その扉が温度差をつくるのか
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:藤牧誠(ライティング・ゼミ平日コース)
「また皆で、ラグビーやりたいよね!」
高校ラグビー部OBのLINEでのやりとりの話である。
「そうだね、あの頃みたいにやりたいよね!」「今度飲み会に先生も呼んで話をしようよ!」
「いいね、いいね」などと、勝手に会話がどんどんと盛り上がっている。
私はその会話の盛り上がりが高くなっていくのにつれて、「ラグビーやりたいぞー」という熱は、どんどん下がっていくのだ。
今度は冷静に、「痛いこと嫌だな」「ケガしたら皆仕事どうするの?」と、ネガティブな発想が次から次へと頭を過ぎっていく。あきらかに温度差があった。
それは決っして、言葉に出してはいけない、とわかってはいるが、どうしても喉元までその言葉が出かかっている。ここで「フジマキもやりたいよね?」 と聞かれたら恐らくネガティブ発言をしただろう。そしてLINEの画面を閉じた。
いい年したおじさん達が何を言っているのか……
確かにあの頃みたいに、ただ、ボールを追いかけていた時とは、今は状況が違う。しかし、不思議とその年代、その時代の友人と会ったり、話をしたりすると、あの懐かしい青春時代にタイムスリップする。そのままの勢いで運動をしたりすると、自分のカラダが「老化」あるいは「退化」しているのも気づかない。ケガをしたり、数日間は筋肉痛に悩ませられることは確実でもある。
また、無理をして、ヒイヒイと苦しそうに走る姿を若いころみていたこともあり、「ああいう風には絶対に、なりたくないな」「あんなになってでも楽しいの?」などとも思っていた。
普段なにもしていないからわかる。絶対に、あのときに見たおじさん達になると。
やるからには、完璧に30分ハーフをフルに走りきりたい。でも10分や15分でも今はフルに走るのは無理だ。5分がやっと。
彼らは高校3年間のみ部活でラグビーを終えた人ばかりだ。
私は縁があり、進学、そして社会人までの10年間はケガでリタイヤするまで続ることができた。私も3年間のみで終えていたらきっと、彼らと一緒になって、無邪気に「みんなでラグビーやりたいよね」と、素直に返信できたのかも知れない。
その間には10年間続けたという変なプライドが見え隠れしている。もう必要のないプライドなのに…… 彼らよりも長くプレーしてきた、というプレッシャーがあったのかも知れないし、かっこよく見せないと、という意識もあったり、勝手に妄想ばかりひろがり、素直に楽しめない。
彼らはそんなことを決して求めてはいない。そんなことも忘れて、ただ、あの楽しかった時間に戻りたかっただけなのかなと。
無言の抵抗をして、なんだか申し訳ない気がしてきたのだ。
今まで勤めてきた職場でも立場によっての温度差があった。と、いうよりむしろ自分自身で見えない壁とか扉を作っていたのではないかと。
「あなた達と私は少し考え方が違うのか、どうしたらあなた達はがんばってくれるのかな?」
治療院のオーナーがポソッと、2人きりの部屋でこぼした。確かにオーナーと、我々の関係性は良好であるとは言えない。いつもオーナーに、我々は振り回されている感じもあるので、オーナーの話になると、皆、愚痴をこぼしていた。私もその一人である。
オーナーの言っていることも、分からないわけでもないが、「今の仕事が、いっぱい、いっぱい、じゃないんですかね」「それか、今の仕事のペースを崩したくないとか」オーナーはそんなことでは、納得していないし、益々、機嫌を悪くしてしまったようだ。
「フウッー」と軽くため息が聞こえる。きっとオーナーも気づいているのかも知れないし、どうにかして欲しい気持ちもあるのかも知れない。そんな気持ちも気づくことなく、私は心の扉を開けなかった。
オーナーはコピー機の営業をしており、バブル期には売り上げ成績が良く、その勢いに乗り自分で会社を立ち上げた人だ。なにより今も、現役のバリバリの営業マンだ。
そんなオーナーが求めるものは数字。その答えにもならない皆をかばった返事をしてしまう。そんなことを聞いていたのではないと、後から考えると申し訳ない感じだ。
今もなお、その状況が変わることがなく、一日が「流れ作業」のように今日も過ぎていく。
何とかしたい気持ちもあるが、変わることを、失敗することを恐れるあまりに、まだ行動ができていない……
扉一枚の差は大きい。
その扉は重厚な鋼鉄で出来ているようでもあるし、本当は障子紙1枚の軽さや、薄さなのかも知れない。その扉に触れてみて、押したり、引いたりと実際やってみないと分からない。案外簡単にスッツーと開いてしまうのかも。仕切られた扉を開けることで、温かい空気が入ってきたり、冷たい空気が入ってきたり、温度もちょうどいい快適な温度になる。
心の温度調整も、こんなに簡単に出来れば便利ですよね、きっと。
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