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大切な存在を、大切にしていますか?《ブックセラーズ・レビュー》

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*この記事は、「1シート・リーディング」講座にご参加のお客様に書いていただいたものです。

1シート・リーディング講座〜本を人生に染み込ませる12の読書術〜読書は最強の思考術だ!マガジン・ノートに読書と思考をまとめる!

記事:吉田実香(1シート・リーディング講座)
 
 
『犬の十戒』をご存知だろうか?
犬好きなら知っている方が多いかもしれないが、そうでなければ目にする機会はないかもしれない。
『犬の十戒』とは作者不詳の英語の詩で、ネットで検索すると、いろんな日本語訳が出てくる。犬から人間へのお願いともいうか、「たくさん話しかけてほしい」とか「あなたが私にしたことは決して忘れません」とか「最期のときまで一緒にいてください」等々の、犬から人間へのメッセージだ。私は愛犬と暮らし始めて少したった頃にこの詩と出会ったのだが、はじめて読んだときには涙がぼろぼろ出て、愛犬を抱きしめて何度も読んだ。それからも、折にふれて読むようにしており、毎回涙なくしては読めない。
 
本書は、著者の馳星周氏が訳した『犬の十戒』からはじまる。
よくネットで目にするものは意訳されていて、少し脚色されているようにも思うが、著者の訳はストレートだ。また、犬から自分へのメッセージとしているのか、犬の“ぼく”が、飼い主の“父ちゃん”に語りかけるメッセージとなっており、今まで読んできたものとはひと味違って著者の独特な雰囲気、そして犬への愛が感じられ、これもまた涙なくしては読めない。
 
さて、馳星周氏といえば、直木賞を受賞した『少年と犬』を思い浮かべる方が多いだろう。
犬の話が直木賞を取ったのなら、これは犬好きとしては読まなくちゃ! とすぐに読んだわけではなく、むしろ読むつもりがなかった。
私は犬が登場する小説(映画やドラマなども)には偏見がある。
その偏見とは、犬の描かれ方が自分の納得のいくものではないと嫌だということ。
なんともわがままな話なのだが、愛犬と暮らし始める以前から、犬(や他の動物も)が虐待を受けているとか不幸な境遇で描かれているのは、嫌なのだ。
愛犬と暮らすようになってからは、あまりにも幸せな暮らしが描かれていても、それはそれで自分の愛犬に申し訳なく思ってしまい、なんとなく気持ちが沈んでしまう。結局どう描かれていても納得がいかず、自分でもちょうどいい塩梅の描かれ方がわからないため、そんな自分勝手な理由から犬が登場する小説はあまり読んでこなかった。
『少年と犬』は、知り合いが「感動した、号泣した、これは読むべきだ!」となかば強引にかしてくれたため読むことになったのだが、そんなことがなければ読むには至らなかっただろう。
今となっては、その方にとてつもなく感謝している。『少年と犬』と出会わせてくれたこと、馳星周という作家と出会わせてくれたこと、そしてその出会いが犬が出てくる小説への偏見をふっとばしてくれたこと。
ただ、いいタイミングで出会えたからこそ、そう思えたのだ。犬と暮らす前であったり、犬と暮らし始めたばかりの頃だったら、私の偏見にドンピシャに当てはまってしまうため、読み進めることはできなかったかもしれない。
犬と暮らすようになってから、殺処分の問題や保護犬や保護猫について勉強するようになった。とはいえ、まだまだ浅い知識であり、動物のためにしていることといえばたまに募金する程度なのだが、しかしそうやって動物について考える機会が増えたからこそ、この出会いが貴重なものとなったのだと思う。
 
結果としてはいい出会いだったが、なぜ、私の偏見にドンピシャに当てはまりつつも、『少年と犬』を読み進めることができたのか。最後まで号泣しながら読み進めた上に、自分の中にもやもやと浮かんだ表現できない思いの正体を確かめたくて、疑問の答えを見つけたくて、2回も続けて読んだのか?
 
いやいや、『少年と犬』については、また別のお話。ぜひこちらも読んでほしいのだが、今回は『ソウルメイト』について語りたいと思う。
『少年と犬』で馳星周氏を知り、他の小説も読んでみたいと思った。しかし、ノワール小説に手を出す勇気もなく、でも桐野夏生氏のノワール小説は好きだから、挑戦してみようかな……、などと思いながら本屋さんの棚をながめていた。『不夜城』を手に取り、でも、なんだかすぐに購入する気にはなれず、ひとまず他の小説を物色することにした。
すると、そこは近所の小さな本屋だったのだが、ある一角のコーナーに『ソウルメイト』が積んであった。何のコーナーだったのか、ちゃんと見なかったから覚えていないのだが、他にも犬や猫が出てくる小説がたくさんあったから、動物コーナーのようなものだったのかもしれない。
何のコーナーなのか確かめるよりも、『ソウルメイト』がぱっと目に入り、すぐ手に取り、そして、冒頭の『犬の十戒』が目に飛び込んできた。読み始めると、本屋だというのに泣きそうになり、これは買うしかないと思った。すぐに買って帰り、休日だったこともあり一気に読んだ。
 
『ソウルメイト』は『少年と犬』よりも前に書かれている。私は、出版順ではなく、先に『少年と犬』を読んでから『ソウルメイト』を読んだ。その順番が関係するのかは不明だが、私の結論は、『ソウルメイト』の方が、いい! ということ。直木賞を受賞した小説の方がいいに決まっているだろう! と思われる方もいると思うが、ぜひ両方読んでみていただいて、どちらがいかにいいのか、その理由について議論をしてみたいと思ったりする。
 
『ソウルメイト』は七編の短編集からなる。『少年と犬』のように、東日本大震災後の悲惨な状況であったり、不幸な犬も出てくるが、『少年と犬』のように長い年月をかけた壮大なストーリーではなく、どこにでもいそうな人に寄り添う犬が描かれているからか、より自分事として読むことができる。その登場する犬のやさしさ、賢さにいちいちうなずいて、犬や人との出会いや別れに涙を流し、愛犬をなでてみたりしながら読み進めた。
七編の短編では、それぞれに、違う犬種の犬が登場する。犬種の違いによる特徴や特技がたくみに描かれていて、また育った環境やその犬の個性による性格の違いの描き方も秀逸で、同じ人間が一人としていないように、犬も一匹として同じ犬がいないということを教えてくれる。
 
長年連れ添った夫の暴君にたえ続けてきた妻が、初めて自己主張して迎えたチワワ。しかし、大型犬以外犬とは認めない夫。でも、長年の苦悩や行く手に立ちはだかる困難を癒やしてくれるのは、そのチワワだけだった……。
 
学校でいじめにあっている少年。少年は死んでしまった父親が大好きで、母親の再婚相手
も、その人が連れてきた大型犬のボルゾイも大嫌いだった。しかし、少年を奮い立たせ、いじめにも立ち向かう力をくれたのは、そのボルゾイだった……。
 
東日本大震災で飼い主を失った犬の群れのリーダーを務める柴犬、虐待を受けて心を閉ざしたコーギー、警察犬を引退して山でのんびり暮らすシェパード、猟犬の強い血から飼い主を下に見て好き勝手に振る舞うジャック・ラッセル・テリア、重篤な病気を抱えたバーニーズ・マウンテン、そしてその犬たちを取り囲む様々な人間模様が描かれている。
 
ときに犬は、種や言葉の壁なんて大きく飛び越えて、人間を理解してくれる。そして癒やしてくれたり、生きる勇気や希望をくれたり、ともに生きたいと願うことで、絶望を乗り越えられる。
登場人物たちにとっては、犬は最良の「魂の伴侶(ソウルメイト)」なのだ。私にとっての愛犬がそうであるように。
そして、それは犬を愛してやまない著者だからこそ、紡ぐことができたストーリーなのだと、随所に感じることができる。
 
そして、『ソウルメイト』をお勧めするにあたり、もうひとつ、是非ともお伝えしたいことがある。
それは、森絵都氏が書いた解説が、ものすごく、ものすごくいい! ということ。この解説を読むために本書を購入してもいいのではないかと思ってしまうほど、いや、もちろん小説との相乗効果でそう感じたのだけれど、とにかく解説を読んでも感動して、泣けるのだ。
解説では、「人が犬を選ぶのか?」ということと、「犬好きに共通する人間性とは?」ということが語られている。その犬好きに共通する人間性とは、あえて解説の言葉を使わずに表現すると、人間としての欠陥というか、欠如ということになると思うのだが、その内容が的を射ていて、私の心にも突き刺さった。そして、だから私は愛犬と出会えたのか、だから愛犬が私の元にやってきてくれたのか、だから愛犬が私の心の隙間を埋めてくれるのか! といちいち納得して、いちいち感動して、愛犬という存在がこの上ない存在だということはわかっていたが、さらにさらに、私を幸福な犬飼いへと導いてくれたのだ。
いま現在、特別な存在である愛犬は、私にとって最初で最後の犬だと決めている。
しかし、愛犬が幼い頃から決めているこの私の決意も、この解説によって崩れそうになった。私自身の年齢的なこともあり、最後の犬となることには変わりないだろうが、私にとってはこの世の終わりに相当するであろう愛犬との別れを経験して立ち直ることができたのなら、どんな形でも犬と関わり続けたいと思った。
 
 
「あたりまえのしあわせ」は存在しない。
命の期限は誰にもわからないし、すぐ先の未来ですら何が起きるのかも、誰にもわからない。
でも、日々はあたりまえに過ぎて行く。
あたりまえに目覚めて、あたりまえにごはんを食べて、あたりまえに会社に行って、あたりまえに喜んだり怒ったりして、あたりまえにストレスをためて、あたりまえにバタバタと一日が終わっていく。
命の期限があることも、この日常が永遠に続かないことも、頭ではわかっている。
それなのに、今この瞬間、今日という日を大切にできないことも、あたりまえになってしまっている。
愛犬と暮らし始めてからは、いつか必ずくる別れを思って、日々を大切にしたい、1分1秒でも無駄にはできないと思っている。
しかし、実際は、やはり日々に流されていくことが、あたりまえになっているのだ。
本書で犬との別れ、大切な人との別れ、そして残される者の疑似体験ができることで、改めて「あたりまえ」は存在しないし、大切な存在は今、この瞬間から大切にしないとならないと気づかせてくれた。
大切な存在は、なんだっていいと思う。家族、犬、猫、鳥、めだか、思い出の品、思い出そのもの、自分自身の思い、いただいた言葉、忘れられない瞬間……。
大切な存在を、大切にする。
思いを伝えられるのなら、伝える。
もう届かないのであれば、心の中で伝える。
あたりまえに明日も存在しているのか、明日の私はどうなっているのかは、わからない。
そうやって生きていかなくてはと教えてくれる一冊だ。
犬好きではなくても、ぜひ、読んでみて、自分の大切な存在に、思いを馳せてみてほしいと思う。
 
 
 

【紹介本】
『ソウルメイト』
(『ソウルメイト』 馳星周 集英社文庫)
著者:馳星周
出版:集英社文庫
¥748

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