語ろうじゃないか、青春の恥ずかしさを
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:田澤正(ライティングゼミ・日曜コース)
「キープオンローリン」
タバコの煙を吐きながら呟く。
ここに一枚の写真がある。
エンジニアブーツに、破れたジーンズ。
バイクにもたれ掛かりながら、ラッキーストライクを
くわえている。気だるい顔で横を見つめている。
明らかにポースを決めているにも関わらず、自然を装う。垢抜けないニキビ面。全く似合っていない。
アホだった。アホすぎた。その時発した冒頭のセリフとともに、思い出す度に身悶え必死な青春時代の自分。
である。
妄想と現実のギャップ。
かっこよくなりたい、モテたい。
そんな気持ちと、垢抜けない自分。
その埋めきれないギャップ。いつか埋められると
信じてやまない。10代。
そこから派生する過ち。
誰しも大なり小なり胸にしまった甘酸っぱい
恥ずかしい青春の1ページ。
今こそ語ろう。
男子校だった。
部活、仲間、趣味、恋愛。青春のキラメキ。
あまりにも無縁過ぎて、どこの世界の話だろう。と。
悲しすぎるあの青春。自分はこのまま終わってしまうのか。あー書いていて涙が出て来る。
しかし、そんな自分には大きな希望があった。
何者かになれる。
スペシャルになれる。
現状を全てひっくり返し風穴を開けてくれる最終兵器。唯一にして最大の一発逆転サヨナラホームラン大作戦。
それが、「バイク」だった。
簡単だった。バイクに乗る。
それだけでバイカーというクールな人種の仲間入り
が出来る。
ある日。
バイカーとして有名な、好きなロックミュージシャン渋谷の公園通りを疾走する姿を目撃した。
不良のクールさ。カッコ良過ぎてしばらく動けなかった。
頭に電球が光る。
密かに、いや明確にバイカー計画が立ち上がった。
「これしかない」
つまらないここ、ではないどこか遠くに連れて行ってくれる感覚。
バイクに乗れば変われる。そんなはずはないのに
思い込んでしまう。
そのミュージシャンの乗るハーレーは、とても買える値段では無かった。
そこで、国産の中古に目をつける。ヤマハSR400。
ハイテクを駆使した速いバイクが登場する中
昔ながらの空冷単気筒エンジン。
エンジンを始動するセルすら付いていない。
キックで始動させる安価なローテクバイク。
垢抜けない自分に似ている気もする。
ジュースも買わず。お金を一切使わず、バイトで貯めに貯めた。中古でそのバイクを買い、せめてとカフェレーサー風に改造。遂に納車。
半ヘルメットとゴーグル。ライダースジャケット。
今と違ってネットもない時代。独りぼっちになる真夜中。でも、行きたい所に連れて行ってくれる。最高の相棒。無敵になった。バイクに乗っている自分は、生まれ変わった。はずだった。
「ドドドドッ」という
単気筒エンジンのエグゾーストノート。
を聴き惚れる。
小躍りしながら。
手に入れたバイクに独りで見とれる。深夜。
初めてのツーリングに出かけようと計画。
まだフラつくし、スピードも怖くて出せないクセに。
ロードムービー的な旅に出る自分を想像してしまう。
喜び勇み、真夜中に出発した。
まさかあんな事になるとは。
帰り道。予想よりも早く北上して来る夏の雲。
追いつかれ、大雨に会ってしまう。
性能や、安全性よりも見栄えを優先したバイクと服装。
気づいたら、大雨の中を走っていた。
半ヘルメットとゴーグル。凄まじい雨で顔が痛い。たまらずバンダナを口の周りに巻く。すると、今度は雨でバンダナが濡れ呼吸が出来ない。冷たい雨で身体が震え上手くハンドルも操作出来ない。
「こんな苦しいなら、カッコつけてバイクなんて乗らなきゃ良かった」
後悔する暇も無い。
しかも、急なカーブが続く坂道。オシャレバイクでは
厳しい。しかも初心者。
「事故る」初めて、命を考えた。
雨でゴーグルが濡れ、全く前が見えない。
その時、バイクを教えてくれた友達の言葉を。
雨が叩きつけるヘルメットの中で思い出す。
「バイクって、必ず自分が見た方向に進むんだ」
「事故ると思えば簡単に事故る」
「どうしても厳しい状況でも、決して脇を見るな、突っ込むぞ」
「どんなに厳しくてもカーブの先を必ず見据えろ! 」
雄叫びを上げながら、見えないゴーグルで、見えないカーブの先を見る。何回カーブを曲がったか記憶にも無い。
気づいたら、小雨の中平坦な道を走っていた。ゴーグルは首からぶらさがっていた。
ずぶ濡れになりながら泣いていた。
「全然かっこよくない」
誰かに自分はバイカーだと言ってみたかっただけなのでは。
別にバイクに乗ったから劇的に全てが変わることもないじゃん。
実際は、寒いし暑いし、痛いし。怖いし、疲れるし。
てか、別に誰もオレの事見てねーよ。なんでオレ泣いているんだよ。
お金を貯めてバイクを買えば、誰でも「バイカー」にはなれる。でも、厳しい現実にも直面する。夢の様な生活になる訳ではなかった。甘い夢は終わった。
結局、社会人になってバイクは乗らなくなってしまった。
現状だけ見つめ、妄想は打ち砕かれる
社会人。
そこで体験してきた不条理。
追われまくる毎日。
頑張り、努力が、自分に不利になったり。
人と人の交差する競争の場。
幾多のクライシス。
そんな状況を乗り切りきれたのは、実は、あの泣きながらくぐり抜けた雨のカーブの感覚があったから。
だと気づく。
どんなにしんどい状況でキリキリしていても。
必ず出来る。その先をいつもイメージしカーブの先だけを見据えた。諦めない。
すると、気付けば勝手にカーブの先に向かって行った。
もう駄目かもと思っても、視点は逸らさない。
なんとかやってきた「社会人」
なんだかんだ今。カーブの先。
大事な奥さんも、友達も、仲間も。同僚も。そばに居てくれる。そしてなりたい自分に向かっている。あの垢抜けない青春時代には何一つなかった。けど。
バイクは、止まると倒れてしまう。
後ろにも進めない。
前に進むしかない乗り物。2本の車輪しかない。
でも、必ずカーブの先に連れて行ってくれる。
恥ずかしい青春。
やっとあの写真も観られるようになった。
というか、実は今も大して変わらない。
だって、かっこよくなりたいし、モテたいし。
ライターにもなりたいとか。
恥ずかしくて結構。
バイクの力を借りなくても進む事が
出来る様になった。
あとはそっちに向かって進むだけ。
まだ続く人生の道の先。カーブの先を見るために今日も進む。
***
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