READING LIFE

『LESS IS MORE』本田直之著《READING LIFE》


 

本田直之さんが提示する論点は、常に時代の最先端をいっております。

2009年に出版した『パーソナル・マーケティング』(ディスカヴァー21)で語られた、「パーソナル・ブランディング」という論点は、ようやく去年、今年になってフリーランスやノマドなどのキーワードとともに、本格的に浮上してきました。

ツイッターやFacebookといったソーシャルメディアが普及してきて、やっと時代が本田さんの見識に追いついてきた、と言ってもいいかも知れません。

この『LESS IS MORE』、「より少ないことは、より豊かなことだ」という論点も、まさに最先端にあるキーワードです。おそらく、世の中の方がこれに追いついていない。

高度経済成長期やバブルの時代ならば、経済に比例して、収入も右肩上がりで、ガツガツとした所有欲というものも実現可能だったでしょうし、同時に、それまでの何もない「飢餓」的な状況からの反動で、ある意味、日本全体がハングリーであったのでそうした傾向も時代に合っていたのでしょうが、今となっては、「頑張ってフェラーリに乗りたいです!」と自己表現するのは、とてもとても古い。まるで、おとぎ話の中の登場人物です。

そんな時代を生き抜いてきた人にとっては、一昔前に言われた「草食系」などは、なよなよし過ぎて我慢がならなかったでしょうけれども、本田さんはそれについてこう書いています。

ここ数年、モノを買わない、旅行にも行かない、恋愛にも消極的で元気がない「草食系」と呼ばれる若者たちの存在がクローズアップされています。そもそも、なぜそうした「草食系」が登場してきたのでしょうか。この現象は、私は日本人の「幸せの価値観」が変わってきた証拠だと思っています。

このあと、「新人類」と呼ばれた年代のことを説き、こう述べます。

そうしたかつての上司たちを尻目に、ダメだダメだと言われていた「新人類」の多くはポータブルなスキルを身につけ、この厳しい時代を生き残り、今や会社の重要な戦力となって活躍しています。それは、私たち新人類が時代の変化を敏感に感じ取り、自然に進化をしていったからでしょう。ちょうどダーウィンの進化論で、環境に適応できなかった動物が自然淘汰され、適応できたものだけが繁栄したように。

だから、私は「草食系」の若者たちをまったく否定しません。むしろ学ばなければいけない存在だと考えています。なぜ彼ら、彼女たちが物欲もよなく、しっかり貯金をして、ワークライフバランスやライフスタイルを重視しているのか。

そう、これも時代の変化を感じ取っているからにほかなりません。

「草食系」は、一般には、社会問題であって、ひいては国家の弱体化につながる危機だという論調が多くを占めているのに、本田さんは、これを時代の変化を感じ取っての「進化」だと結論づけています。

これは実に新しい考え方で、なんだか、すっと腹に落ちてきます。

前に来日したブータン国王夫妻に、日本中が注目し、喝采を送りました。それは、彼らの容姿がよかったという理由のほかに、ある種の理想を見たからではないでしょうか。ブータンは、国をあげて、国民幸福度を追求しているところです。

「いつまで経ったらこの不況から抜け出すのだろう」

と、多くの人が嘆きますが、そもそも、どの時点と比べての不況なのでしょうか。

高度経済成長期? それともバブル景気?

冷静に考えてみれば、その時の経済成長こそが異常だったといえるのではないでしょうか。

『LESS IS MORE』という論点は、形を変えて、他の多くの書物にもあらわれています。

先日ご紹介した、野口嘉則さんの『人生は「引き算」で輝く』(サンマーク出版)での「引き算」の論点もまさにそうですし、まったく違うジャンルと思われている江原啓之さんの『予言』(講談社)でも「足るを知る」という論点で、キーワードとして登場します。

そう、やはり、感度の早い人は、『LESS IS MORE』という論点がいかに重要であるかに気づいている。

また、本田さんはこの本において、「ワークライフバランス」から「ワークライフハピネス」に考え方を進化させるべきだとも説いています。

これも先日ご紹介した、小室淑恵さんの『ラクに勝ち続ける働き方』(幻冬舎)における「ワークライフバランス」から「ワークライフシナジー」への進化とも相通じるところがあります。

これからも続く、「働き方」のトレンドを考える上でも、この論点は、やはり、外せないだろうと思います。

 

働き方を考えることは、幸せのかたちを考えることでもあります。

 

そういった意味においても、この本を買わない理由が見当たりません。

 

*ぜひ、お近くの書店でお買い求めください。

 


2012-09-06 | Posted in READING LIFE, 働き方

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