Secret Friends
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:根岸哲史(ライティング・ゼミ平日コース)
恥ずかしい秘密のひとつくらい、きっと誰にもあるものでしょう。
今日は私の秘密をひとつ。
実は、私、ぬいぐるみが好きなんです。
いや、恥ずかしい!
ぬいぐるみが好きなんて言っていいのは、子どもかアイドルくらいのものですよ。アラフォーのおっさんにもなってぬいぐるみが好きなんて、これはかなり恥ずかしい。
恥ずかしいを通り越して痛い。
ええ、私は39歳。男性。独身です。
実家に帰れば、30年近くずっといっしょ過ごしたぬいぐるみが枕元に待っています。そして、夜は一緒に寝ます。
私にとってぬいぐるみは秘密の友だちです。とても大切な。
でも、そんなことを嬉々として話されたら、話された側には微妙な空気が流れますよね。合コンで話そうものなら一発NGは間違いなし。
とにかく、ぬいぐるみの存在は秘密にしておかなければなりません。
でも、どうしてぬいぐるみは、こうも恥ずかしいのでしょう。
ぬいぐるみに似ているけど違う存在として人形と比べてみましょう。
子どもにとってみれば人形もぬいぐるみも、どちらも大事な友だちです。小さな子どもだったころ、人形も、ぬいぐるみも、どちらも手にもって動かしたり、話しかけたりして、本当の友だちのように遊んでいました。
でも、この二つには違いもあります。人形はプラスチックや金属などの固い材質でできています。それに対して、ぬいぐるみは布や綿の柔らかい材質でできています。
それに、ぬいぐるみと違って、いい年をして人形を集めている大人はけっこういます。私の職場にはアニメや特撮のキャラクターのフィギュアをデスクに並べている同僚が何人もいるのですが、皆さんの職場にもいませんか?
人形遊びは大人でも大っぴらにできるようです。とはいえ、フィギュアを子どものように手で動かして遊ぶ人は少ないでしょう。棚や机に並べて楽しむ人が多いはずです。
大人にとって人形は動かすものではなく、目で見て楽しむものです。
さて、ぬいぐるみをフィギュアのように見て楽しむという人は、どうでしょうか。なかなかいないのではないでしょうか。
私は旅行先の土産屋さんに置いてあるような動物のぬいぐるみが好きです。北海道に旅行に行ったときにはキツネのぬいぐるみをかならず買って帰ります。土産屋さんの棚に並べられたキツネのぬいぐるみを見つけると両手に取って頭をもふもふ撫でながらレジに連れていくものです。
ぬいぐるみはつい触ってみたくなる存在です。話しかけたり抱きしめたりすることもできます。まるで子どもやペットのように。実はぬいぐるみへの接し方は大人も子どもも大差ないものと思います。
遠くから目で見て楽しむ視覚的な人形と、近くで触って楽しむ触覚的なぬいぐるみ。
ぬいぐるみの恥ずかしさは、この距離の近さにあると思います。子どもはお気にいりのぬいぐるみをしっかり抱いて離しませんが、ぬいぐるみの距離の近さは本質的に幼さに結びついています。
何かが肌に触れていると安心する。心細さを埋めてくれる存在としてのぬいぐるみ。
でも、そうして何かに依存する心は、子どもなら許されても、大人には許されません。大人には、子どもがするように、何かにくっついて安心を得ることは、とてもみっともないことです。
だから、恥ずかしい。
思うに、人は年を取るにつれ人形のようであるように求められます。人形は固い材質でできています。自分の足だけで立てます。ぬいぐるみみたいにへにゃっとしていません。立派に自立した存在です。
それは自己を厳しく律して、あるべき姿であろうとする一本立ちした「社会人」の姿にも見えてきます。特撮ヒーローのように、アニメの主人公のように、カッコいい存在でありたい。男性ならなおさらそう思うかもしれません。
でも、そういうのって、疲れたりしないでしょうか。
だらっとしてちゃんと立つことさえできないぬいぐるみは、ピシッとカッコよく立つ人形からすれば、弱く、情けなく、幼稚な存在かもしれません。
だけど、ぬいぐるみはいつもそばにいてくれます。
疲れ切った頭で愚痴をこぼしても、涙にぬれる顔を押し付けても、イライラしてつい叩いてしまっても、私が何をしても、何も言わず、ずっと、そこにいてくれます。
弱くて、情けなくて、幼い自分を、かならず受け入れてくれます。
だから、ぬいぐるみを好きだと言うことは恥ずかしい。それは、自分の弱さや、情けなさや、幼さを言い触らすようなものです。
でも、どこかで、私は、ぬいぐるみがいてくれることを、ずっと自分の支えにしてきたと思います。弱さを無条件に受け入れてくれる存在が近くにいてくれることを。
そして、誰にもぬいぐるみが必要なときがあるのではとも思うのです。
もちろん、秘密でいい。誰に言わなくてもいい。でも、私と同じ秘密の友だちをもてたなら、生きるのがすこしラクになる人もいると思えるのです。
だから、もしどこかの街角でぬいぐるみに出会ったら、
そのつぶらな目をじっと見つめてみてください。
その頭に触れてみてください。
あなたにとって、最良の友だちに出会えるかもしれませんよ。
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