メディアグランプリ

工事現場でも白鳥の湖


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:丸山ゆり(ライティング・ゼミ平日コース)
 
ガガガガガ~。
 
ドドド、ドドド。
 
「あ~、本当だうっとうしいなぁ、まるで工事現場にいるみたいだ」
 
自ら選んで来たのに、開始早々、もう嫌気がさしてきた。
耳元で鳴り続ける音は、ものすごいストレスだ。
 
「これをずっと聞いておけってか?うぁわ~、耐えられるかな……」
 
まさか、こんな状況になるなんて夢にも思わなかった。
ただ、寝っ転がって、リラックスしている間にコトは終わるものだと信じていたのだから。
しかも、25分ほどこの状況の中でじっとしていろなんて、めちゃくちゃストレスだわ。
 
私は、すでにいい大人だ。
じっとしていろ、と言われれば30分くらい、どうってことはないつもりだ。
それなのに、絶対に動かれては困るということで、ヘッドギアのような装置までもつけられた。
目の前におおいかぶすようにお面のようなものも設置された。
 
そうなると、心配なのは閉所に対する恐怖症の経験があることだ。
 
数年前、ある痩身のエステを受けたことがある。
 
ハーブの薬剤を湿らしたタオルを、身体にグルグル巻きにするというものだった。
それは、まるでミイラのような外観になるのだけれど、さらにハープの浸透を良くするためにラップで全身を巻き上げるのだ。
 
それなりに効果があって、何度か通っていると、サロンからのサービスでお顔もやりましょうということになった。
「顔も小顔効果だったら、それいいじゃん」と思い、早速やってもらうことにした。
ハーブで湿らせた専用のタオル。
それを、口元から巻いていって、最後は目の部分までもおおい隠すのだ。
今度こそ、本物のミイラが誕生だ、と思っていたのもつかの間。
全身をギュ~っと締め付けられる窮屈さと、顔も全部ふさがれることで、徐々に恐怖心がこみあげてきたのだ。
 
「す、すみませ~~ん」
 
と、思わず叫んだのは開始から数分でのことだった。
 
リラクゼーション効果のある音楽を流して、施術したエステシャンの方は退室しているその部屋から、私は大声で叫んだのだ。
もう、これまでに経験したことのないような恐怖心が起こってきて、いてもたってもいられなかった。
身体に震えがきて、じっとりと汗もにじんでくる。
すぐに戻ってきてくれた担当の方は、「時々、そういう方もいらっしゃいます。大丈夫ですよ」
時間をかけて、グルグルと巻いてくれたラップとタオルをはずしにきてくれたエステシャンは、私を安心させるためにそう言ってくれた。
 
あの時の恐怖心は、心の中にしっかりと刻まれたままだったのだ。
 
なので、今回もそのような状況におかれることで、いささかの不安がよみがえってきたのだ。
ああ、でもどうしようもないな、今度ばかりは。
もしも、恐怖で耐えられなくなったら、また人を呼べばいい。
 
そんなふうに今度は自分に言い聞かせ、できるだけ落ち着こうと深呼吸もしてみた。
そして、前回の恐怖の時に学習したのは、今おかれている状況を忘れてしまえば大丈夫なのではないか、ということだ。
だから、できるだけ違うことを考えるように努めてみた。
 
そうだ、昨年の暮れに出演した、バレエの発表会の演目。
あの振り付けをもう一度思い出してみよう!
目をつぶっている状況だけれど、舞台のシーンが色鮮やかに浮かんできた。
「いいぞ、この調子でやってみよう」
誰でもが一度は耳にしたことのある、「白鳥の湖」の第3幕。
「ナポリ」の曲が頭から流れ始めた。
舞台が終わると、イイ感じにその振りは忘れてゆくものだが、一つひとつカウントをとりながら思い出していった。
 
「案外覚えているもんだな。記憶力もまんざらではないぞ」
 
今年の誕生日で56歳になる私だが、来年の発表会もいけるかもしれない、と密かに自信もわいてきた。
「ナポリ」の振り付けを順調に思い出し始め、後半のクライマックスに差し掛かった頃、耳元で小さな声が聞こえた。
 
「お疲れさまでした。あと2分ほどで検査が終了します。もう少しの辛抱です、頑張ってくださいね」
 
「あれ?もう終わり?20分も経ったんだ」
 
なんだか拍子抜けしてしまうくらい、私は昨年のバレエの発表会で踊った演目、「白鳥の湖」第3幕の「ナポリ」の踊りに没頭していた。
予測していた閉所の恐怖心もなく、無事に検査は終わったのだ。
 
しばらくして、外来で担当医から説明を受ける順番が回ってきた。
 
「お疲れさまでした。画像を見たところ、心配される個所はありませんね。これで、終了ということで大丈夫ですよ」
 
そう、1か月ほど前から頭痛や手のしびれが気になっていたのだ。
診察を受けたのが4月の初め。
念のため、今日はMRIの検査を受けたのだ。
 
生まれて初めて受ける検査。
 
その内容を今日知ったのだが、ずっと工事現場にいるような騒音の中で進められるのだ。
ゆっくりと検査機械が音を立てながら、記録をとるものらしい。
 
そういえば、あれから頭痛や手のしびれは気にならなくなっていた。
きっと、目の疲れや、一時的なものだったのだろう。
 
だけど、このMRIでの検査を再度受診する機会があると、頭痛のタネになりそうだな。
何しろ、工事現場にいるような状況なんだから。
そんなことを思いながら、検査結果が良好だったことに安堵しながら、病院を後にした。
 
 
 
 
*** この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。 http://tenro-in.com/zemi/70172

天狼院書店「東京天狼院」 〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F 東京天狼院への行き方詳細はこちら

天狼院書店「福岡天狼院」 〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階

天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN 〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5

【天狼院書店へのお問い合わせ】

【天狼院公式Facebookページ】 天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


2019-04-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事