チーム天狼院

フォト散歩と、恋のはじまりと、さびれた遊園地と。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」を受講したスタッフが書いたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜


記事:松下広美(チーム天狼院)


土曜日の19時30分。

地下鉄までの道のりを歩く。
名古屋という都会のはずなのに、少し薄暗く、誰ともすれ違わない。

天狼院書店のイベント、フォト散歩の帰り道。

いつもなら、せめて駅まではご参加者の方と歩くはずなのに、今日はひとり。
フォト散歩の後に、ひとりでFacebookライブをやっていたというのもあるけれど、ひとりの時間をつくりたかった、というのが本音かもしれない。

今日は、思い出を、思い出しすぎた。

自分の意志とは違ったところで、掘り起こしてしまったり、湧き上がってしまったり……。
平然とした顔ができていただろうかと、少し心配になった。

その日のフォト散歩は「名古屋港」だった。

ご参加者の方いわく
「リゾート開発に失敗した場所、名古屋港」
らしい。

確かに、ヤシの木が植えてあったり、グアムチックな飲食店の建物があったりして、一見リゾート感を出している。
そうかと思えば、南極観測船「ふじ」が停泊していたり、「ポートビル」という名の建物が建っていて、港っぽさを出していたりする。
そして、日本の中でも指折りの水族館らしい「名古屋港水族館」があったり、さびれた空気を持つ「シートレインランド」というちょっとした遊園地があり、名古屋の数少ないデートスポットになっている。

フォトスポットと書かれた台の先には、ここで撮った写真は失恋の記念になるんじゃないかと思う、イルミネーションが光っていた。
実際、ご参加者の方々と話していても、失笑するようなイメージしか出てこないし、フォト散歩で「いい写真」を撮りたいのに、これといった写真がみんな撮れていなかった。

もう少し、素敵な写真が取れるつもりだったのだけど……。

決して、40年以上も住んでいる、愛する名古屋のことをディスりたいわけでもない。

でも、これといって褒める場所がない、そんな場所でも、思い出があった。


もう、20年以上前のことだ。

「私、水族館はじめてだよ」
「俺も、来たことないかも」

高校3年生だった私は、初めてできた彼氏と名古屋港にいた。
まだ付き合い始めて2ヶ月ほどだったと思う。

相手はちょっと年上だったけれど、私が受験生ということで、デートらしいデートはしてこなかった。
日曜日に、図書館で待ち合わせて一緒に過ごす。
それがデートだった。

でもその日は、受験生でもたまにはいいんじゃない? ってことで図書館ではなく、水族館に行くことになった。
親には「図書館に行ってくる」と嘘をついて。

もう20年以上前のことなので、どこで待ち合わせをしたとか、何を見たとか、そんなことは全く覚えていない。
でも「たしかにココに来た」ということは覚えていた。

心が、覚えていた。

それは……「はじめて」がたくさんあった日だったから。

はじめての彼と
はじめての水族館デート
はじめての図書館以外のデートで
はじめて手をつないで
はじめて……

思い出なんてものは、美化される。

実際、その彼とは2年くらい付き合ったけれど、別れてしまった。
それに、別れてからもいろいろな想いに支配された。
携帯の番号をいつまでも忘れられなかったり、振ったはずなのに別れた半年後くらいに振られたような想いをさせられた。

だから、だろうか。

シートレインランドという遊園地の、フォトスポットと書かれた先にあるハートのイルミネーションを見たときに

「失恋が似合いそう」

と思ってしまったのは。


思い出は、幾重にも積み重なる。
重なりすぎて、感覚は鈍くなる。
あのときのドキドキも、切なさも、いつの間にか埋もれてしまって思い出せなくなっていたと思っていた。
だから、もう、感じなくなるものだと思っていた。

でも、違った。

見た目にはわからなくて、本当に見えなくなっていて、頭でも覚えていない。
でもそれは、セメントのように固められていたわけではなくて、サラサラと降り積もった粉雪のようだったんだ。
ちょっとした風が吹いたら吹き飛ばされてしまうし、何かのキッカケで全部溶け去ってしまう、そんなたぐいのものだったんだ。

今回のキッカケは、名古屋港に訪れたことだった。
写真を撮って、一緒にいる方々とお話して、見えないものにしようとした。

でも、積み重なっていたものは、さーっと溶け去った。
そうしてむきだしになった想いは、もう一晩も経ったというのに、くすぶっている。

苦い想いも、甘い想いも、出来事は覚えていないというのに、こんなにも心は覚えているのだろうかというほど締め付ける。
20年という歳月なんかすっ飛ばして、ダイレクトに訴えかけられる。

30代後半になって、恋なんかもうできないかと思った。
40を過ぎてから、恋という言葉をもう口に出してはいけないんじゃないかと思った。

でも、もしかして……。
あの切なさを思い出せるのなら、まだ恋をしてもいいということなのだろうか。

失恋を思い出してしまうようなイルミネーションも、写真でフィルターをかけるように、心にもフィルターをかけることができて、恋の始まりを思い出させるようなイルミネーションに見えるのだろうか。

なんとか、昨日の写真を見返すことができそうな気がする。

■松下広美(チーム天狼院)

天狼院書店「名古屋天狼院」店長。
1979年生まれ。名古屋市出身。
2016年12月に「天狼院ライティング・ゼミ」に出会い、その後、ライティング・ゼミの上級者クラスである「プロフェッショナル・ゼミ(現 ライターズ倶楽部)」に進む。書き続けているうちに、気がついたら天狼院書店に合流をしていた(2020年5月より)。
ライティングだけではなく、フォト部部員としても活動中。相棒はSONYα7Ⅱ。

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