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人生で初めて


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記事:山田 楓(ライティング・ゼミ木曜コース)
 
 
人生で初めて、1人で美術館に行った。
 
平日の午後2時。
電車と徒歩を合わせて約1時間かけ、目的の美術館にたどり着いた。
やっとの思いでたどり着いて、まず驚いた。
当日のチケットを買うために長い列ができていたからだ。
どうやら私が想像していたよりもその展示会は人気があるようだった。
人混みを避けるためにあえて平日の昼間を選んで来たというのに。
しかも並んでいるのはご年配の方々のグループばかりで、
大学生の私が1人きりでその列に並ぶのはかなり勇気がいった。
 
「私は場違いかもしれない」
 
そんな思いが頭をよぎったけれどスマホで音楽を流し、
イヤホンを耳にぶっさして気を紛らわしながら、何とかその列を並びきり
展示会のチケットを購入して美術館の中に入った。
 
その展示会のテーマは「あお」だった。
作品の中にある青色がとても美しく、目を奪われた。
時間を忘れて、作品に見入り、空間に没頭した。
何で今まで時間のある学生の内に積極的に
美術館に足を運ばなかったのかと後悔した。
 
それと同時にふと思った。
何で自分は時間をかけてわざわざ美術館に行こうと思ったのだろう。
何にそんなに惹かれたのか考えた時に一つの答えが出た。
 
「そうか、私の好きな色は青だったんだ」
 
私は子どもの頃、青色が好きだった。
好きな色は何かという話になったら青と答えていたし
持ち物にも青の物が多かったように思う。
 
でも、年を重ねるにつれて
女の子は青色じゃなくて赤やピンクが好きじゃないと
いけないのかもしれないと思うようになった。
 
そう例えばランドセルを買うときに。
私が小学校1年生になる頃には、黒と赤の他にも
水色やオレンジなど、色のバリエーションが増え始めた時代だったけれど
女の子は赤やピンクの、男の子は黒や青のランドセルを買うという
暗黙のルールがあった。
親も子どもがランドセルの色で子どもが仲間はずれにならないようにと
無難な色を選ぶ傾向にあったと思う。
実際、同級生の友達のランドセルの色もほとんどがそんな感じだった。
 
私は青が好きなのに。
どうして女の子の物には赤やピンクの物が多いんだろう?
青が好きな私は男の子っぽいのだろうか?
青が好きなのってダメなことの?
赤やピンクを好きにならないといけないの?
 
そんなことを子どもながらに思っていた。
ひねくれた子どもだったな、とも同時に思う。
 
「女の子だから」
そう周りの人に何度も言われて私が出した答えは
青が好きだと全面的に押し出してはいけないということだった。
みんなと同じにしなくちゃいけないということだった。
 
自分はどうしたいか、じゃなくて
みんなはどうしているか、を気にすることが多くなった。
 
それから中学生、高校生と思春期を経てさらにその思いは増した。
持ち物には女の子らしいものを選ぶべきだと思っていた。
その頃好きな色は赤色と答えるようになっていた。
どうしてもピンクだけは好きになれなかったけれど。
ただみんなと同じであることが必要だという思いはいつもあった。
 
どうやら青が好きだという思いは、自分の中で無意識に抑圧されていたらしい。
 
女だからとか、男だからとか、
女の子だからこうあるべきで、そんな男っぽい行動をしてはいけないとか、
そんないわゆる社会の常識を学びながら今まで生きてきた。
 
でもやっぱりこう思う。
 
「そんなの自由でしょ?」
 
何で性別で行動を決められなくちゃいけないの?
何でみんなが好きだからって私も好きだと思うの?
どうして社会が求めているように行動しないといけないの?
そこに自分の意思はあっちゃいけないの?
 
「私は、本当は、どうしたいの?」
 
自分の声に耳を傾ける練習を怠るとどんどんその声は小さくなっていく。
でも自分の声に耳を傾けて、自分がしたいように行動することは
とても難しいことなのだ。
それは自分がどうしたいかの前に、こうあるべきだという理想が
すでに世の中には存在するからだ。
 
でも、ときどき、時々で良いから
世間や社会、親や友達を主語にして道を選択する前に
自分を主語にして道を選択してみることも必要だと思う。
 
まずは自分の声を選んでいるつもりが、
周りの声を選んでいることに気がつかないといけないのだ。
 
年を重ねるにつれて、大人になるにつれて、
常識を知って、社会に適応していって、
自分はどうしたかったのかが分からなくなる。
そもそもそこに自分の思いは存在していたのか、
初めから存在していなかったんじゃないかという考えにさえ
襲われることもある。
 
ある時は社会の意見に合わせた方が楽だし、
そもそも自分の思いは周りと同じだし、と
見て見ぬふりや考えないふりをすることもいくらでもできる。
 
でも自分はこうしたい、という思いを持つことはすごく大事だと思っている。
周りと違う自分でもたまにはいいじゃないか、と気楽に考えたい。
 
 
その日私は、記念に1枚のポストカードを買って美術館を出た。
自分が好きな青色の絵のポストカードを買って。

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2018-10-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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