チーム天狼院

「ラジオ界のスラムダンク」こと『くりぃむしちゅーのオールナイトニッポン』は、今も全国にゾンビを増殖中!?《スタッフ平野の備忘録》



*この記事は、「ライティング・ゼミ」を受講したスタッフが書いたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:平野謙治(チーム天狼院)

 
 

 

ドライブ中など画面を満足に観れない時に、テレビの代わりに流すもの。
平成7年生まれの僕のラジオに対する認識は、ずっとその程度のものだった。

 

映像がない分、受け取れる情報量が少ない。言葉を選ばず言ってしまえば、テレビの劣化メディア。
いずれは廃れて、無くなるだろう。そんな風に思い込んでいた。

 

というのも、僕自身が主体的にラジオを聞いたことがなかったからだ。
たまに家族で車に乗るときに、父親が聞いている。それ以外で、聞く機会などほとんどなく。
ほとんどの家庭にテレビがあって、スマホひとつでいつでもどこでも動画が観れる現代において、メディアとしてのラジオにどのようなメリットがあるのか。全く持って、理解できていなかった。

 

そう。あの頃までは。

 
 

今から5年くらい前のことだっただろうか。まだ大学生だった頃、僕は友人と野球観戦に来ていた。ひいきのチームが同じということもあり、年数回の恒例行事だった。

 

スタジアムに着けば野球を真剣に観て、熱く語り合う僕らだが、道中は違う。野球の話もすれば、関係のない、他愛のない話もする。
帰り道だっただろうか。彼が突然、切り出してきた。「最近、とあるラジオにハマっている」と……。

 

その番組は、『くりぃむしちゅーのオールナイトニッポン』(長いので以下、『くりぃむann』)。
2008年末に既に終了している番組に、今さらながらハマったという。

 
 

なぜここにきて、ラジオ? しかもなぜ、10年以上前に終了している番組をわざわざオススメしてくるんだ?
疑問が拭えなかった僕は、話半分に聞いていた。しかし彼は諦めることなく、会う度に毎回毎回プッシュしてきた。大袈裟でなく、多分一年くらいずっと。

 

いやいやいや、しつこいよお前! エイリアン2か! と思わずツッコミたくなった僕だけれども、同時に彼の熱意に負け始めていた。
これだけオススメするなんて。実は半端なく面白いものなんじゃないか? そんな期待が、生まれ始めていた。

 

「とりあえずお願いだから、第44回、45回だけでも聞いてくれ」

 

いつもと違うリアクションを見せた僕に、「いける」と踏んだ彼は、やまびこ打線ばりに畳み掛けてきた。帰りの電車で一人になった僕はついに、彼が送ってくれた音源をクリックして聴き始めた。

 
 

……いや。なんだこれ!
期待以上にめちゃくちゃに面白い!!
電車で聴いていて、思わず吹き出して恥ずかしい思いをしてしまったじゃないか。

 

気づけば僕は、止まらなくなっていた。毎日電車に乗る時間に欠かさず聴き続け、気づけば全165回を聴いてしまった。何ならそれだけでは飽き足らず、今では2周目に突入して既に120回を超えたところだ。

 
 

すべての回を聴いて思った。
この番組は本当に、何のためにもならない!!
ニュースや社会問題を扱うことなんて皆無だし、たまにする真面目な話もその後の笑いに繋げるための前フリでしかない。下ネタも非常に多く、上田さん曰く「良識のある大人が聴く番組じゃない」。

 

だけど圧倒的な長所として、ただひたすらに面白い!!
そしてこの面白さは、ラジオならではだと思った。

上田さんと有田さんが、もともと高校のラグビー部の同期というのもあるだろう。二人のフリートークは、まるで練習終わりの部室でするようなラフさで展開される。
顧問の先生がどうとか、ラグビー部の先輩がどうとか、テレビでは決して披露されないであろう身内ネタばかりで進行していく。

 

身内ネタというと、「一部の人たちにしか伝わらない」という、悪いイメージを持つだろう。だけど決して、そうではなく。二人の展開する身内ネタは、見事なまでにリスナーを巻き込んでいく。放送終了から10年以上経った今聴いても、まるで二人の同級生になったような身近さで聴けるのだ。

 

結果、全然知らないはずの顧問の先生や、ラグビー部の先輩を、爆笑しながら聴いてしまう。それどころか、独立したキャラクターとしてリスナーたちに愛されていく。まるで本当に知っているかのように。
そんな異常事態が、このラジオでは当たり前のこととして受け入れられていく。

 

「身内ネタ」の「身内」になってしまえば、これほど面白いものはない。
思えば、そうだ。久しぶりに同級生と集まる飲み会では、もちろんお互いの近況報告もするけれど結局、「修学旅行であいつがした失敗の話」とかで、毎回机を叩いて笑っているもんな。多分それは5年後も、10年後も変わらないと思うし。それに近い魅力が、この番組にはつまっている。

 
 

そしてリスナーたちの送ってくるネタ葉書も、最高に面白い。
最近ではテレビも、「dボタンを押して回答しよう!」などとテロップが出て、参加できるものが増えてきた。双方向化、なんて言われているけれども、ラジオはその比ではないことに気付かされた。

 

ハガキや、メールが、毎回複数読み上げられるのみならず。 時にリスナーの一言が番組の展開を大きく変えていく。番組作成を一緒に担っていると言っても、過言ではないのだ。

 

有田さんとリスナーたちが協力してふざけ、カリカリがピークに達した上田さんがマジギレする、という鉄板の流れは何度聴いても笑ってしまう。

 

録画音源でも、こんなにも楽しめる。もしリアルタイムに参加し、メールを送ったりハガキを書くことができたなら、どんなに楽しかっただろう。

そんな風に当時のリスナーたちを羨ましく思っていたら、チャンスは意外にもすぐやってきた。

 
 

そう。復活放送だ。
『くりぃむann』は、人気があったにもかかわらず、突然終了してしまった番組だ。「もう一度聴きたい」との声の多さからか、ついに復活放送が実現したのだ。

 

それも、一回限りではない。7年半ぶりに復活した2016年以来、だいたい年1回のペースで放送している。
2018年の放送で、ついに僕はリアルタイムでの参加を果たした。もちろん、オススメしてくれた友人と一緒に聴いた。

 

読まれることこそ叶わなかったが、ラジオネームを考え、ハガキやメールを書いていた時間は本当に楽しかった。その分、放送が終了してしまう深夜3時は、その暗さも手伝って寂しさがドッと押し寄せてくる。

 

「楽しかった時間が終わってしまう」。
さっきまでくだらない話でバカみたいに笑っていたのに、途端にセンチメンタルな気持ちに。

 

ああ。こうして当時のリスナーたちは、また来週を楽しみに眠りについたのだろうなあ。次に書くハガキのネタとか、考えながら。
「受け手」として観るしかないテレビと違って。リスナーであると同時に、一緒に番組を作っていく「参加者」として。

 

「テレビの劣化メディア」だなんて、とんでもない。ラジオがこんなにも魅力的なものだったなんて。
『くりぃむann』によって僕は、価値観をひっくり返されてしまった。

 
 

『向井と裏方』という番組で、パンサーの向井さんは『くりぃむann』を、「ラジオ界のスラムダンク」と形容していた。リスナーとしては、物凄く納得できる例えだ。
面白さ絶頂の中で、多くのファンに惜しまれながらも幕を閉じたというのが、まさに一致している。

 

他にも似ている点はある。
レギュラー放送終了から既に12年経っている『くりぃむann』だが、なんと今年の2021年4月に、番組オフィシャルブックを発売している。
上田さんなら思わず、11月に「冷やし中華始めました」ぐらい遅いよ! と思わずツッコんでしまうであろう今さらっぷりだが、なんと恐ろしいことに発売前に重版が決まるなど、大きく話題となった(もちろん僕も買った)。

 

この様がまるで、2021年1月に映画化が発表された『SLAM DUNK』を彷彿とさせた。原作終了から25年の時を経てなお、数多くのファンを沸き立たせていた。

 

……いや、さすがに『SLAM DUNK』は言い過ぎかもな。「そんな破格のスケールでお送りしてましたっけ?」って、上田さんなら言うかもしれない。

 
 

まあそれでもとにかく、『くりぃむann』にカルト的な人気があるのは間違いない。
TwitterなどのSNSで、ラジオリスナー同士が『くりぃむann』のネタで盛り上がっているのを、今だに見かける。「たまに」というレベルではなく。探しさえすれば、絶対にどこかで盛り上がっている。

 

実際、くりぃむしちゅーのトークイベントでは、今だに『くりぃむann』のネタを毎回のように求められるという。
上田さんはそんなリスナーたちを、「まるでゾンビのよう」と表現していた。擦り切れるくらいに何度も何度も繰り返し音源を聴き続けて、決して番組への熱を絶やさないその不死身っぷりは、まさにゾンビと言えるレベルだ。

 

そして何が恐ろしいって、そのゾンビは放送終了後も増え続けている。もちろん僕だってその一人だし、オススメしてくれた友達だって、番組の存在を知ったのは放送が終了してから10年近く経った時だったという。

 

まんまとドハマりした僕も、例外なく周囲の友人たちにオススメしまくった。思い当たるだけでも、4〜5人は聞いてくれている。
想像してみればわかる。僕の周囲だけで起きていることではない。この小さな布教活動が、きっと全国の至るところで行われている。

 

カルト的な人気があるものって、大抵はとっつきにくく、入口の狭いものが多いが、『くりぃむann』は決してそんなことはない。学生をターゲットにしていただけあって、「わかりやすく、面白い」。内容はくだらないけど。何の役にも立たないくらいくだらないけど! でもひたすらに、「わかりやすく、面白い」
身内ネタこそめちゃくちゃ多いけれど、聴き続けていればそれらは理解できるし、むしろその世界にハマっていく。シュールでもないし、「わかる人にはわかる」とか、そういうネタは少ない(一部の昭和プロレスエピソードくらい)。

 

聴くきっかけさえあれば、誰もがどハマりしてしまう可能性があると、本気で思う。
だからこそ、リスナーは今も増え続けているのだろう。増殖を繰り返していくその様は、さながらバイオハザードだ。

 
 

断言する。この記事をこうして書いている今も、きっとどこかで誰かが、昔の放送音源を聞いている。
そうしてゾンビは増えていく。こちら側に来てしまったが最後。あのバカバカしくも心地よい空間から抜け出せなくなり、終いには周囲にもオススメしだすだろう。そしてゾンビはさらに、増えていく。

 

次は、あなたの番かもしれない。

 

 

◽︎平野謙治(チーム天狼院)
天狼院書店「パルコ心斎橋店」副店長。
1995年生まれ26歳。千葉県出身。
早稲田大学卒業後、広告会社に入社。2年目に退職し、2019年7月から天狼院スタッフに転身。
入社以来「東京天狼院」を中心に勤務。その後2020年10月に大阪心斎橋へと異動。
2019年2月開講のライティング・ゼミを受講。16週間で15作品がメディアグランプリに掲載される。
メディアグランプリ33rd Season, 34th Season総合優勝。
『全く興味なかったはずのダンスグループ『BE:FIRST』のせいで、危うくノーパンで出勤しそうになった話。』など、累計6作品でメディアグランプリ週間1位を獲得。
その他、『ラブホテルの階段で、ボコボコに殴られた話』など。

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