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チーム天狼院

【本屋店長の主張】「雑誌の時代は終わった」なんて、誰が決めたんだ?《川代ノート》


福岡天狼院店長の川代です。

「雑誌はもうだめだ」と言われるようになってから、ずいぶん時間が経ったように思います。少なくとも私が就活生だったときには、「出版業界は衰退している」「雑誌の売上がとにかく落ちている」という言葉をよく聞くようになっていました。でもその頃の私は「ふーんそうなんだ」くらいに、軽く捉えていました。「そうなんだ、でも、私は別に困らないからいいや」みたいな。本当に別に困らなかったんです。中高生くらいの頃には、ニコラやポップティーン、少しませていたときはCanCamなんかを隅から隅まで読んで、スクラップまでするくらいの雑誌好きでしたが、大学生にもなると、自然と雑誌を買わなくなりました。「別に、雑誌なんて見なくても困んないし」。そう思っていたのもありますし、どこか、「雑誌を毎月買ってるのはダサい」みたいな感情も、少しはあったのだと思います。どうしてか、あの頃は、何かを盲信することがひどく恥ずかしいことのように思えた。だから、いつも書店で立ち読みして終わっていました。とりあえず流行はチェックするけど、別に買うほどではない。すぐにブーム終わるし。大学生の私にとって、雑誌はわりとどうでもいい存在になっていました。あったらいいけど、別になくても困らない。そういう存在。

だから、新卒で入社した会社の大型書店に配属になったとき、まさか雑誌担当になるなんて、夢にも思っていませんでした。
私は天狼院に就職する前、しばらくの間、別の書店で働いていました。本が好き、そして本屋が大好き。大好きな本に囲まれて、毎日毎日本のことを考えて働けるのって、超幸せじゃない!? そんな単純明解な理由から就職しましたが、まさか雑誌コーナーの担当になるとは夢にも思っていなかったのです。
本が好き、って言ったけど、別に、私、雑誌ってそんなに読まないし。ってか、好きとか嫌いとか、そういう感情も生まれないくらい無関心だったんですけど。
私は動揺しました。雑誌のことを好きだった時代はとうに終わっていました。配属された頃の私にとって、「雑誌=暇つぶし」くらいのものになっていて、「雑誌の時代は終わった」と言われていても、別に心も傷めないくらいになっていたんです。そんな私が雑誌の担当って、ちょっと、おい、大丈夫? 本気で心配になりました。どうしよう、と思いました。自分はここで、こんな雑誌マニアみたいな人がたくさんいる中で働けるのだろうか? と。
そうなんです。雑誌のチームの中には、雑誌が大好きな人がたくさんいました。ブルータスとかポパイとかからそのまま出てきたみたいなシティボーイ的な人。私が知らないような洋雑誌からリトルプレスまで、この世に出ている「雑誌」や「マガジン」と名のつくものは全部隅から隅までチェックしているんじゃないかと思えるくらい、雑誌が大好きで、おしゃれな人。いろいろな人がいました。別に雑誌が好きでなくても、みんな当然のように雑誌のことを知っていました。当時、そもそもブルータスがどんな雑誌なのかすらも知らなかった私にとっては、衝撃でした。なにこれ、と思いました。本当にやっていけるの? 別に雑誌が好きじゃない私でも、雑誌の担当として働いていけるの? と、本当に不安でした。
大型書店なだけあって、死ぬほどたくさんの雑誌がありました。何千という種類の雑誌がありました。しかも雑誌はほぼ毎日のように新しいものが入荷されてきます。もう気が遠くなりそうでした。なんでこんな雑誌があんの? と言いたくなるような、見た事も聞いた事もない雑誌もありました。金魚専門の雑誌がありました。野菜の種が付録で付いてくる雑誌がありました。タトゥーの専門雑誌がありました。不思議な名前のスポーツの専門誌がありました。とにかく、世の中にはありとあらゆる雑誌があるのだということを知りました。
毎日、雑誌ばかり見ていると、目がチカチカしてきそうでした。なんだこれ。なんでこんなに雑誌っていっぱいあんの? なんでみんなこんなに雑誌を作るの? 本じゃダメなの? 不思議でした。高い外国の雑誌を買っていくお客さんを見て、不思議に思ったりもしました。なんで5000円もする雑誌を買っていくんだろう、あの人はどんな仕事をしている人なんだろう、と思いました。
でも、毎日品出しをしているだけで、いろいろな知識が頭に入ってきました。サーフィンのときのファッションはどういうのがいいか。ハワイの流行しているパンケーキ屋さんはどこか。ポートランドのコーヒーが今熱いこと。藤原ヒロシさんという人に影響を受けている人がたくさんいること。いい特集のバックナンバーはプレミアがつくくらい人気になる場合があるということ。海外には表紙が何種類もある雑誌がよくあること。素人でも読んで楽しめるデザインの雑誌があること。私の好みはどうやら世間一般的に見ると「サブカル」に分類されるらしいということ。
目まぐるしいほど、たくさんの情報が頭の中に入って行きました。
変なの、と思ったり、なんでこんなの、と思ったり。不思議でした。毎日、雑誌を読んでいるだけで、いろいろな人の情報が頭に流れ込んでくる。そして、この雑誌を読む人が、どんな人なのかも、だいたいわかるようになってくる。
発売日に、人が殺到するほど人気がある雑誌もたくさん、本当にたくさんありました。
次第に、私も雑誌を買うようになりました。立ち読みではなく。その雑誌を所有したい、と強く思うようになったんです。今までそんなこと全然思ってなかったのに。

一度、雑誌を買う習慣が身についてしまうと、「いったい何にこだわってたんだろう?」と思うようになってきて、私は気になる雑誌があれば、バンバン買うようになりました。今まで、雑誌は買ってもその情報が最新なのは今だけだから、別に買わなくてもいいや、と思っていたのに、「ほしい」と思うようになりました。もしかしたら、あとから振り返ってみれば、「なんでこんなの」と思うような、時代遅れの代物になっているかもしれない。別にこの情報は「今」必要なだけであって、別に買うほど必要な情報じゃないかもしれない。でもそれでもいいや、と思うようになったんです。私は、今、この雑誌をほしいから、だから、買うんだ。あとのこととか、もうどうでもいい。

もしかしたら、私が雑誌を買うのは、「そのときの自分」を記録しておきたいからかもしれない、と少し、思いました。
雑誌には、鮮度があります。もちろん、いつまでたっても色褪せない雑誌もありますが、基本的には、雑誌は情報を伝えるもの。そのときに「最新」の情報が集められていることが多いです。
別にそれまでは、そのとき必要な情報だけを頭の中に入れておけばいいや、と思っていました。でも雑誌を買う習慣が身についてから、気がついたんです。雑誌を買うことによって、私はそのとき、その瞬間の自分を記録できているんだと。そのとき、自分はこういう人間だったという記憶を、雑誌を手にいれることによって、止めておくことができるのだと思いました。
たとえば、私の本棚には、「MdN」という雑誌の、2015年7月号、「絶対フォント感を身につける。」という特集号があります。これは、その名の通り、「絶対音感」ならぬ「絶対フォント感」を身につけようという趣旨の特集で、そのフォントを見るだけで何のフォントか言い当てられるようになるための企画がいくつも組まれています。フォントが大好きな私にとっては、即買いでした。紙面をめくるだけで、ありとあらゆるフォントが出てくる。同じ「明朝体」でも太さや文字の細さによって全然印象が違う。そういうフォントの魅力にとりつかれました。
その雑誌が本棚に並んでいるのを見ると、私は一気に、あの頃のことを思い出すのです。私はちょうどデザインのセンスを身につけたいと思っていて、色々なデザイン雑誌をチェックしていました。なかでも、MdNは毎号欠かさず読んでいて、毎回毎回、その企画の斬新さ、鋭い切り口にいつも感動していました。なんでこんなに素晴らしい雑誌を作れるんだろうと不思議に思ったくらいです。そしてそのMdN7月号を買ったことが、私が雑誌好きになった大きな分岐点だったように思います。

雑誌は、その時間を表すものだと思います。
バックナンバーを見れば、その頃流行っていたものがわかる。何と何がつながって、今の文化が生まれているのか、なんとなく、流れが見えてくる。女子が好きなもの。男子が好きなもの。おじさんが好きなもの。料理好きの人が好きなもの。雑誌を見れば、その先にいる人がなんとなく、浮かんでくる。それが面白くて、本当に面白くて……。

だから、私は、気がついたら、雑誌が大好きになっていたんです。いつの間にか。
「ここで働いていて大丈夫かな」と不安になっていたのに、雑誌のことなんて本当に全然知らなかったのに。なのに、毎日毎日、色々な雑誌を読んで、先輩たちに「こういう雑誌があるんだよ」とか、「こういうトレンドなんだよ」とか、「この文化を生み出したのはこの人なんだよ」とか……。そういうことを毎日叩き込まれて、それを繰り返しているうちに、毎日めまぐるしく変わっていく雑誌たちを、なんとか覚えようと試行錯誤しているうちに、本気で雑誌のことが大好きになっていたんです。雑誌ってこんなに面白いんだ、と思いました。「雑誌の時代はもう終わった」なんて、嘘じゃん、と思いました。

そのことを、私は雑誌が大好きなんだということを、昨日、ちょうど、思い出したんです。

お客様に、「何かおすすめの本ありますか」と聞かれました。そして、なんとなく直感で、思いました。この人、あの雑誌がすごく好きになるんじゃないかと。

「この雑誌のこの特集、私が人生で出会った雑誌の中で、ほんっとうに一番大好きな雑誌です」

そう言ってその人に手渡したのは、「スペクテイター」の33号。忘れもしない、「クリエイティブ文章術」の特集でした。
私が初めてその雑誌を見た時、ページをめくった時。本当に衝撃を受けました。雷が落ちたような気がしました。なんだ、これは、と思いました。こんなに面白い雑誌があるのか。こんなにすばらしい雑誌があるのか。こんなに、人を狂わせる何かを持っている雑誌が、あるのか、と。
私は自分のあふれんばかりの熱に、お客様が引いてしまわないように、なるべく抑えながら、話しました。

「このスペクテイターって雑誌、年に3回くらいしか出さないんですけど、本当に毎号毎号、めっちゃくちゃ面白いんですよ。デザインもかっこいいし、中身も『なんでこんなこと思いつくの!?』っていう特集ばっかりだし。それに、なんていうか、本当に、おかしいくらいの、暑苦しいくらいの、熱を感じるんです。これを読んでると」

そう。スペクテイターは本当にすごい雑誌なんです。読んでいると、こちらにまで熱がうつってくるくらいなんです。「面白い」とか、そういう次元を通り越して、ぱらぱらページをめくっているだけで、わくわくしてくる。心臓が高鳴る。「自分もやるぞー!!!!」って、強い意志が湧いてくる。そういう雑誌なんです。本当に面白いんです。最高なんです。
幸運にも、私の直感は、当たりました。「なんだこの雑誌、かっこいい!!!」と、そのお客様は言いました。その方も興奮気味に、「なんだ、これ」「この雑誌に出会えて超嬉しい!」と笑っていました。

私とその人が、この雑誌を通して、熱を伝導させあっているのだと思いました。
雑誌って、すごい。
本当に、そう思いました。

「雑誌はもう終わりだ」と言われるようになって、ずいぶん、時間が経つような気がします。
ずいぶん前から、「出版業界はもう終わり」と言われるのと同時に、雑誌というコンテンツは、ネットに負けたとか、もう売れないとか、使えないとか、もう面白くないとか。みんなそういう空気を感じ取っていると思います。

でも、雑誌は、面白いんです。本当に、面白いんです。
雑誌は死ぬほど面白い。めっちゃくちゃ、面白い。毎号毎号、棚の隅から隅までチェックしたくなるくらい、面白い。雑誌は、興味のない分野を好きになるかもしれない、入り口なんです。私に、デザインの面白さを教えてくれ、デザイン思考を身につけたいという強い思いを抱かせてくれたのは、MdNでした。私に、女子カルチャーを切り取る視点の斬新さを教えてくれたのは、ニコラであり、ポップティーンであり、CanCamであり、Maybe!であり、小悪魔agehaであり、arでした。女子の私でも毎号必ずチェックしたくなるくらい面白い男性誌があると教えてくれたのは、メンズナックルであり、ブルータスであり、ペンであり、ポパイであり、ゲーテであり、マデュロでした。難しいビジネス書を読むのが億劫な私でも、雑誌ならビジネスへの入り口として読めると教えてくれたのは、クーリエジャポンであり、フォーブスであり、日経ビジネスアソシエでした。本当に、ありとあらゆる雑誌がありました。どれも、いくら読んでも飽きないくらい面白い。

雑誌は、面白いです。本当に面白いんです。誰がなんと言おうと。

「雑誌の時代は終わった」なんて、そんなこと、知りません。いったい誰が決めたんですか。まだわからないじゃないですか。私は、「雑誌は終わった」なんて言わないで、「雑誌の時代はこれからだ」と言い続けたい。「雑誌とかもういいや」なんて言う人もいます。でもやっぱり、私は「雑誌が大好きだ」と叫び続けたい。雑誌は本当に面白いんです。本当に大好きなんです。あれほど、心を躍らせてくれるものはないと思うんです。
オワコンだとかなんだとか言われても、いくらでも、私は言い続けたい。別に理屈も根拠もないです。誰かを納得させられるエビデンスがあるわけでもない。でも私は雑誌が好きなんです。本気で好きなんです。だから雑誌を売りたいんです。
雑誌を読もう。雑誌を買おう。雑誌は本当に面白いんです。楽しいんです。人の熱狂を伝えるための媒体なんです。

今日はどんな雑誌が来てるんだろう?
まるで宝箱を開ける前の子供みたいにわくわくしながら、雑誌を包んであるビニールひもをハサミで切る瞬間に、ああ書店員でよかったと、心の底から思うんです。私は。

***

次回のファナティック読書会のテーマは「雑誌ファナティック」です! お楽しみに!↓
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2016-12-06 | Posted in チーム天狼院, 川代ノート, 記事

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