メディアグランプリ

15年ぶりの「アイデン&ティティ」


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記事:吉野樹理(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
「あの時感じたことと全然違うことを感じるなあ……」
本や映画、漫画を読んで、昔と感じ方が異なることに気付くことがよくある。高校生や20代の頃は全く感動しなかったのに、現在の自分がものすごく感動する時はなんだか嬉しくなる。高校時代から大好きな本を読んで、毎回同じ所で号泣する自分は恥ずかしくもあり、好きでもある。本や映画、漫画は自分の人間としての「成長度合い」と「変わらない部分」を自分に見せてくれるところも醍醐味の1つだと私は思っている。
 
ある時テレビを見ていたら、銀杏boyzの峯田和伸がトーク番組に出演していた。
その番組で、主演映画の紹介があったのだが、驚きの事実を知った。私は彼の初出演にして主演映画の「アイデン&ティティ」を26、7歳の時に観ていたのにも関わらず、峯田和伸が主演していたということが記憶から抜け落ちていた。そして、ヒロインが私の好きな女優の麻生久美子であることも全く覚えていなかった。出演者は私の好きな俳優ばかりで、主演とヒロイン以外、しっかり覚えていたのに。
脚本は宮藤官九郎。この面子で面白くないわけがない! と喜んで観た。でも、映画を観た感想は、残念ながら「なんじゃこりゃ? この映画、意味分かんないな」だった。そんな訳で、映画内容は全く覚えていなかった。
 
あまりの記憶の抜け落ち様に驚き、映画好き、にわか峯田和伸ファンとしてこれはあるまじきことだと思い、私はもう一度「アイデン&ティティ」を約15年ぶりに観ることにした。
確かに、峯田和伸が現実と理想の狭間でもがく不器用な主人公を演じていた。麻生久美子演じる大好きな彼女がいるのに、不安や寂しさから逃避するために誰とでも寝てしまうダメダメな男で、ロックバンドで成功したいけれど世間から求められることは自分がしたいことではなくて、周囲と衝突してばかり。でも最後、渾身のロックで聴衆の心をつかみ、やっと自分の道を見つけることができる青春映画だった。
15年前は峯田和伸演じる主人公の行動が全く理解できなかった私だったが、今回観終わった感想は、「これは、傑作だ!」だった。自分の変化を感じて、嬉しくなると同時に、どうして感動できるようになったのかを考えてみた。
 
15年前もそれなりに悩み苦しんで毎日生活していたけれど、私は優等生な人生を送っていた。恋も仕事も真面目に頑張って爽やかに過ごしていたと思う。そんな優等生だったから、不器用にしか生きれない人を理解できなかったし、理解しようともしていなかった。世間一般にダメな奴と言われる人たちを言葉通りにただ、ダメな奴としか見ていなかったのだろう。そんな私に人間の汚さとそれでもひたむきに生きるメッセージを伝えているこの映画を理解できるはずがなかったのだ。
今、理解できるようになったのは、自分が優等生な人生から、けっこう外れてしまった
からだと思う。
40歳を過ぎても独身。親に甘えて実家暮らし。仕事はなんだか面倒くさくて週3回の短
時間社員から抜け出せずにいる。貯金も少ない。仕事は専門職だけれど、本当に自分に合っているのか未だによく分からない。仕事は楽しい瞬間もあるけれど、自分のやりたいことを本当にできないことが多くて、ストレスが溜まる。職場の管理者たちは保身ばかりで理事長のご機嫌取りに夢中で部下の言うことを取り入れないバカしかいない。だったら今の職場辞めて自分のやりたいことをできる環境に身を置けばいいのだけれど、そんな勇気もない。要するに、不満ばかり溜めて思い切って行動できないダメ人間が、今の私なのだ。爽やかの正反対。そんな私だから、この映画は深く突き刺さったのだろう。
 
 でも、今の自分に満足はしていないけれどそんなに嫌いなわけでもない。少し道に迷うのに遅い気もするけど。人生の折り返しに来てやっと目覚めた気もする。ダメ人間だからこそ色々理解できる部分があり、ダメ人間だからこそ自分の中にある真実を隠さず探ろうとするのだ。このダメダメ人生経験がこれからの自分の土台となるように。「アイデン&ティティ」の主人公のように自分の道を見つけられるように。本と映画と漫画を片手にこれからも人生を耕して生きていきたい。

 
 
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2018-07-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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