アラフィフ女子大生
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【8月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:前野 祐恵(ライティング・ゼミ日曜コース)
私は高卒だ。
その高校は食物や保育や被服といった家庭科系の専門的な科目のある、いわゆる職業高校で、その当時、進学する子より就職する子が多かったと記憶している。進学する子は大抵、保育士や栄養士、看護師、パタンナーなど学んできたことが生かせる大学や短大へ進学していった。その中になりたいと思った職業はなかったが、私は大学へ進学したいと思っていた。
そもそも、大学進学したいというのに、ここに入学した時点で間違ってる。ここは就職するための高校なのだ。大学へ進学したいのなら、勉強に力を入れている進学校に行くべきだ。中3の時、なんとなく楽そうだなぁと職業高校を選んだ私がバカなのだ。と、分かりつつ、仲の良いクラスメイトが楽し気に大学進学について話しているのを聞くと、どこでもいいから行ってみたいと思った。
どこでもいいからっていうのは良くないのは分かっていたので、とりあえず「食物系の学科のある大学へ行きたい」と親に懇願した。が……あえなく撃沈。家計に余裕がないことが大きな理由だったが「お前みたいな世間知らずが、親元を離れて暮らすなんてろくなことにならない」と散々言われ、すっぱり諦めて卒業後は地元企業に就職した。
正解だったのかもしれない。強い気持ちもなく、ちょっと親に反対されたくらいですっぱり諦められたのだ。もし大学へ行っていても、親が言うようにろくでもないことになっていた確率は高い。
地元で就職した私は、地元の人と結婚し、地元で子供を育て、地元から離れることなくいつの間にか、50代の俗に言うおばさんになった。
子供が大学生になった時、念願の大学に行くことができた。(保護者として)ドラマでしか見たことのない階段状の教室や学食に心が躍った。ここぞとばかりに自分が女子大生になったところを想像してみた。ま……やっぱり無理があって、ちょっぴりむなしくなるのだけど。
一年前、フェイスブックをぼんやり見ていたら、ひとつの広告に目が釘付けになった。
『発酵食大学』京都校開校
発酵食に元々興味があった。味噌作りへ行ったり、塩麹や甘酒を仕込み、毎日のヨーグルトも自家製、大好きな発酵食。
その『発酵食』に『大学』とついているだけで、なんともワクワク感が止まらない。
よく内容を読めば、月に2回程度で計9回の講座で一般的な大学とは別物だということが分かった。京都の料理学校での講座が主で、他に酒蔵の見学や老舗漬物屋さんでの講座もある。特筆すべきは、講座内容は大学講師ではなく、米麹、味噌、納豆、漬物、酢、お酒など日本でおなじみの発酵食を生業にされているプロの方々なのだ。
この講座を受けたいと切実に思った。
高校生の時に、ただなんとなく、とりあえずと思った気持ちとは違う。
誰が何と言おうと、『発酵食大学』に入学する!
受講料と9回分の交通費しめて10万円は貯金を取り崩し、申し込みをした。
初めての講座、30名ほどの受講生が集まった。京都府外は珍しいかと思いきや、関西・北陸はもちろん、東海、中国、四国、九州、果ては沖縄まで各県から参加していたことに驚いた。
自己紹介でもうひとつ驚いたのが、料理教室の先生や天然酵母パン屋さんを経営されていたり、発酵食カフェを開業予定の人がわんさかいて、意識高い系の集まりだったということ。私みたいに「発酵食が好きです」だけで来ている人は少ない。場違いだ!と気がついたが、ここはもう開き直るしかない。意識低いなりに一言一句聞き逃すものかと、講座に挑んだ。
だが、そんなことを忘れるくらい講座の内容は興味深く楽しいものだった。
発酵のメカニズムと歴史を易しくひも解いて下さる先生の講義は、この道を信じ、慈しみ、繋げていかなければという使命感を帯びている。
調理実習の先生は、発酵食大学の卒業生。皆の緊張を解きつつ滋味深い味わいのお料理を教えてくれる。優しく美しい、芳醇なお酒のような人だ。
班ごとの卒業制作は発酵食を使ってお料理を作る。
5人で集まって、メニューを決めレシピを作り、実際に作ってみて、あーでもないこーでもないと議論する。きっとこれは大学でいうサークル活動のようなものなのかも。
あっという間に卒業の日を迎えた。卒業パーティでは、お世話になった先生を招き、卒業制作のお料理を各班で披露し、試食し合う。
最後にひとりひとりが発酵食大学で学んだ感想を述べた。
「開業に向けて頑張ります」
「自信をもって生徒さんに教えられます」
意識高い系の感想が多い中、
「アラフィフですが、この半年間は皆さんと共に女子大生でした」
と、私は胸を張って答えた。
でも、発酵食大学が私に残してくれたのはそれだけではない。
ぬか漬けを漬けるようになったのだ。毎日混ぜるなんて面倒くさいし、臭いし、いままで決して手を付けることがなかったぬか漬け。
これは大きな進歩だと思う。
発酵のプロになるには発酵食大学の上に大学院があるそうだ。
クラスメイトの数人は院生になったようだが、私は躊躇している。ほんとのことを言えば羨ましい。
だけど、今の気持ちは高校の時に、仲の良い友達から大学進学の話を聞いた時と気持ちが似ている。
この状態で、院生になったらきっとろくなことにならない。
ある日、フェイスブックの広告にまたもや目が釘付けになった。
天狼院『ライティング・ゼミ』
この講座を受けてみたいと切実に思ってしまった。
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