60点が僕のボーダーライン
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記事:ハル(ライティング・ゼミ平日コース)
「今日も、居残りだ!」
馴染みのセリフ。もちろん、それは自分にとって。そして、周りの生徒にとっても。
今日もいつもの流れだ。授業の後、決まって先生に呼び出される。早く帰りたいのに、放課後の居残りはもう日課になっている。
高校に入ってからは、何に対しても前向きになれず、何かに全力で打つ込むことも特にない。高校を選んだ理由も、なんとなく校則が自由なこと、家から通いやすいことだけで、
大学に進学しようとも思っていなかったし、部活に力を注ごうとも思っていなかった。
「成績も下から数えて……どんどん100番ずつ下がっているぞ」
当たり前の話だ。そもそも勉強を全くしていないのだから授業についていけるはずがない。
ながいながい授業時間。つまらない教科書の暗記は、苦行以外の何物でもなかったし、どうしてみんな何も言わずに黙々とやっているのがわからない。なんで自分はここにいるのだろう。毎日窓から遠くを眺めていた。外から見える生き生きとしている生徒がちょっぴりうらやましかった。
興味がわかないので、授業内容が頭に入らない。頭に入らないから授業にもついていけない。そして、ついていけないからやる気もどんどん低下。負のスパイラルから抜け出せない典型的なダメな生徒。
惨めで、見事な落ちこぼれ。
ブルーハーツの『劣等生』がピタリとはまる。
「居残りメンバーは毎回同じメンバーだな。それでは、今日の放課後の補習も100点満点を目指して取り組んでもらいたい。合格ラインは60点だ」
100点なんて取れるわけがない。スマホを使っても、たとえカンニングをしてもたぶん取れないだろう。及第点は60点。普通に授業に参加している生徒だったら楽に突破できる点数だけれども。今の自分にとっては、毎回60点のボーダーラインはつらい。しんどい。たまらない。
60点を取るのは本当にムズカシくて大変だ。毎日がつらい日々で、何事からも逃げてばかりの自分。
そんな高校生活は、今となっては懐かしい。
「今日も、居残りしよう!」
高校卒業後、都内のベンチャー企業に就職した。高校の勉強には最後まで興味を持てず、学問よりも実学を学びたかったからだ。と、当時は言い訳のように自分に言い聞かせながら、とりあえず就職した。
しかし世間知らずの無知な僕は、ここでも自分の実力の無さを痛感した。毎日罵倒された。当たり前のことさえできていない。何をやっても全く役に立たない自分がいた。ここでも、圧倒的な劣等生。高校時代と全く一緒。全くダメダメな社会人としてスタートを切った。
でも、高校時代との違いがひとつだけあった。
ビジネスの勉強をしよう。
高校時代は興味のなかった勉強も、ビジネスの世界では全く違って見えた。教科書もない。ルールもない。何もないところから自分で考えて行動する。毎日が今までの自分では考えられないほど、不思議と楽しくて仕方がなかった。
そして、行動した結果が目に見える形で自分に跳ね返ってくる。どんなに遠くに逃げて、どんなに巧みな言い訳をしても、すべて自分に返ってくる。
この時、はじめて人生が「じぶんごと」になった。
「ベンチャーで仕事をやっていくためには、100点を目指してはダメだ。60点を目指してやっていく」
朝礼で社長が言い放った言葉。
そうか、たった60点でいいんだ。100点満点はいらない。完璧じゃなくて全然いい。人生で、100点満点なんてとったことはなかったけれど、不思議と肩の力が抜けている。
通常の業務が終わった後も、自主的に居残りして、自分には何が足らないのか、足らないことをひとつひとつ潰していった。誰から言われるわけでもない。自分から率先して勉強していった。わからないことは、毎日毎日先輩にしつこいくらいに質問しまくった。たぶん、うざいやつだと思われていたかもしれないけど。
いままでのウップンを晴らすかのように、むさぼるように本を読んだ。めちゃくちゃ読んだ。渇いたスポンジのようにどんどん知識を吸収していった。
何よりも勉強することが楽しくて仕方がない。そうか、勉強って楽しいんだとこの時、生まれはじめて思った。
高校時代の及第点が60点。そして、仕事の及第点も同じ60点だ。仕事の60点も確かに大変だけれども、気がつけばいつも自然にクリアしている数字だった。つらくらい。しんどくない。ちょっと物足りないくらいだ。
自分は独立して自分の会社を経営している。あれだけ60点を取るのが辛くて大変だった10代も、楽しみながら60点をクリアしていた20代も、点数としては同じ60点。
そして、今でもこの60点を僕は目指している。100点満点ではない、前向きな60点。いまでも60点が、僕のボーダーラインだ。
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