メディアグランプリ

私が愛したあの子は、薬物だったのかもしれない


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記事:庭田涼平(ライティングゼミ・4月コース)
 
 
※この記事は事実に基づいたフィクションです。
 
「……距離を置きたいと思ってる」
 
ある夜、当時の彼女がLINE通話で私にそう切り出した。
2年付き合った彼女と最近噛み合わないことが増えてきて、この状況をどうにかして変えなければ。
そう思い始めた矢先の出来事であった。
薬物乱用者が警察に逮捕される瞬間ってこんな感じなのかも、と思うくらい、別れを切り出された瞬間に心と身体が一瞬で凍りついてしまった。
 
彼女との関係の始まりは、SNSだった。
年下の彼女とSNS上でやり取りをしているうちに、実際に何度かお会いすることとなった。
対面する度に、彼女からの好意が沢山伝わってきた。
彼女からは人生で経験が無いくらい一方的に好かれ、やがてお付き合いをすることとなった。
自分の言う事を受け入れ、心から愛してくれる彼女との恋は、夢のような一時だった。
けれど今振り返ってみれば、夢のような恋は、扱い方を間違えると薬物にもなり得る、依存性の高いものだった。
当時は仕事が上手く行かず、彼女以外の逃げ道が無かった私は、彼女との恋にどっぷりとハマり、気がつけば深く依存していた。
そして、彼女に依存して変わってしまった私に見切りを付け、彼女は私の元から突然去っていった。
 
禁断症状という言葉がある。
これは、薬物やアルコールなどを減量・禁止した後に生じる身体的・精神的症状のことを指す言葉である。
特に、薬物の禁断症状は強烈であり、薬物に対する欲望との戦いは一生続くと言われている。
 
彼女が去っていってからの半年間は、彼女を断ったことによる禁断症状との戦いの日々であった。
元々やる気が無かった仕事では、さらに手と頭が動かなくなってしまい、会社に多くの迷惑を掛けてしまった。
身体へのダメージも大きかったようで、気がつけば細身の私が5キロも体重を落とした。
この状況から脱しようと思い始めた転職活動も失敗の連続。
禁断症状でボロボロの精神をさらに追い込むだけだった。
禁断症状に苦しむ今を変えようとして、心身に限界が来て動けなくなることを繰り返した。
 
それでも時間が経ち、些細なきっかけがいくつも重なり、恋の禁断症状から抜け出すことは出来た。
段々と彼女のことを思い出す時間は減っていき、代わりに新しい恋人に向き合う時間が増えていった。
今付き合っている恋人との時間は、決して薬物のような中毒性があるものではない。
その代わり、こんな感じでずっと一緒に過ごせれば良いか、と地道に着実な幸せを感じられている。
もし今の恋人がこの文章を読んでいるなら、今ちゃんと幸せなのでこんな文章を書いていることは大目に見て欲しい。
 
なのに。
ちゃんと幸せなのに。
かつて愛した彼女のことが心の中から完全には消えないのである。
彼女とヨリを戻すことは100%無いと分かっているのに、どうやっても彼女を消し去ることが出来ない。
まだ未練が残っているのか、一生忘れられないのか。
今向き合っている恋人の横で葛藤する瞬間が辛かった。
彼女の存在を自分の中から完全に消去しないと前に進めないのでは、と悩んでいた。
 
悩みの最中、私はある2人組のアーティストのライブに行った。
そのアーティストは体調不良でしばらくライブを休止しており、その日は休止明け最初のライブであった。
そんな2人が休止明けのライブに選んだ曲は、私が彼女と破局した直後に聴いた失恋ソング。
曲の前奏が始まった瞬間、身体が一瞬凍りついた。
また、あの禁断症状に苦しめられるのかと身構えた。
曲を聴いていて涙が流れてきた。
けれど、辛くはなかった。
彼女の記憶があるお陰で、その曲の歌詞が染み入った。
彼女のことを忘れられないお陰で、失恋ソングが好きになれた。
そして思い知った。
私は二度と彼女のことを忘れられない。
 
この一件を経て、私の中から彼女を完全に消し去ることは出来ないのだと理解した。
私は彼女のことを忘れることを諦めた。
過去2年間、彼女を乱用した私は、彼女を失った傷と一生付き合っていくしかないのだ。
この事実に気づいた途端、一気に楽になった。
むしろ、忘れられないことを活かして生きていった方が有益なのだ。
失恋ソングが大好きになった。
人生は思い通りにならないことばかりであることを心から理解できた。
今手元にある幸せが大事であると心から思えるようになった。
 
もしも、彼女との恋が本物の薬物だったなら、今のようにスッキリと前を向くことは出来ていなかっただろう。
禁断症状に苦しみ続けて、受け入れることが出来なかっただろう。
実際のところ、彼女は薬物ではなかったけれど、彼女を乱用した私の心から彼女の存在が完全に消え去ることは無いと思う。
彼女を失った苦い記憶を抱えながら、私はこれからも目の前の恋人を、日常を愛していく。
 
 
 
 
***
 
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2024-05-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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