キャバ嬢がおばさんに教えてくれたこと
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記事:山田 真知子(ライティング・ゼミ日曜コース)
「おつまみそっち足りてる?」
と、キャバ嬢に小皿を渡されたことがある。
「こっちは足りてるよ」
と、返すと
「……キャー!!すみません!本当にすみません!」
どうやら、キャバ嬢の同僚だと思い込んで、私におつまみセットを渡してしまったようだ。
ニヤついて「お決まりの質問……」 と言わんばかりのまなざしをこちらに送る社長。
飲み友達である社長の会社の飲み会にお供すると、最後は決まってキャバクラコースだ。
女性である私もキャバクラへは5回程いったことがある。
煌びやかで現実離れした店内。綺麗に着飾った美しい女性たち。最高の笑顔と心遣いで接客する。
「まさにここは、仕事で疲れ癒されたいと思っている男性たちのオアシスそのものではないか!」 と、接客業未経験の私はキャバクラに行くたび心から感心する。
私はキャバ嬢として働いたことはない。
なのにどういう訳か、キャバクラに行くと必ずキャバ嬢に聞かれることがある。
「前にキャバクラで働いたことありますよね?」
「昔はどこで働いていたんですか?」
「何年くらいやってたんですか?」
大抵、働いていた前提での質問だ。同じ店で3回聞かれたことすらある。
キャバクラで働く女の子達に偏見はないつもりだ。ただ、生粋の昭和世代の両親に育てられた私は自分が「水商売」というジャンルの仕事をするのに少し抵抗がある。
初対面の人に「この人はキャバ嬢だ!」と決めつけた質問を、ためらいもなくぶつけられるたびに、「世間知らずで、めちゃくちゃお金に困ってて、男性にだらしない女性に見えます」と言われているような気がして、あんまりいい気はしなかった。
あるお店に行ったとき、目に余るダメキャバ嬢に出会った。
ダメキャバ嬢は「ビール飲みたい!ここで一番エライの誰―?」 キャバクラという夢世界をぶち壊しながらやって来た。
怪訝な表情をする社長。品の無い無礼な女性が大嫌いなのだ。
社長の隣に座りビール飲みたいと騒ぐダメキャバ嬢。困惑する同僚キャバ嬢。見て見ぬふりのボーイ。
この状況に助け船はこない。
誰も了承していないのに、勝手にビールを頼み、一人で乾杯&カラオケのダメキャバ嬢。
最悪なワンマンショーである。
気付いたら、社長はトイレに避難していた。
さすがに戻ってきてもらわないと困るので、言いたくなかったけどしぶしぶ退去通告を出した。
「あなたもうここはいいから、あっちの席いって」
自席から追っ払うことに成功。
「はいはい」
人にごちそうになった(正確には勝手に頼んだ)ビールを2口飲んだまま置きっぱなしで、最後まで失礼なお土産を残していくダメキャバ嬢。
戻ってこない事を祈っていると、隣のキャバ嬢がこそっと
「ありがとうございました」
「大丈夫!大丈夫!」
「お姉さん、キャバクラで働いていたことありますよね?」
このタイミングでお決まりの質問がぶつけられた。
しかし、不思議なことにこの時はちっとも嫌な気持ちがしなかったのだ。
この時初めて「キャバクラで働いていたことありますよね?」 と言うのは、キャバ嬢からの褒め言葉だったのではないかと思ったからだ。
私がダメキャバ嬢を遠ざけたのは「一緒に行っている社長含めメンバーと嫌な思いをせず、みんなで楽しく飲みたい」 と、いう気持ちからとった行動だし、同僚キャバ嬢たちも「楽しく飲んでいってほしい」という根本的なところは変わりないはずだ。
ダメキャバ嬢の行動は、だれが見ても、雰囲気をぶち壊していたことは明らかで、男性客、同僚キャバ嬢、ボーイの中で誰一人として助け舟を出せていない中、客なのにためらいなく仕切った私が先輩キャバ嬢のように見えてで称賛を送ってくれているのかもしれない。
さすがに、ポジティブに解釈し過ぎかとも思うが、思い返してみれば、お決まりの質問をされるときは必ず、
「社長の飲み物がないので作ってもらっていいですか?」
「私はいいので、○○さんの隣にいってもらっていいですか?」
「○○さんは水割じゃなくてお茶をお願いします」
などとキャバ嬢にお願いしていた。
原因はこれだ。けなされていたのではない、称賛してくれていたのだ。
私はキャバ嬢に対して偏見はないと思っていたが、お決まりの質問「キャバクラで働いていたことありますよね?」を、だいぶ曲がった形でとらえていたのかもしれない。
接客のプロからいただく賛辞「キャバクラで働いていたことありますよね?」 は、「プロが認めるお気遣いありがとうございます」 ということなのだと勝手に解釈し、ひそかにうれしい気持ちになり、褒めてくれたことに感謝すらしている。
私も世の男性たち同様に、キャバ嬢の魅力にまんまと惹きつけられていた。
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