「わからない」の怒りと楽しみが4ヶ月のモヤモヤを与えた本《ブックセラーズ・レビュー》
*この記事は、「1シート・リーディング」講座にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:村人F(1シート・リーディング講座)
この本を読み終えて4ヶ月経った。
しかし、未だにモヤモヤしている。
数学の本だからそういう面はあるだろう。
ただそれだけじゃこの感情は生まれない。
『数学ガールの秘密ノート/学ぶための対話』
この本の提起した話が、怒りが、あまりにも私の心に共感と傷を与えたのだ。
本書は数学が苦手な女子中学生ノナちゃんに、高校生の「僕」が教えてあげる物語だ。
彼の話は魅力的で友達からも評判だった。
その流れで彼女も聞きに来たのである。
ノナちゃんの考え方は独特だ。
「y = x」のグラフ、中1で習う基礎の話をしている。けれど彼女の質問は「点の色ってなんですか?」、「大きさってどうなるんですか?」と、詳しい人が意識したこともない観点だった。
それでも「僕」は丁寧に対話を重ね、ノナちゃんを導いていく。
この過程で「わからない」の意味を、そして自分の「わからない」に気づいていく。
そういう小説だ。
本書の何が引っかかりを与えたか。
この一文だ。
「<どうして>を怒る言葉にしちゃいけないのに」
穏やかな「僕」が珍しく怒りをあらわにした箇所。
ここが私の記憶と紐付いた。
この一文は彼の思いが凝縮されたものだ。
「どうして」は新しい学びを与えてくれる大事な言葉。
わからないのは決して悪いことではない。
それなのに多くの人が相手を否定するのに使っている。
これでは本当の意味をわかっていないではないか!
そういうメッセージだと解釈している。
そして私も同じ怒りを感じたことがある。
大学時代、私はアルバイトで中学生に教えていた。
個人塾だったけど5年間で計100人くらいと接することができた。
その中で「僕」と同じ感情を抱いた場面があった。
とある生徒の話である。
彼は前の塾でも数学が苦手だった。
毎日10時間近く勉強したそうだが、それでも成績が上がらない。
そしてこの塾に移ってきたのである。
彼の母と面談した時だったか、そこで恐ろしい言葉を聞いたのを覚えている。
「前の塾で『こんなに勉強してダメなんだから才能がないんだな』と言われた」
正直、耳を疑った。
1日10時間勉強したと言っている。
それなのに成績が上がらない。
そんなもん塾に才能がないだけだ。
彼の「わからない」に匙を投げた。
<どうして>と疑問に思うことすらしなかった怠慢だろう。
それなのに反省しないどころか、可能性の詰む言葉を放つ。
混乱でグルグルした記憶がある。
教育業界の闇を感じた瞬間だった。
幸い上司の先生は地域で伝説の名講師だったから、彼は開花し無事志望校へ合格できた。
やはり悪いのは前の塾だった。
けれども、あの言葉がまだくすぶっていたのだろう。
それが「僕」の怒りで思い出されたのだ。
しかし、真の原因は別にある。
正直、向かい合いたくない記憶。
そこに彼の怒りが刺さったのだ。
それは私に問いかける。
塾で働いた5年間、生徒たちの「わからない」に真剣に向き合っていなかったのではないか?
中学の3年間は人生で最も重要な時期だ。
高校受験というターニングポイントを迎えるからである。
だからみんな塾に通って必死に勉強する。
それなのに私は真剣に向き合っていただろうか?
「僕」のように四六時中、わかってもらう方法を考えていただろうか?
答えはわかっている。
できていない。
そうでなければ大学を卒業してから7年、未だに教え方を後悔するわけがない。
成績上位だったのに国語だけが苦手だった子。
現代文が好きな私だったのに彼女の成績をあげることができなかった。
どうすればよかったのか何回も考えた。
そのたびに実感する。
あの時の彼女に教えることは絶対にできないのだと。
だから後悔している。
あの時もっと国語の参考書を読み漁って解決策を探せばよかった。
林修先生の講座を受けてエッセンスを盗めばよかった。
なぜもっと真剣に教えることに取り組まなかった。
その思いが消えることなく残っている。
しかし「僕」は違う。
なぜ彼は怒ったか。
本気で考えていたからだろう。
彼女の「わからない」と対話し、答えを導き出す。
だからノナちゃん含めみんなから感謝されるのだ。
この教師のあるべき姿があの一文に集約されていたから、読み終えて4ヶ月経った今も影を残している。
ただ、この罪を償う方法もわかっている。
今いる場で同じ後悔をしないよう振る舞うことだ。
教育業界から離れた今、生徒たちと向き合う機会はない。
しかし会社員である私にも、教えることはある。
その時に過ちを繰り返さないことが唯一の贖罪なのだ。
だから言葉には気をつける。
どうすれば伸びてくれるか。
伝え方にまずい点はないか。
そういう意識が自然に働く。
そして「僕」のスタイルはこの参考になる。
彼はまだ高校生だ。
だから同じように後悔し、改善を目指す。
足掻いている最中なのである。
きっと物語のテーマは、その追体験をすることなのだろう。
だから実感する。
「わからない」ってことを本当にわかっていなかったんだと。
この本で述べられる数学の話は「y = x」だけだ。
授業では5分で説明が終わる式である。
これだけで300ページの物語になるのだ。
それくらい知らなかった「わからない」に溢れている。
そして本書はこれらに向き合う辛さと同時に、楽しいことも教えてくれる。
この鍵こそサブタイトルの「学ぶための対話」なのだ。
本書は教えてもらう立場の人におすすめする。
「わからない」ことの苦しみが詰まっているからだ。
同時に、それを解き放つヒントを示してくれるだろう。
しかし、それ以上に教える人へメリットを与える。
人間である以上、必ずその立場を経験することになる。
教師や会社はもちろんだし、親になったら子に教えなければいけない。
だから「僕」の過程は気づきを与えてくれるだろう。
しかも、本書は「数学ガール」だ。
多くの人が嫌っているこの科目の魅力も学ぶことができる。
数学のよいところは「わからない」がいっぱいあること。
それを否定せず向き合い、答えを導いていく。
この過程にこそ詰まっているのだ。
「僕」とノナちゃんの対話はそれを教えてくれるだろう。
みなさんに届きますように。
【紹介本】
『数学ガールの秘密ノート/学ぶための対話】
著者:結城 浩
出版:SBクリエイティブ
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