からだは人生の乗りもの ~ギックリ腰との対決
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:山内英治(ライティングゼミ平日コース)
「うぎゃぁーーー!&○#;△?$※!!」
「だ、だいじょうぶ??」
土曜の朝、妻と二人、1泊旅行の準備をしていた。食事をして着替えを済ませ、荷物をあらかたつめ終わっていた。そろそろ出発しなければというそのとき、私は突然に叫び声をあげて、その場に「く」の字になって倒れこんだ。
何の前触れもなかった。正確に言うと、大きなトカゲの形をした黒い影(かげ)が一瞬だけ見えた気がするが、そんな目の錯覚をあれこれ詮索するゆとりはなかった。横向きに寝た状態になったまま、そこから少しでも動くと、激痛が走る。
ギックリ腰である。
それまでに何度もギックリ腰になっていたが、このときの「発作」がもっとも激しく、何が起こったのか理解するのに時間がかかった。激痛が混乱に拍車をかけた。しかし、一歩どころか、ピクリとも動けないことがわかると、なぜか高速バスの時間に間に合うかどうかが心配になった。
「行っていいよ」
「え、でも……」
「……いいから行けー!」
激痛にたえることと、高速バスに間に合わないことの、重大さが整理できなかった。叫んだ勢いにおされて、妻は出かけていった。そのあと、食事はもちろんのこと、トイレに行くことさえできないことがわかって、妻をむりやり送り出したことを少し後悔した。
2ヶ月ほどたって、ようやく痛みがなくなってくると、私は筋トレに入った。
肉体は、生きものではあるが、機械のようなところがある。つまり、これだけのインプットをすればこれだけのアウトプットがある、ということがだいたい決まっているのだ。才能や年齢の差は当然あるが、「日本人の大人」ぐらいの広さでくくってしまえば大きな差がなく、努力の量が成果に比例するとても公平なシステムになっている。つまり、ライザップの宣伝にウソはないということだ。
機械なので、神様がつくったスーパーデリケートなクルマだと思えばちょうどいい。ときどき燃料を足さないといけない。走らずにずっとほっておくと調子が悪くなる。何キロか走ったらオイルを交換したり、タイヤがパンクしたら修理したりする。高価なオイルを入れたり、性能のよいタイヤにかえたりすると、ちょっと調子がよくなる。汚れたら洗車する。人にまかせることもできるが、自分でみがくこともできる。ワックスにもあらゆるバリエーションがあって、それぞれにその特徴を主張する。
からだにもクルマと同じように、あらゆるバリエーションの中から選んだプロテインを入れてみたり、いろいろなトレーニングマシンを試してみたり、トレーニング手法の本を買いあさっては読んでみたりした。トレーナーについてもらったりするお金は出せなかったが、妻が教材を探してきてくれた。「週1回30分3ヶ月で現役格闘家の肉体になる!」と題されたビデオ教材をみてやりかたを覚え、勤め先の福利厚生が使える安いジムに通った。
妻がみつけてきたその教材は、インナーマッスル、つまり、体の内側にある筋肉を重視して、インナーマッスルを鍛えると、外側のアウターマッスルが効率よくついてくる、という理論になっていた。具体的には、おなかとおしりと背中に力を入れて、機械やおもりを使ったいろいろなトレーニングを行う。
その教材に出会う前も、ジムには通っていた。同じトレーニングマシンを使ってやっていたのだが、いま振り返ると、まったく効果がなかったと言ってもよいぐらいである。効果はテキメンで、アウターマッスルにも変化が現れた。
そもそも、ギックリ腰対策なので、コシや背中の筋肉を強くしなければならない。まるでクルマのボディーに特製の柱を入れて補強するかのように、コシの筋肉を盛りあがらせる。
3年ほどが過ぎ、会社では昇進して仕事がキツくなっていたそのとき、再び「ヤツ」が来た。
やはりヤツはトカゲの形をしていた。長さは30cmぐらいか。大きくて太いトカゲの形だが、黒い影(かげ)だった。3mほど後ろに、7~8匹ほどが並んでいるのを感じた。そして、こちらに向かって、ジリジリじわじわと、距離をつめてくる。私はそれを止められない、逃げられない。ジリジリと近づいてくる。だんだんだんだんと寄ってくる。
「ガブッ!」
私のコシに、ヤツらは咬みついた。
「(ぐわー!!)……あれ??」
ヤツらは私のコシにかみついたままだったが、私は立っていた。
少し違和感はあったが、痛いというほどのことはなかった。
つまり、鍛え上げた筋肉が、ギックリ腰の発作にたえて、しのいだのである。
もちろんヤツらの存在に証拠はない。ただ、私はヤツらの攻撃ダメージを感じながらも、勝った喜びをかみしめていた。ヤツらの総攻撃を受けて、このからだは勝利したのである。神さまありがとう、私はこれからも負けない。
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