学生時代に学んだことは、知のインナーマッスル
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記事:日山公平(ライティング・ゼミ日曜コース)
「大学時代の勉強は、何の役にも立たなかった」
よく聞く言葉だ。
一方でこんな言葉もよく聞く。
「大学時代に、もっと一生懸命勉強しておくんだった」
どちらが正しいんだろうか?
そんな問いに考えを巡らせていたら、僕自身の大学時代のあるシーンが頭に浮かんできた……
「えっ!? お前、韓国語を選んだの? 何の役に立つかわかんねーだろ?
それより、やっぱこれからの時代は中国語だろ!」
大学に入学した当時、第二外国語の選択で同級生から言われた言葉だ。
特に何の目的意識もなく、大学に入学した僕にとって、英語でさえ大変なのに、さらに第二外国語まで勉強するのは苦痛だった。
フランス語、ドイツ語、ロシア語、中国語、韓国語が第二外国語の選択肢だった。
人気だったのは、当時から経済発展して需要があるだろうと見込まれていた中国語で、あとはフランス語、ドイツ語が続いた。
僕は、日本語と共通の言葉も多く、文法も似ていて、一番楽そうだからという怠惰な理由で、韓国語を選んだ。
今でこそ、韓流ドラマやK-POPブームのおかげで、韓国語学習者が増えているが、僕が大学に入学した当時は、そんなブームなど全く無く、本当にマイナーな言語だった。
どれくらいマイナーだったか、今では考えられないエピソードが1つある。
今でこそ、韓国語の教材は、ネットを見れば無料で豊富に揃っているが、僕の大学時代はインターネットがまだなかったため、教材が限られていた。
ある時、韓国語の辞書が欲しくなったので、当時住んでいた千葉県柏市の書店を何店か廻っても、どこにも売っていなかった。
柏市は、首都圏の人口約30万人規模の街だが、そんな街ですら売っていなかった。
仕方がないので、新宿の紀伊国屋書店までわざわざ出向いて探したら、そんな大規模な書店ですら韓国語辞書が2冊しか置いてなかったのだ。
そんな時代だったので、韓国語クラスは約300名の同級生の内、わずか7名しかいなかった。
少人数のため、先生が一方的に講義するというより、授業中に気軽に質問できたり、会話が多く取り入れられたりとアットホームなゼミ形式に近かった。
また、講師が韓国人の年配の方で、気さくで親しみやすく、学生からも慕われていた。
そんな雰囲気だったので、徐々に楽しくなり、自然と勉強したい気持ちも高まった。
最初は何となく始めた韓国語だったが、ハングルという独自の文字を持つ新しい言語を学ぶ楽しさに目覚め、いつしか韓国語にのめりこむようになった。
僕は一度興味をもったら、とことんのめりこむタイプだったので、少人数の中ではあるが、クラスで1番の成績をとった。
本来は経済学部だったが、大学時代に一番勉強したと胸を張って言えたのは韓国語だった。
いつしか韓国語を活かした仕事につきたいと思うようになったが、しかし就職活動の超氷河期と言われていた時代で、しかも当時マイナーだった韓国語である。
自分が求める仕事がそう簡単にあるはずもなかった。
そして、韓国語を全く使わない会社に就職し、大学卒業後は韓国語から全く離れることとなってしまったのだった……
これだけだと、「僕が大学時代に韓国語を勉強したのは、結局何の役にも立っていないのか?」となる。
しかし、大学卒業して数十年後に思いもかけないところで、韓国語との出会いが訪れた。
数年前になるが、ある時、近くのDVDレンタルショップで、韓流ドラマコーナーを通った時に、ふと気になるドラマがあったので、思わず借りてしまった。
ただ、「気の向くままに」としか言いようがないが、そのドラマに1話からハマってしまった。
そのドラマのセリフを字幕を通して見ていたのだが、ある時に字幕に出てこないセリフの部分の意味を聞き取れるようになっていた。
「あれ? 確かに大学時代に韓国語の勉強してたけど、大学出てからご無沙汰だったのに、ちょっとは聞き取れているな」
社会人になってすっかり離れてしまった韓国語だったが、韓流ドラマを見たら、完全ではないが少しは聞き取れていた。
それから、再び韓国語を勉強したい気持ちが湧いてきた。
さすがに忘れていた部分も多く、最初はNHKラジオの基礎講座から始めたが、大学時代にかなり勉強していただけあって、飲み込みが早く、勉強再開して1年後に英検でいう2級レベルのハングル検定に合格した。
それで、ふと思ったのだ。
仕事に役立つかどうかでいえば、韓国語自体は何の役にも立ってはいない。
しかし、「興味をもった分野への取り組み方」や「知識を吸収する方法」、「吸収した知識を、成果として出す方法」といった、あらゆることに応用できる力は大学時代の韓国語の勉強を通して養われた。
大学時代の勉強は、外からははっきりと見えないが、内側ではしっかりと自分を支えてくれていた「インナーマッスル」のようなものだった。
そのインナーマッスルを鍛えた人は、内臓をしっかり支えることができて、病気や怪我が生じにくくなるという。
大学時代の勉強は、明確に直接仕事に役に立つように見えなくとも、しっかりと自分の内面を支え、いざというときの成果を出すときの底力となってくれていたのだ。
それは、大学時代の勉強だけではない。
もし、現在身につけたい何かがあるなら、今から始めてみるのも決して遅くはない。
それが、いつしか見えないところで、自分を支えてくれる底力となるのだから。
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