客さんの方は自分が話したいことを話すので、美容師さんにとってはあまり興味のない内容の場合もあるだろうに、少しもそんなふうに感じさせない。先日は、気難しそうな年配の女性が何やら難しそうな話(恥ずかしながら「難しそうな話だな」と感じたことは覚えているのだが、いったい何の話だったか、さっぱり思い出せない)に、若いお兄さん美容師さんが、しっかり聞き役に徹しつつも、臆することなく自分の意見も織り交ぜながら絶妙な合いの手を入れていて、すっかり感心してしまった。
長年美容室ジプシーをしていた私だが、ここ4年近くは同じ美容室に通っている。自宅から比較的近く、こじんまりとして落ち着ける美容室だ。施術も丁寧で信頼できる。ところが、なぜか担当美容師さんが退職で交代することが続き、このたび4人目の担当になる美容師さんに施術をお願いすることになった。「新しく担当させていただきます」と出迎えてくれた美容師さんは、なんと「新しい担当さんは、あの人じゃないといいな」と思っていた、まさにその美容師さんだった。なぜ「あの人じゃないといいな」なんて失礼にも思ってしまっていたかというと、その美容師さんが担当しているお客さんは大抵話好きの人で、にぎやかな掛け合いが耳に入ってくることが多かったからだ。それで何となく、その美容師さんも話好きで、ゆっくり読書させてもらえない印象があったのだと思う。しかし、それはまったくの杞憂に終わり、実に充実した読書タイムを送ることができた。「初めて担当させていただくので」と初めに丁寧にこちらの要望を聞き取りつつ納得感のある提案をしてくれた後は、静かに施術に集中してくれた。最後の方で、何かのきっかけがあって、その美容師さんが美容師を目指したきっかけやご家族の話をしてくれたのが、とても微笑ましく感じられて親近感をもった。私自身も初めて会った人には決して話さないような個人的なことを話していて、自分でも驚いた。そして、次回、またその美容師さんの話を聞くのが楽しみになったのだ。新しい担当美容師さんは、ただのおしゃべりではなく、相手のコミュニケーションスタイルに器用に合わせられる、卓越したコミュニケーション能力を持っているようだ。
「黙カット」が歓迎される背景には、リアルなコミュニケーションの場が減少し、よく知らない人との会話に苦手意識のある人が増えたことも関係しているのだろうか。かくいう私も、「読書がしたい」というのはもしかすると言い訳で、本当のところは「会話を楽しむ」スキルに自信がないのではないかと思ったりもする。
美容師さんの方も、お客さんとの会話を楽しみたい人と、技術には自信があるが会話しないで済めばその方が実はありがたい人がいるのではないだろうか。その辺も担当美容師さんとの相性なのだろう。
「黙カット」もいいし、美容師さんとの会話を楽しみに美容室に行くのもいい。そう、今は多様化の時代なのだから。
ところで、あなたは「黙カット」派ですか?
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