『成功はゴミ箱の中に』レイ・クロック/ロバート・アンダーソン著《READING LIFE》
この本が数年前に発売され、ベストセラーになっていたことは知っておりました。
ただ、読もう、読もうと思っていながら、後回しになっていました。
今回、『成功はゴミ箱の中に 億万長者のノート』が発売されたというので、いい機会だと思って読んでみたらー
今までこの本を読んでいなかったことを、心の底から後悔しました。
マルチミキサーのセールスマンをしていたレイ・クロックは、信じられないくらい繁盛しているハンバーガーショップがあると聞いて、当初はマルチミキサーをおいてもらうために、セールスに行きました。そこが、マクドナルド兄弟の店だったのです。
最初はシェイクを一度にたくさん作れるマルチミキサーを売り込むためにいったレイ・クロックでしたが、その店を見て、考え方が変わります。チェーン展開を思い立ったのです。
私と組んで、チェーン展開しませんか。そう口説くレイ・クロックに対して、マクドナルド兄弟はこう言います。
「あそこに、大きな白い家を持っているんだ。広いフロントポーチ付きのね。すごく気に入っている。ふたりでポーチに腰掛けて、夕日を眺めたり、この店を見たりしながら、幸せを実感しているんだよ。これ以上、何を望むというのかね? 私たちは、いま十分に満足しているし、これ以上、何も欲しくはないのさ」
たしかに、それはそうかもしれない。けれども、52歳のレイ・クロックはそれまで多くのビジネスを体験していたので、この店をチェーン展開すれば、大成功すると直感的にわかっていた。それなので、自分がリスクを取ってやろうと宣言して、結局、マクドナルド兄弟は折れることになる。
普通に考えれば、52歳からのスタートは、とても遅いように思えます。けれども、それまでの半生記の蓄積があったからこそ、レイ・クロックはマクドナルドを現在のような世界的企業に成長させることができたのだと僕は思います。
もし、その日、マクドナルド兄弟の元に現れたのが、30歳のレイ・クロックだったなら、おそらく、途中で失敗していただろうと思います。
マクドナルドを創業してからは確かにビジネス書として読むのは面白いのですが、僕はそれ以前の貧乏時代にこそ、秘訣が隠されているのではないかと思っています。
この本を読みながら何度もこう思いました。
「あれ? この本、映画になってったかな?」
それほどに面白い。二十世紀初頭のアメリカの雰囲気がたまらなくよくて、第一次世界大戦への志願する際のシーンには、後世からみれば、奇跡的としか言いようなのない出会いを果たしております。
私の配属された隊は、訓練のためにコネティカット州に集まり、そこでもう一人、年齢を偽って入隊していた人物に出会った。私たちが休日には街へ繰り出して女の子を追っかけ回している間も、彼は宿舎に残り、絵を書いていたことから、変わり者呼ばわりされていたその人物こそ、かのウォルト・ディズニーである。
つまり、第一次世界大戦当時のアメリカで、マクドナルドとディズニーの創業者が会っているということです。世の中って本当に面白いですよね。
レイ・クロックはペーパーカップのセールスマンとして働き、夜はバーなどでピアニストとして働いていました。
と、言っても、とても貧しい生活をしていました。
また、時折、すばらしいアイデアが生まれるのですが、いつも、彼よりも「大人」な人たちによって、アイデアから生まれる莫大な利益を奪われてしまう。
それを繰り返しているような半生。これも、人間らしくてとても共感が持てるんです。
まさに、映画の中の主人公、たとえば、フォレスト・ガンプに寄り添って、側でその生涯を疑似体験している錯覚にとらわれます。
つまり、ビジネス書としても一流ですが、小説としても本当に面白く読めるんですね、この本は。
レイ・クロックの人柄とビジネスマンとして感覚が如実に出ている一文があります。
「なぜ、マクドナルド兄弟のやり方をそっくりそのまま真似て、自分で店を開かなかったのか?」とよく聞かれる。彼らは私に経営のすべてを明らかにしていたし、確かにコピーするのは簡単だったと思う。だが正直言って、そんな考えは私の頭にはなかった。私はビジネスを、セールスマンの視点でとらえていたのだ。マルチミキサーの営業のほうが、ハンバーガーを売るよりは将来性があると思っていた。さらに兄弟は独自の調理用機材を持っていた。特注のアルミ製鉄板はじめ、あらゆる機械が、細部にわたって計算し尽くされた方法で活用されていた。そこへきて、名前だ。マクドナルトという名前は当たるという直感があった。名前はさすがにコピーできない。だが、真の答えは、やはり私はまだ正直者で、世間知らずだったからなのだろう。彼らからアイデアだけを盗んで、それに値する代価を支払わないという考えなどおよそ浮かばなかった。
そして、この本のもう一つの特長は、実は表紙のタイトルの下に書かれています。
世界一、億万長者を生んだ男
そう、「世界一の億万長者になった男」ではなく、レイ・クロックは「世界一、億万長者を生んだ男」、つまり多くのフランチャイジーに成功のためのチャンスをもたらした人なのです。
我々と昔からともに進んできた仲間のうちの一人に、ロサンゼルス出身のモリー・ゴールドファーブがいる。彼は1976年のハワイでのオペレーターのコンベンションでこう言った。「調べてみれば、レイ・クロックは歴史の中で、最も多くの億万長者を生み出しtいるとわかるだろう」と。それは定かではないが、モリーの見解には感謝している。しかし、私はそうは思わない。私は多くの人々に億万長者になるチャンスを与えたにすぎない。彼らは自分で達したのだ。私の果たした役割は少ないだろう。だが、確実に言えることは、私は多くの偉大な成功物語を身近に知っている。
ビジネス・パートナーと共に歩み、ともに儲けていこうという姿勢。これが成功の大きな要因になったのは間違いないようです。
52歳からフランチャイズ・ビジネスを始めたレイ・クロックは、もちろん、彼自身も億万長者となりました。そして、子どものころから野球が大好きだった彼は、ついにメジャーの球団のオーナーとなるのです。
また、この本は、恋愛物語でもあり、彼が長い年月をかけて最も愛する人と結ばれた様子が描かれています。
骨太のビジネス書であり、また、映画化してもおかしくないほどの小説的な半生が込められています。
なぜ、日本を代表する起業家である二人、UNIQLOの柳井さんとソフトバンクの孫さんがこの本をビジネスのバイブルだとしているのか、この本を読めば納得がいくだろうと思います。
また、巻末に収録されている、柳井さんと孫さんの対談、柳井さんの解説は秀逸です。これを読むためだけでも買う価値があります。
そういった意味において、この本を買わない理由が見当たらないのでございます。
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