人生をデザインする美容師
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:加藤 真矢(ライティング・ゼミ9月コース)
記事:
「今日、この後のデートまでに別の方にナンパされちゃったらすみません」
マッチングアプリで出会った方との初回デートを控えていたある日、お世話になっている美容師さんの所で新しいヘアスタイルを仕上げていただき、このような言葉で送り出していただいた。
この方は独立して自分のサロンを経営されているのだが、2か月前から予約を開始するシステムのところ、いつも予約開始日にあっという間に予約が埋まってしまう。
一体なぜそこまで顧客を惹きつけてやまないのか。
この後、私の出会いはどのように運んだのか。
私自身のこれまでを振り返ってみたい。
元々、大手サロンのトップスタイリストとして活躍されていた時代から、Instagramでヘアスタイル写真を日々投稿されており、そのエレガントさに心を奪われ、足を運んだことが始まりだった。基本的に後ろ姿の写真でありながら、カラーやスタイリングのバリエーションも多彩で、1人ひとりが「こっちを振り返ってほしい!」と思わせる、魅力的なスタイルに溢れていた。大手サロンに所属していながら、サロンのHP経由ではなく、ご自身のInstagram経由で予約を受け付けていたことも独創的で、「会社員の美容師さんもSNSを活用して個人でマーケティングする時代なのか」と興味を引かれたこともあった。
当初は、趣味でヴァイオリン演奏をしていることを踏まえて、
「普段はロングスタイルで自分でもコテで簡単に仕上げられるように、演奏のときはアップスタイルにするのですが、ヴァイオリンは耳元や首元に大ぶりのアクセサリーは付けられないので、顔回りの毛を巻いたときに華やかさが出せる感じでお願いします」
とオーダーし、とても素敵に仕上げていただいた。
一度手掛けた顧客のことは完璧に覚えておられて、数か月後に二度目の訪問をした際に、
「ヴァイオリンをされている方でしたよね。演奏のときはどんな感じでしたか?」
「ありがとうございます。前回はこんな感じでした!」
「めちゃくちゃ格好いいじゃないですか! 次のステージはどのようなイメージですか?」
と前回の狙いの結果を確認し、そこから更になりたい自分を引き出してくださるので、日常の写真を撮りためて、次回はどんな提案をいただけるのかを毎回楽しみに伺う美容師さんとなった。
ある時、その頃好きだった男性の前で、少しでも魅力的に映りたいと思っていた私に「ワタシが知らないワタシに会いに行ける」といった感じのコピーが飛び込んできた。天狼院書店の「自分史上最高にSEXYな写真を撮る」女性限定のフォトサービス『秘めフォト』の広告で、異性の前で大胆になれる勇気も欲しかった私は吸い寄せられるように参加申し込みをし、撮影日にこの美容師さんを予約した。
どうしよう、
この後、カメラの前であられもない姿になることを正直に言うべきかな、
いつものようにヴァイオリン向けの提案を心構えされているだろうし、
突然こんな話をしたらびっくりされるかなと思いつつ、
おずおずと
「こんな企画に参加しようとしていて……」
と打ち明けた。
そうすると、驚きながらもすごく喜んでくださり、
「すごくいいと思います! 話してくださって嬉しいです。加藤様はお綺麗だから、とても素敵な仕上がりになるんだろうな。髪をかき上げたり、乱れた感じにもなったりすると思うので、そうした時に素敵に舞うようにイメージしてやってみますね!」
と言ってとても張り切ってくださった。
出来上がった写真は、自分で言うのもだけど自分ではないようにSEXYで、
エレガントでありながら程よく崩れた感じのヘアスタイルも相まって、自分で自分にドキドキしてしまうような写真になった。
ドン引きされるかなと思いつつ、その次の訪問の際に写真をお見せした。
「僕が言うのも変な感じになっちゃうかもしれず、すみませんが……本当に、すごく綺麗です」
件の男性にも変化に気づいてもらえて、このまま幸せになれることを夢見ていた。
しかしながら彼の本性に気づけていなかった私は、肉体的精神的に傷ついた挙句に捨てられた。
しばらくは生きた心地がしなかった。
傷心の中、飛び込んできたのは、湘南の美しい海景色をバックにプロフィール写真を撮る
、脱がない秘めフォト『魅せる秘めフォト』の広告で、綺麗な景色の中で癒されるかなと参加を決め、またこの美容師さんを頼ることとした。
「屋外で髪の色が素敵に見える感じのカラーを検討してみますね!」
といつもより明るめに仕上げていただいたカラーが、青い空と海に映える絶妙な仕上がりとなった。
この写真も武器に、自分を奮い立たせて婚活市場に繰り出すこととなった。
素敵な写真のパワーもあり、申し込みはたくさんいただいたのだが、出会う男性は散々で、ドタキャン男、いきなりおうちデートに誘ってくる男、過去の恋愛を根掘り葉掘り聞いてきた挙句にブロックしてきた男など、数々の酷い目に遭い、
ある日の予約で、
「年も取っていますし、もう女性として価値がなくて、こんな男性でも申し込んでくれただけマシと向き合うしかないんでしょうかね……」
と愚痴をこぼしていると、
「いや、そこは選んでほしいです! 加藤様にふさわしい方をちゃんと!」
と叱咤していただいた。
「僕は、道行く人皆さんに、加藤様を素敵だなと思っていただきたいので、それぐらいの気持ちでやっていますので」
そこからは、ある筋から「婚活で男性にとって分かりやすいのはメイクやネイルよりも髪と肌のツヤ」とアドバイスをいただいたことをお話しし、ツヤ感を意識したヘアスタイルに仕上げていただき、冒頭の言葉を経て送り出していただいた。
当日は残念ながら良縁に繋がるような出会いはなかったものの、
その後、とある真面目系の婚活サービスで、6歳年下の方からお見合い申し込みをいただいた。
なぜ、アラフォーのオバサンに?
冗談かと思い、興味本位でお会いしに行ったところ、
とても素直で、気遣いもできて、自然な会話ができて、思いがけず二軒目に行くこととなり、
帰り際に、
「楽しかったです!」
と笑顔で、きちんと言葉にしてくれたことにも感動した。
信じがたいことに、お見合い後の返事がお互い「YES」となり、仮交際(お友達期間)となった。
すっかり自信を喪失していたものの、
女でいることを、幸せになることを諦めたくない私の本音を察して、
この方は寄り添ってくださり、
諦めそうになると叱咤して、素敵なヘアスタイルで元気づけてくださった。
「欲しいのはドリルではなくて穴」
ならぬ
「欲しいのは美髪のみならず、前向きな人生を送ること」
そこに踏み込めてこそ、
プロフェッショナルとして頭一つも二つも突き抜けられるのかもしれない。
ヘアスタイルというよりも、もはや人生をデザインする美容師さんなのだ。
***
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