チーム天狼院

【世にも恐ろしい女子ヒエラルキー・コラム】1センチのほくろ①


私の左足には、一センチくらいの大きなほくろがある。

身体中にほくろが七十三個(子供の頃に数えた)もある父の遺伝だろうか、母の体からすぽーんと生まれ落ちた時から、私の左足には大きなほくろがあったそうだ。
これほどに大きなほくろを持っている人を私はほとんど見たことがない。一度だけ、高校の先輩で太ももに私と同じくらいの大きなほくろがあるのをちらりと見たことはあるが、太ももならそんなに見えないし隠せるから私の仲間じゃないやい、と思春期の頃思った記憶がある。そう、私はこのほくろが憎くて憎くて仕方なかったのだ。

向こう脛のど真ん中に「さあ俺を見てくれ!」と言わんばかりに主張する真っ黒なほくろは、これまでの人生で何度も指摘されてきた。小学校の頃は「それ何―?」「へんなのー」と無邪気にいじられ、触られた。ほくろ毛を抜かれたこともあった。「泥ついてるよ」とごしごしとこすられたこともあった。
集合写真に写る多くの子供のなかからでも、自分のことだけはすぐに見つけることができた。足にほくろがあるからだ。それは遠くから見ると何かのシミが写真にうっかり写り込んでしまったか、あるいはゴミが付いてしまっているかのように見えた。その不自然な黒い点がついている向こう脛の部分を思わずこする。つるつるとして何の凹凸もない写真の表面をなでてようやく、それがシミでもなんでもないことがわかる。そして私は自分の左足を見直して、相変わらず厚かましくそこにいるほくろを確かめ、改めてがっかりするのだった。

中学に入り、思春期にもなるとさらにそのほくろに対する憎しみは増した。私の通っていた女子校には綺麗な女の子がたくさんいたから、余計に。
私が自分のからだから消したいと思うのは大きなほくろだけではなかった。つり上がった三白眼も嫌だったし、短いししゃも足も嫌だった。小さい胸ももちろん嫌だった。同級生の胸が日に日にふくらんでいく一方で、自分は全然女らしくならない。綺麗にならない。自分の成長期だけがもう止まってしまったかのように感じた。
そしてやっぱり、大きなほくろは私の向こう脛に図々しく居座り続けていた。制服は都合がよかった。紺のハイソックスでうまく隠すことができるからだ。でも部活でテニスをする時は必ずくるぶし丈のソックスを履かなければならなかった。ほくろが出るのがどうしても嫌だった私は、中一の夏休みの部活日、肌色の絵の具でほくろをぐちゃぐちゃに塗りつぶした。せめてファンデーションでやれよ、と今なら笑えるけれど、何も知らない、たかが十二歳である。そもそもファンデが何かもろくに知らない歳だ。私に思いついたのは絵の具しかなかった。

結果はもちろん惨敗で、「何その脚〜! ヘン! 絵の具?」と、天真爛漫で悪気のない同じく十二歳の部活仲間に、思いっきり大きな声でつっこまれて、ますます恥ずかしい思いをすることになってしまった。

それ以来、私は一層ほくろが憎くて憎くて仕方なくなった。本気で消すことを考えた。レーザーか何かで消すことはできないのかと真剣に考えたが、結局は親にたしなめられて諦めた。

次第に私は、夏はなるべくズボンを履くようになり、冬には黒いタイツを履くようになった。ほくろを見られたくなかったし、自分も見たくなかった。
自分の嫌いなところを見たくなかった。ほくろも目も脚も胸も全部嫌だった。だから視界に入らないようにした。シャットダウンした。見た目のことなんか考えずに、新しい人生を歩みたいと強く思うようになった。そんなことが関係ない世界に行きたいと。見た目なんか関係なく、自分の力で自分の幸せを手に入れられるような、そんな場所に行きたいと思った。

生まれ変わりたい。

それは根拠のない、はっきりした理由もない、けれどとてつもなく強烈な、欲だった。
その衝動に突き動かされた私は、無謀にも、早稲田大学を受験することを決めたのだった。早稲田に行けば何か変わる。新しい自分になれる。見た目のコンプレックスなんて関係なくなる。そんな気がしたからだ。(1センチのほくろ②に続く)

つづき(「ステータス」派か「収入」派か「福利厚生」派か?)は、12月5日夜9時公開!

前回【世にも恐ろしい女子ヒエラルキー①見た目編】「おっぱいヒエラルキー」というのもまた、存在するのです《川代ノート》

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