チーム天狼院

好きだったキャラクターを憎んでから


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:鈴木萌里(チーム天狼院)
 
「プーさんみたいやな」
社会人の彼に横腹をつっつきながらそう言われたのは、今年4月のとある日に居酒屋で晩ご飯を食べているときだった。
私はその頃就職活動真っ只中で、その日もちょうど就活帰りのスーツ姿だったのを覚えている。
彼が住んでいるのは隣の県なので、就活中はタイミングが合うときにしか会えない。
だから、二人でご飯を食べに行く際にはちょっとレアなイベントみたいな気分だった。
 
この日も楽しみにしていた。
就活は大変だったけれど、たまに時間が空いてこうして二人でご飯に行くのが、自分にとって癒しの時間だったのだ。
 
それなのに。
 
「プーさんみたい」
 
と私の体型を形容した彼は、どこか楽しそうで。
あの、黄色くてふわふわして丸っこい、見た者にたちどころに癒しを与えてくれる人気キャラクター。
私も大好きなキャラクターであり、高校の卒業旅行で初めて某テーマパークに行ったときには、専門ショップで多くの愛らしい商品に目移りした思い出がある。
 
だから、彼にとってその言葉は非難なんかじゃなく、ただなんとなく私のその時の状態を言い表しただけなんだろう。
というかむしろ、「プーさんみたいで可愛いからそのままでいいよ」という意味なんだ、きっと。
 
そうとは分かっていながら、私は「プーさん」という言葉にぴくっと引っかかって、「それどういう意味〜?」とわざと拗ねてみせたりもした。
それでも返ってくる返事は、「ええやん、プーさん可愛いやん」という気の抜けるような答えだけだった。
 
まあ、確かに。
お腹周りに余計な肉がついているのは自覚していた。
うん、認めよう。認める、けど。
 
「それってデブってこと?ひどい……」
 
「いや、だからちゃうって。プーさん可愛いやん」
 
何回もこんなやりとりをして、彼が私をけなしているわけではないことは自覚した。
でもやっぱり。
あの丸っこいクマのキャラクターに喩えられてしまったことが、胸の奥にずっと引っかかってしまった。
 
 
そこから始まったのだ。
私の就職活動とダイエット奮闘期が——。
 
 
どうやってダイエットしよう。
まず思ったのが、ダイエットの方法だった。
体重を減らしたいというならば、当然最初に考えなければならない問題だろう。
一日三食バランスのとれた食事をとって筋トレや運動をする、間食はしない、というのが常套手段だ。
最近ではダイエットアプリなんかもたくさんリリースされていて、ダイエットするのに申し分ないツールは整っている。
 
けれど、ここで障害になったのが就職活動だ。
いかんせん就活中はストレスが溜まる。二十数年間生きて来た中で一二を争うほどのストレス。ストレスを発散させるために食べてしまう。
そして、あまりに時間が足りない。これは言い訳にすぎないが、朝から晩まで張り詰めた精神状態で企業の採用面接やグループワークをしてへとへとになった後に運動をしにいく、というのは、普段から運動をしない自分にとってかなり酷な選択だった。
 
さあ、どうしよう。
ストレスで食べたくなる。運動もできない……。
これは、困った。
楽してダイエットしようなんて気はさらさらなかったが、精神を追い詰めてまで減量できる自信はない。
だけど、どうしても痩せたかった。ダイエットして、「プーさん」という言葉を撤回させたかった。そこに一切の悪気がないとしても、私だってダイエットぐらいできるんだからって見せつけたかった。
 
なんとかしたい、なんとかしよう。
藁にもすがる思いでスマホを手に取り、アプリの検索画面を表示させる。
 
ダイエット 管理
 
それっぽい適当なワードを入れて、検索。
表示された検索結果の画面をゆっくりとスクロールしていくと、とある単語が目に飛び込んできた。
 
「あ、これ……」
 
見つけたのは、「レコーディングダイエット」という文字。
聞いたことはあった。確か、一日に食べたものの料理名と、カロリーを記録していくというダイエット方法だ。こうした摂取カロリーだけでなく、運動で消費したカロリーや日々の体重を記録することもできる。
 
「これならできるかも」
 
記録するだけなら、時間がない今の自分にもできる。
幸い、日記をつけたり家計簿をつけたりといった継続力のいる作業を続ける自信だけはあった。
だからこの方法が、自分にとって一番有効な手段ではないかと確信したのだ。
 
アプリをダウンロードしていざダイエットをしてみると、不思議なことが起こった。
初めは「記録をつけるだけで痩せるってどういうこと?」と、その効果に半信半疑だったことを認めざるを得ない。
しかし、だ。
実際に記録をつけてみてわかった。
一回の食事を普段通りにしていれば、余裕で制限カロリーを超えてしまう。
だから、「今日の食事はこれくらいにしよう」「牛肉じゃなくて鶏肉にしよう」「パンは腹持ち悪いし高カロリーだから、お米を食べよう」と意識的にカロリーが少ない食事に変更するようになった。
食事の量が少しずつ減っていくと、胃が縮むため、必要以上の食欲もなくなった。
 
「これはいける」
 
そう確信した私は、それから毎日毎日、食べたもののカロリーを記録した。
時には休憩日をつくって食べたいものを食べる日も設けた。
 
こうしてダイエットを始めて4ヶ月。
夏休みに実家に帰ると、母に「あんた痩せたわね」と言われ、体重を測った。
信じられないものを見た。
デジタル体重計に表示された数字は、4ヶ月前から−4kgの数値だったのだ。
母の前では、「夏だから食欲が減った」と理由をつけたが、内心は飛び上がって喜びたい衝動に駆られていた。
 
帰省から現在住んでいる街に戻って、約2週間ぶりにゆっくりと彼に会える日があった。
母のように数ヶ月ぶりに会うというわけではない。
でも、なんとなく、予感していた。
 
「痩せた?」
 
彼が、私を見てそう言ってくれること。
 
「そう見える?」
 
私、痩せたのかなあ、やっぱり夏痩せかなあと、さも不思議がっている様子を見せて。
 
「うん。お腹周りが、特に」
 
本当は頑張ったんだ、頑張ったんだよ。
口にはしなかったけれど、心の中で小さくガッツポーズした。
 

***

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