俺、部活やめたんだよ
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:Motobu(ライティング・ゼミ9月コース)
汗ばんだ手のひらが冷たいドアノブに触れると、胸の奥に広がる嫌な予感が再び押し寄せる。古い木と汗が混ざった、あの部室特有の空気が鼻をつく。
「ああ、また部活か……」
逃げ出したはずの場所に戻っている。この感覚に心臓が早鐘を打ち始める。なぜだろう。なぜ、戻ってきてしまうのか。
重い扉を開けると、先輩の冷たい視線が突き刺さる。
「昨日、来てなかったな」
その目は氷のように冷たく、声は刃のように鋭い。喉が乾き、舌が動かない。言い訳は浮かばない。
「集合!」
キャプテンの声に反応して体が動くが、重く、足が地面に縛り付けられたようだ。汗が背中を伝い、息苦しさに包まれる。
「なぜ戻ってきたんだろう……。逃げ出したはずなのに……」
その瞬間、目が覚めた。
シーツは汗でじっとりと濡れている。心臓の鼓動が耳に響く。これは夢だ。もう何度目だろう。大学時代に辞めた部活の夢。辞めたはずなのに、なぜかまた戻ってしまった後悔を感じる夢だ。これは、過去の自分からのメッセージなのかもしれない。人生の岐路に立つとき、この夢を思い出すのだろうか。
大学入学時、新しい環境への期待と不安が入り混じっていた。桜が満開のキャンパスで、新入生たちが自分の居場所を見つけようとそわそわしている。「どこかのサークルや部活に入らなければ」と焦りを感じながら、自分も居場所を探していた。
そんな中、ある部活からの熱心な勧誘を受け、なんとなくその気になり入部を決めた。最初は新鮮で、仲間との交流や技術の向上が楽しかった。達成感があり、充実した日々だった。ハードな練習も、仲間と共に乗り越える喜びがあった。
しかし、時が経つにつれ違和感が募っていった。練習に向かう足が重くなり、部室の空気が息苦しく感じる。「これが本当に自分のやりたいことなのだろうか」心の奥で疑問がくすぶり始めた。みんなと一緒に頑張ることの意義、自分が本当に求めているものは何なのか。葛藤の日々が続いた。
そして、ついに決断の時が来た。「やめます」その言葉を口にした瞬間、全身が硬直した。喉が乾き、心臓が胸を突き破るほどの鼓動が体中に響く。仲間との別れ、今までの努力が水の泡になるかもしれないという後悔がよぎる。それでも、未知の世界への期待がほんの少し胸に灯っていた。そして、その言葉を発した瞬間、驚くほどの解放感が体を包んだ。まるで、長い間背負っていた重荷がふっと消え去ったかのように、体が軽くなった。
突然訪れた自由時間に最初は戸惑いを覚えた。毎日決まった時間に部室へ向かっていた日々がなくなり、ぽっかりと空白が生まれた。しかし、その空白は新たな可能性への入り口だった。
図書館に通い、本や雑誌を手に取る時間が増え、自分と向き合う機会が訪れた。そして、新しい興味が芽生え始めた。将来のために資格試験の勉強を始め、大学のシラバスをじっくり読み興味を惹かれる授業に挑戦した。単位が取れるかどうかは問題ではなかった。挑戦すること自体が、新しい自分との出会いだったのだ。
今、振り返って思う。大学生活の本質は、自分を発見し、自分の道を見つけることにあるのではないだろうか。学校生活は決まったカリキュラムと正解のある試験が中心だったが、大学は違う。自由度が高く、その分、自己責任が求められる。
部活をやめたことで、私の本当の大学生活が始まったのだ。自分の興味に素直に従い、様々なことに挑戦する中で、少しずつ自分らしさが見えてきた。それは卒業後の人生にも大きな影響を与えた。
そして気づいたのは、この経験が「部活をやめた」という単なる出来事を超えて、人生の選択の本質を教えてくれたということだ。私たちの人生は、大小様々な選択の連続であり、その一つ一つが自己発見の機会であり、新たな可能性への扉なのだ。
もし、当時の自分に声をかけられるとしたら、こう伝えたい。「焦らなくていい。立ち止まって、自分の心に正直に向き合ってみて。何に興味があり、どんな人間になりたいのか。このタイミングで考えることが、将来にとってとても大切なんだ」と。
就職してからは、忙しさに追われ、自分と向き合う時間を持つことが難しくなる。だからこそ、大学時代という自由な時間を使って、自分を見つめる経験をしておくことが重要だ。
どんなに小さな決断でも、未来を変える力がある。部活をやめるという選択が、私の人生を動かしたように。その選択が、小さくても確実に人生を動かし始める一歩だった。そして、次は君の番だ。君の人生を動かす言葉は、何だろう?
***
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