「読書嫌いだった彼女が、本屋をデートの定番にするまで」
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:内山遼太(ライティング・ゼミ9月コース)
「本って、何がそんなに面白いの?」
付き合い始める前、彼女はそう聞いてきた。
僕にとって読書は、日々の欠かせない楽しみだった。電車での移動中や夜のリラックスタイムに本を開くと、世界が広がる気がした。一方、彼女はどちらかというとアクティブなタイプ。旅行やアウトドアが好きで、本を読むなんて考えられないという人だった。「小説を読むなんて時間の無駄」と、最初から興味を示さない彼女に、僕は無理に薦めようとは思わなかった。
けれども、そんな彼女が読書の魅力に目覚め、人生が変わっていく姿を目の当たりにするなんて、当時の僕には想像もつかなかった。
僕たちが付き合い始めて半年ほど経った頃。ある日、カフェでのんびりと過ごしている時、僕はいつものように鞄から文庫本を取り出した。彼女はスマホをいじりながら、ちらっと僕の本のタイトルに目を向ける。
「それ、何読んでるの?」
「これ? 面白いよ。登場人物が成長していく話なんだけどね……」
話しているうちに、彼女が意外にも真剣に耳を傾けているのに気づいた。「そういうストーリー、映画っぽいね。少しだけ興味あるかも」と言ったその言葉が、彼女が読書に初めて興味を示した瞬間だった。その後、駅の書店に立ち寄るときにも、「どれがいい?」と僕に尋ねてきた。
彼女のために選んだのは、短編小説集。長編ではハードルが高いかもしれないと思い、まずは気軽に読めるものを薦めた。数日後、彼女がその短編を読み終えたと連絡してきた。
「面白かった。こんなに頭の中で想像が広がるなんてびっくり」
その言葉を聞いたとき、僕は心の中でガッツポーズをした。読書に対して全く興味がなかった彼女が「面白い」と感じた。それは、彼女の中で何かが動き始めた証拠だった。
それから彼女は少しずつ読書を習慣にするようになった。僕が薦める本を一通り読み終えると、今度は自分で本を選び始めた。「これどう思う?」と本屋で新刊コーナーを指差し、僕に意見を求めてくることも増えた。恋愛小説やミステリーを中心に選んでいた彼女だったが、次第にジャンルの幅を広げ、歴史小説や社会派エッセイにも挑戦し始めた。その興味の広がりに僕は目を見張った。
デート先も変化していった。以前はショッピングモールでウィンドウショッピングをすることが多かったが、今では本屋巡りが二人の休日の定番になった。本棚の前で彼女が「どれにしようかな」と真剣な表情で悩む姿を見るたびに、少し誇らしい気持ちになる。そして気づけば、彼女の読書量は僕を追い越していた。
読書が彼女にもたらした最大の変化は、「一人の時間を楽しむ力」を得たことだった。付き合い始めた頃、彼女は極端な寂しがり屋だった。少しでも連絡が途絶えると「どうして返信しないの?」と問い詰め、毎晩の電話が欠かせなかった。僕自身も彼女の不安を受け止めるのに精一杯で、正直なところ、疲れを感じることもあった。
そんな彼女が、読書を通じて変わり始めたのだ。
「今日は一人で本を読んで過ごすね」
彼女がそう言ったのは、付き合い始めて1年が経とうとする頃のことだ。僕が仕事で忙しい日も、彼女は自分の世界に没頭する時間を楽しむようになっていた。ある日、彼女が読んでいた本について話してくれた。
「この主人公がね、自分の弱さを克服する話なんだけど、自分にも少し似ている気がして……泣いちゃった」
その時、僕は彼女が読書から得たものの大きさを改めて実感した。物語を通じて自分自身と向き合い、新しい視点を得る――それこそが、彼女の人生を豊かにしているのだと思った。
読書は、彼女と僕との関係にも変化をもたらした。以前は映画や旅行の話が中心だった僕たちの会話は、今では本の話題が多くなった。「次はどの本を読もうか」と語り合う時間は、僕たちをより深く結びつける特別なものだ。
ある日、彼女が僕にこう言った。
「本を読んで、すごく強くなれた気がする。読書って、自分に戻れる時間なんだね」
僕が彼女に読書の楽しさを教えたつもりだったけれど、気づけば僕自身が彼女から新しい本の魅力を教わっている。趣味を共有することで、僕たちはお互いの新しい一面を知ることができたのだ。
今、彼女の本棚は僕のそれよりも立派だ。その一冊一冊に彼女の成長と変化が詰まっている。読書を通じて、彼女は孤独を恐れず、自由な時間を楽しむ術を学んだ。そして、そんな彼女を隣で見守る僕もまた、本を通じて新しい世界を見つけた気がする。
これからも二人で新しい物語を紐解いていくだろう。本のページをめくるたびに、僕たちの人生にも新しいページが加わる。それがどんな物語になるのか――今はただ楽しみにしている。
***
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