「好きな映画、ある?」
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記事:奥村まなみ(ライティング・ゼミ火曜コース)
「好きな映画、ある?」
そう聞かれると、必ず答えてきたのが『男はつらいよ』である。
学生時代からだから、もう20年くらい言い続けている。
まわりの女子が『タイタニック』とか、『ブリジットジョーンズの日記』と答えている中での、このセレクトは、必ず「しぶいね~」と言われ、かなりのおっさん扱いをされてきた。普通だったら、その答えの後に盛り上がるはずの映画の話も、おおよそ興味を持ってもらえない。
確かに古い映画ではある。
シリーズ全48作(特別編を含むと49作)あるうち、第1作目は昭和44年に製作されている。
最終作が公開された年も、私はまだ子供。
リアルタイムでその映画を見ていたわけではない。
それが一体、何作目だったのか、記憶は定かではないが、父親がテレビで放送されていた『男はつらいよ』を、笑いながら見ていたことを覚えている。私は、その映画のおもしろさに思わず吹き出してしまった。そして、自分が生きてきた時代とは異なる、しかし、どこか馴染みのある、そんな世界にはまり込んでしまったのだ。
映画の舞台でもある「東京は葛飾柴又」には、現在もしっかりと『男はつらいよ』の世界が存在する。柴又駅前に立つ映画の主人公「寅さん」の像は、そこでの名物になっている。また、毎月10日は「寅さんの日」とうたって、寅さんに扮した人物がいたりもして、観光客を楽しませている。他にも「寅さん記念館」なるものがあり、映画ファンなら一日中いられるスポットである。
さらに、年に一度は「寅さんサミット」というものが開催され、全国から多くの映画ファンが訪れる。残念ながら、そのサミットにはまだ不参加の私ではあるが、そこにはきっと、熱いファン同士の、熱い語らいがあるのだろうなと想像する。
そんな私の『男はつらいよ』の好きなところ。
それは、まず、ファッションである。
女性雑誌で「映画に出てくるファッション」というタイトルを目にすることもあるが、まさに私にとってマネしたくなるファッションが、そこにはある。
「え? あの寅さんの? 背広に腹巻にお守りに雪駄の?!」
いやいや、そうではない。
映画に出てくる女性たちのファッションが、である。
裾が広がったパンツ。縦にながい襟元。タイトスカートにハイソックス。エーラインのワンピース。
いわゆる、今の時代から見ると「レトロ」で表現される服装は、上品で、愛らしく、でもちょっと遊び心もあって、その時代を知らない私が見ても、とても新鮮で楽しい。
それから、インテリアも好きである。
「インテリア? そんなおしゃれなシーンあったっけ?」
いやいや、ないない、そんなシーン。
あるのは、おしゃれに飾られた部屋などではなく、家族が暮らす素のままの風景である。
畳の部屋の真ん中に置かれたちゃぶ台。その周りを囲む座布団。タイル貼りの流し台。家族で営んでいる団子屋ののれん。
それは、北欧インテリアだの、ミニマリストだの言われるこの時代から見れば、インテリアとさえ言うのもはばかられる空間である。
だがそこには、意図的なインテリアではなく、そこで暮らす人々によって自然につくられた天然素材のような心地よさが漂っている。
もっと細かいところで言うならば、家電も気になって仕方ない。
お茶の間で使われている、やたらとでかいポット。台所に置いてある炊飯器。奥行きのある白黒テレビ。背丈の低い冷蔵庫。
そんな、日本の高度経済成長期を象徴するような家電たちからは、なにか今の家電にはない、誇らしげな存在感のようなものを感じるのだ。
もちろん、ファッションやインテリアだけではない。
寅さんの生き方。旅。人情。家族愛。せつない恋。人間ドラマ。ユーモア。日本各地のすばらしい景色。映画の魅力をあげだしたらきりがないが、これらの魅力が、すべての作品の中につまっている。ひとつひとつを掘り下げていくと、本が1冊かけてしまいそうなので、ここでは割愛させていただくとしよう。
この映画の好きなところを書きだしていて、気づいたことがある。
私、この「時代」が好きなんだなと。
今の時代にはない時間の流れと、人と人とのあつくるしいほどのつながり。
現代の私が見る『男はつらいよ』は、父の見ていたリアルタイムの『男はつらいよ』とは、ずいぶんと見る角度は違うのだろうが、それにしても、実にいろいろなことを感じさせてくれる。
「好きな映画、なに?」
そう聞かれて答える映画、それはたぶん、その人にとって「自分に返る」ためのもの。
私にとっては、まさに『男はつらいよ』がそれ。
その映画に描かれる時代を生きてはいない私だが、そこには私の好きなものがいっぱい詰まっていて、なんだか自分を取り戻せるのだ。
好きな映画を、無性にもう一度見たくなる時、人はちょっと自分を見失いそうになっているのかもしれない。
父親が「わしが、高校生の頃に『男はつらいよ』の映画が公開されたのを覚えているなぁ」と話していた。
できることなら、私もこの映画を、公開したての状態で鑑賞してみたかった。
もちろん、話の内容はいつ見ても同じではあるのだが、世の中の「公開を待っていました!」という雰囲気の中で見る映画は、年数が経ってからのそれとは、ずいぶんと見え方が違う気がするのだ。
そんな私の願望が、この度、念願かなって実現することになった。
令和元年、この年末は映画館で、できたてほやほやの寅さんに会える。
私にとっての「リアルタイム」の『男はつらいよ』は、どんなことを感じさせてくれるのだろうか。
第50作『男はつらいよ お帰り 寅さん』
公開が待ち遠しい私は、ついつい映画に登場するマドンナたちと、同じセリフをつぶやいてしまう。
「寅さんに会いたいなぁ……」
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