メディアグランプリ

不安との共生


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:池田哲平(ライティング・ゼミ平日コース)
 
「海外赴任前でめちゃくちゃ不安なのですが、どうしたら良いでしょう」
参加者が質問してきた。海外赴任者研修での出来事だ。
 
「残念ながら不安は消えません」
と僕は答えた。
 
経験上、不安の大小はあれ、消えないことを知っているからだ。
この答えに行きつくまで色々と経験した。
 
元来、僕はビビりだ。
親の仕事で引越しをするたびに、新しい場所での友人づくりには苦労した。
輪に入っていけないのだ。
母親から
「仲間に入れてと言えば入れてくれるから行ってらっしゃい」
と背中を押されていた。
 
必ず
「ええー」
「できない」
「嫌いっていわれたら……」
と言っていたらしい。
 
どうも新しい環境に入っていくのに抵抗があったようである。
 
大人になっても基本は変わらない。
意図して環境を変えたりはしない。
飲み屋、友人、業者、出張で行く国、交通手段、すべて同じにしたがる傾向がある。
 
新しいことにいまだ抵抗がある。
しかし、飽き性でありながら好奇心旺盛でもある。
ルーチンが嫌いでもある。
だからこそ、意識的に新しいことをするようにしている。
前述の研修で続いてこんなことも聞かれた。
「哲平先生も海外に行くときは不安が消えないのですか?」
「いまだに消えないよ。未知のことはね」
と答える。
「でも、面白いことが起きるかもしれないワクワクが不安に勝つから、それをいったんしまえているみたい」
「不安と共生する感じかな」
「だから、不安に感じたら、それは新しく成長する機会、これは良い兆候と思うようにしているんだよ」
こう答えると、質問した参加者も他の参加者も顔色が変わった。
少し明るい表情になった。
 
海外でビジネスをすると思ってもいないことが起きる。
「納入日に商品が納入されない」
「納入されても違う商品がくる」
「顧客から代金が支払われない」
「部下が倉庫の商品を横流しする」
仕事だけではなく、こんなことも。
「町で唯一の日本人だからPTAであいさつを」
「日本文化について高校で話してほしい」
ビジネス上のトラブルだけでなく日本では求められることのない役割を果たすことがあるのだ。
 
さらに、連日
「過労死ってなんで起こるの?」
「仏教、神道ときいているのに何でクリスマスを祝うの」
「日本の漫画ってなんであんなストーリーが面白いの」
と労働の問題から宗教、文化人類学、そして最先端のトレンドまで、何でも知っていると期待され生きたGoogleにならなければいけなくなる。
 
こういった状況で不安を感じない訳がない。
 
でも、その不安の払しょくのため頭を切り替える。
「確かに、日本人なのに説明できない僕が悪い」
調べて、本を読んで、意見を聞いて、僕なりにポイントをまとめる。
一つ一つ対応していくうちに、知識も経験も増える。
だんだん突拍子もない質問や答えられない機会が減っていく。
 
地道な努力を継続していると不安に思うことは少なくなる。
 
ただ、一回経験していると、国が中国からドイツに変わったとしてもこんな心境になる。
「海外だから、こんなことも起こるよね」
似たような経験をすると、メンタルも感情も一瞬不安になるが解決策を自然に探すようになり不安な気持ちは和らぐ。
 
不安は悪いことばかりではない。
研究でも明らかになった。
イノベーションや新しいアイディアは未知な環境、不安や不満から生まれるという。
社会を前進させていった原点が不安や不満にあるというのだ。
 
不安に押しつぶされてはいけない。
しかし、新しいことにチャレンジしていれば不安はついて回る。
 
世界はどんどん変わり続けている。
PCからスマートフォン、新しいアプリと必要なデバイスや情報はどんどん進化している。
 
しかし、デバイスで情報を収集できたとしても、不安は少ししか消えない。
なぜなら、情報だけ知っていても経験していないことは自分でわかっているからだ。
 
だからこそ、経験をあえてすることをお勧めしたい。不安があっても、それを自らの足で動いて、見て、聞いて、問題解決して、自分の許容範囲を大きくするのだ。
そう不安を感じながら、活動をするのだ。
 
「僕は元来ビビりだからこそ、あえて色々なことにチャレンジしてきた。だからこそ皆さんには自分の足でトラブルも楽しんでほしい」
と研修の参加者に伝えるようにしている。
「失敗はない。自分の思っていたことが予想通りにいかなかっただけ」
「不安と共生し、トラブルでもワクワクするように頑張ってください!」
と伝える。
 
「トラブルもすべてあなたの人生を彩るから」
とめげないように予防線もはっておく。
毎年、100人前後の教え子が世界に旅立っている。
今日も2年前に渡米した教え子のFacebook投稿をみた。
「海外で報告せずに外国人と結婚した初ケースになるみたいです。それに、こちらに長くするために本社との契約から米国本社の契約に帰るよう交渉中です。不安だけどこれからの人生ワクワクです」
 
「不安との共生」は今日も世界のどこかで誰かの背中を押している。
 
 
 
 
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2019-04-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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