チーム天狼院

【世にも恐ろしい女子ヒエラルキー③プライベート編】自分の一番得意なものさしで、人は人をはかるのだ《川代ノート》


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星新一のショート・ショートのなかに、価値を測る聴診器のような機械を手に入れる男の話が出てくる。

その聴診器は優秀で、骨董品にでも土地にでも、何にでも使える万能だ。それを当てるだけで、当てたものが不良品かどうかも、どれくらいの価値があるのかもわかる。だからその機械が「いい」と判断したものを買えば間違いはないというわけだ。
聴診器は物に対してだけでなく、人間に対してでも使える。彼はお嫁さんですらそれに頼って決める。会社の従業員もそれで決めるのだ。その聴診器に頼れば、絶対に優秀な社員を手に入れられるから。
そして彼はついに、自分が最も恐れていたことをする。自分自身に聴診器を当てるのだ。聴診器は、彼が大いに価値があると判定を下した。喜ぶ彼だったが、実はその「すばらしい機械を持っている彼」に価値があるというだけで、何も持っていない彼にはなんの価値もなかった、という、いかにも星新一らしい、ブラックなオチでその話は終わる。

その機械があればいいのに、と思ったのは、一度だけではない。自分の価値を測りたい。自分がこの世でどのくらい必要とされているのか知りたい。あの子と私、どっちが価値があるのか測りたい。まあ実際にその機械が手に入ったとして、自分を測る勇気があるかどうかはわからないけど。

ところで、私はステータスでものを見る人たちを、よくバカにしてしまう。

留学中、国際交流をしなかった私に「それって逃げじゃないの」と言った女の子は、目に見えるものを何よりも重視していた。
いかに外国人の友達がいるか。
いかに留学をエンジョイしているか。
いかにトーイックの点数が上がったか。
いかに留学経験を生かして、いい企業に内定をもらえるか。
そういう、数字で具体的にはかれるようなこと。それ以外のことにはまるで興味がなさそうだった。ある意味、彼女の考え方はとても明瞭だった。
実際、彼女は就活に命をかけているようなところがあった。誰もが認めるステータスを手にいれることに躍起になっていた。仕事に命をかけるような子だった。
そんな風に考えているのはその子だけではなく、他の女子もそんな考え方の子が多かった。もしかすると、留学しているうちにそういう考えが感染したのかもしれない。

だから私はそういう考えの彼らを見下すことにした。「人間的な成長」というものさしを使って。
他の子たちは私よりも英語ができたし、私よりも外国人の友達がたくさんいた。私は張り合いがくだらないと思いつつも、同時に、そのことに焦りを感じてもいた。矛盾した感情を一度に抱えていた。留学をエンジョイしなきゃだめなんじゃないかという気持ちと、国際交流よりも自分とちゃんと向き合う時間がほしいという気持ち。
そして迷った私は結局、自分のより得意な方を選んだ。
国際交流を頑張る彼らの価値を、こう評価することにした。
「たしかに英語も国際交流もがんばってるけど、人間的には未熟だ」
彼らは自分たちを客観的に見ることができていない。プライドが高くて見栄を張っているばかりで、人間的に成長しようとは考えられていない。英語なんて日本でもいくらでもできるのに、上辺のものだけに惑わされている、幼稚な人間だ。精神年齢が低いから、仕方ないんだね、きっと。そんな風に見下していた。

つまり、「人間性」というものさしで彼らを測ることによって、私は、自分の心の均衡を保っていたのだ。そしてその癖を、私は未だに、捨てきれないでいる。

みんなに共通する、便利な聴診器なんて、現実のこの世には、どこにも存在しない。
けれど個人個人それぞれが、それぞれの聴診器を持っている。
そしてほとんどの人はおそらく、自分の一番得意なものさしで、人を測る。

仕事が得意な人間なら、仕事の出来不出来で。
ステータスが好きな人間なら、ステータスで。
自分は女子力があると思う人間は、女子力で。

どちらが上か下か、判断する。

マウンティングなんてしたくないと思っていても、結局は、やめられない。どちらがより価値があるか、測りたくなってしまう。

仕事をものさしにしている人は、仕事ができない人間はクズだと言うし、見た目をものさしにしている人は、女はかわいくてナンボだよね〜と言う。どちらも満たされない人は、他にものさしに出来るものを探す。人間性とか、スピリチュアルとか。私みたいに。

あの子は私より仕事ができるけど、人間としては、私の方が価値があるもん。

そうやって、自分の方が優位だと言い聞かせて、無理やり聴診器の針を、自分の方に傾けようとする。

そんなの、無駄だ。何の役にもたたない。どちらの方が上か下かなんて考えても意味がない。だって人間の価値を測れる機械なんて、現実には存在しないのだ。星新一のサイエンスフィクションの世界にしか存在しないのだ。幻想だ。本当は、その個人個人が、持っている聴診器を捨てられるようになるのが、一番いいんだ。

でも、それでも自分の方が上なのよ、と張り合いたくなってしまうのは。
自分の方が価値がある、と自分に言い聞かせないと、やっていられないのは。

本当は、自分には価値がないんじゃないかって、不安だからだ。
この世の誰にも認めてもらえないんじゃないか。求めてもらえないんじゃないか。誰も自分を必要としていないんじゃないか。
私って、ここに生きていても、大丈夫?

そういうことを考え出すと、際限なく、不安な気持ちが押し寄せてくる。
本当は、そんなこと考えずに、ありのままに、自然体の自分に自信を持てるようになりたいだけなのに。
ただ、そのままの自分のことを、好きだよって、純粋に言ってくれる誰かに出会いたいだけなのに。愛して欲しいだけなのに。

ああ、愛されるって、どうしてこんなに難しいんだろう。

そう、見た目だの、キャリアだの、性格だの、プライベートだの、なんだかんだ言ってるけど、結局すべては、愛されるために、あれやこれや試行錯誤して、見苦しくもがいているだけなのだ。

つづき(【コラム】1センチのほくろ③)は、12月12日夜9時公開!

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