私の仕事は錬金術師
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記事:おしごと社長(ライディング・ゼミ日曜コース)
「お父さんは何の仕事をしているの?」
幼稚園の年長になったばかりの息子がキラキラと目を輝かせながら質問してきた。
「毎日ご飯が食べられるのも、お父さんが仕事をしているおかげよ」と奥さんから言われて、私が何の仕事をしているのかに興味を抱いたようであった。
「営業だよ」と答えても、おそらく息子の頭の中には「エイギョウ? ポケモンが仕事なの?」という疑問が浮かぶだけで、何も伝わらないだろう。
仕事の内容を的確に掴みながら、幼稚園児の息子にもわかる言い方はないかなと考えていたら、面白いアイディアがひらめいた。
息子が観ているアニメの登場人物になぞらえて、「錬金術師だよ、金に変えるのがお仕事なの」と、息子からの質問に答えた。
「お父さんの仕事は錬金術師なの! かっこいいね!」と、息子は少し誇らしげな表情をしていた。
アニメに出てくる錬金術師のキャラクターとお父さんがオーバーラップしたのであろう。
ただ、大人から同じ質問をされて、「私の仕事は錬金術師です」と答えたら、あやしい人に思われるだけであろうが、意外とこの言い方は的を射ているのではと感じた。
というのも、営業の仕事は、錬金術師がやっていることと本質においては同じだと気がついたからである。
長い修練を経て錬金術をマスターした者は、その術を使って鉛でも鉄でも「金(きん)」に変えることができるという。
営業マンは、営業術を駆使して、自社の商品という限定にはなるが、商品を「金(かね)」に変えるのが仕事である。
だが、錬金術師も営業も名乗ったその日から、そうなれるわけではない。
錬金術にしろ、営業術にしろ、習得にはその道のプロについて学び、長い時間をかける必要がある。
一朝一夕にはいかない点も両者はとても似ていると思う。
そして、私が錬金術師と営業マンがもっとも同じだと感じている点であるが、いずれも「大いなる存在のことば」を聞くことが不可欠である。
錬金術師の場合、いくら鉛を金に変える方法を知ったとしても、物質を含めてこの世のすべてを創造した大いなる存在、つまり神のことばを聞かなければ、錬金術は術として成り立たないという。
営業の場合にも、大いなる存在のことばを聞くことが欠かせない。
営業の世界での大いなる存在といえば、お客さんのことであるが、このお客さんに聞かない者は、どのような営業術を知っていたとしても、商品が売れることはない。
つまり、お客さんの声を聞くことが営業の仕事の本質といえよう。
「営業の仕事は錬金術師である」という捉え方は、子どもの質問をきっかけに発見したものであるが、実はなかなかに気に入っていて、その日以来ずっと採用している。
なぜなら、営業の仕事を的確に表現している言い方であり、実際に錬金術師として営業を捉えてから、成績も変わってきたからである。
営業の世界では、同じ肩書きでも、成果を出せる人と出せない人とに分けられる。
そして、この二人の違いは、何をどのように取り組むのかの「行動」の差から生じている。
そして、行動の差は「思考」の違いから生み出されており、思考は「自分は何者であるか」というセルフイメージに影響を受けている。
つまり、営業で成果を出している人は成果が出るセルフイメージを持っており、成果を出せない人はそのようなセルフイメージを持っているのである。
営業に対する一般的なイメージは「商品を売る人」であると思うが、もし、営業マンがこのイメージをしていたら、営業成績はあまり芳しくないだろうと思う。
自分がイメージしているとおり、お客さんの声を聞くよりも、売るために自分や商品のことを話しがちになるからである。
誰でも、自分の話を聞かず、理解もしようとしてくれない人から物を買いたいとは思わない。
もし、メガネ屋さんに行ったときに、いきなり店員が自分のかけているメガネはよく見えるからと、それを売りつけてきたら、「いやいや、待ってくださいよ! あなた(店員さん)と私の視力はそもそも違うでしょ!」と、突っ込むことであろう。
これは作り話ではあるが、実際の営業の現場では、このようにお客さんのことにはあまり関心を払わず、お勧めだからと、いきなり商品を押しつけてくる人は意外と多い。
逆に錬金術師のように、お客さんである私のことを大いなる存在と認めて、こちらの話に敬意を払って聞いてくれる営業マンがいたら、その人から物を買いたくなるものである。
私は営業の仕事をしているので、営業の仕事を錬金術師になぞらえたが、どの職種でも自分の仕事を別の何かに言い換えてみると、本質が見えてくるのではと思う。
自分の仕事をどのように意味づけるかで、思考が変わり、思考が変わるので行動が変わり、結果、成果が変わってくる。
そして、成果が変われば、自分の仕事は楽しくなるし、楽しく仕事をしている人が増えれば、社会はもっとよくなると思う。
今日も私は錬金術師として、営業の現場に向かおう。
お客さんの困った顔が笑顔に変わるという、かけがえのない瞬間に立ち会えるのを願って。
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