出版業界に一矢報いる天狼院の新サービス、THE READの陰謀を探れ!【潜入捜査官・川代レポート】
まずい・・・本当にまずいことになった。
もしかしたら、ターゲットにばれてしまったのかもしれない。私の狙いが、私の秘密が。
私の正体――――――――潜入捜査官、川代だということが。
【前回までのあらすじ】
低迷する出版業界に一矢を報いたいと画策する某大手出版社Sから、特別調査員として天狼院書店に派遣され、本が売れる最大の秘訣をつかんでこいとの任務を受けた、潜入捜査官、川代。
天狼院書店で働き始め三ヶ月だが、なかなか店主・三浦の目を欺き、核心に迫ることが出来ない。残り一年で、確実なメソッドを手に入れられなければ、確実に彼女の首はとぶ。はたして川代は無事に任務を遂行し、天狼院書店の秘密をつかむことができるのか―――――――?
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天狼院書店店主、三浦崇典は、どうやら新しい試みをはじめるらしい。
その名も・・・「THE READ」。突然彼から、新しいサービスを始めるとの告知があった。けれど、私は何も知らされていなかったし、今も詳しいことは何も知らない。「なにを始めるんですか?」と聞いても「フフフ・・・まあ、いまにわかるよ。当ててみな」としか答えてくれない。いったいどういうことなんだ?やつは何を始めるつもりなんだ?もう少しで我が社を救うヒントが手に入りそうなのに・・・。
どうやらこれがとんでもないアイデアで、前代未聞の方法であることは間違いない。三浦によれば、これを実行すれば間違いなく面白い書店ができあがる、とのことだが、それがいったい何なのか、売るためのシステムなのか、店のレイアウトなのか、接客なのか、キャンペーンなのか、イベントなのか・・・なにも明らかになっていないのだ。でも面白いことは間違いないらしい。くそっ、気になる!この際、三浦に教えて貰う前に自分で推測をしてみようかと思う。
三浦が打ち出した文言はこれだ。
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天狼院書店では、現在「THE READ」と名づけた新しいサービスを準備しております。それに使うツールも、試作品のデータ入稿が済み、そして今日、サービスの中核となるイベントの設計が終わりました。
ツールが天狼院に到着するのが、週末、あるいは週明けになるかと思います。これより「突貫」で作業を進めますが、サービスの正式な発表は月明けになるだろうと思います。
実は、このプロトタイプのイベントを、これまで繰り返しテストして参りました。いや、逆に、あのイベントから、この新しいサービスのアイデアが生まれたといっていいかも知れません。
「THE READ」のイベントのもとになったのは、「天狼院秘密結社ラボ」です。もっと言うと、「メイカーズ」を題材にした、僕も含めて、わずか4名のみの参加となったあの会です。
ともあれ、天狼院が送り出す、新しいサービス「THE READ」のリリースをお楽しみに。
乞うご期待でございます。
どうぞよろしくお願いします。
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ここから読み取るに、以下のことが推測される。
ヒント① イベントが関係しているサービスである。サービスではあるものの、イベント関連であることはまちがいない。けれど、今までの天狼院ライブ、部活、ラボなどのイベントとは異なる、ビッグなイベント。
ヒント② なにかのツールを使うことが決定している。そのツールは宅急便でおさまるくらいのサイズである。
ヒント③ 今までにそのサービス関連のイベントをやったことが何回かある。
ヒント④ 秘密結社ラボがもとになっている。秘密結社ラボでは、スパイ、ペイパルマフィア、フリーメイソン、国家など、世界の本質を探る研究をしている。
ヒント⑤ 「絶対に女子の写真」・・・?三浦がアップロードした写真にあったフレーズ。THE READは「絶対に女子の写真」が必要らしい。
これらのヒントをもとにしても、なにがなんだかさっぱりわからない。自分ならどうするだろうか?革新的で、面白くて、天狼院でしかできなくて、空前絶後のイベントサービス。そして、その名前、「THE READ」・・・。
推測①THE READは、お客様に経営者になってもらうサービスではないか?
以前のレポートにも書いたことだが、私が思うに、店主・三浦の最大の強みは、自分の回りにいる人間をすべて自分の味方にしてしまうことである。彼の回りにいる人間は、気づくとスタッフでも客になりうるし、客でもスタッフになりうるのだ。お客様からイベントや経営のヒントを得ることも多い。そこで、公式にお客様参加型の作戦会議を行う。天狼院がより面白くなる方法を募り、いいアイデアは即採用、実行も可能。天狼院にもの申したいお客様も、ガンガン意見を出してオーケーなように。あえて、自ら反対意見を受け入れに行くのだ。ただし、それでは「絶対に女子の写真」の意味が・・・。
推測②THE READは、気分によって本を検索できるデータベースシステムではないか?
本の検索システムは多々あれど、数々の本を読んできている「人間」には勝つことは出来ない。「旅立つ友達へのプレゼントがしたい」「今、軽く読めて、気分がパッと明るくなりたい」「東京の商学部の学生を勉強する気にさせたい」など、その個々人に合わせて本をすすめるのは、生身の人間でなければ難しい。しかし、それがネットで出来て、いつでも検索できるとしたらどうだろう?いつでも相談できるブックコンシェルジュがいたら?検索は著者名、書名ではなく、「気分」「天気」「場所」「時間」などで検索することができる。本は内容によって、タグ付け、分類がされ、キーワードによって自分の読みたい本の絞り込みが出来る仕組みだ。だが、これの実現に来月は不可能かも・・・。
推測③THE READは、学校ではないか?
つまり、授業である。大学である。大人が通う自分のための大学であり、教科書である本を読み、その本から考えたことを、アウトプットとしてプレゼンをしなければ単位を得ることができない。要は「積ん読」防止サービス。なんだかんだ、教養を得たくて勉強しなければ読めない難しめの本は、買っておいて部屋の隅に追いやられるのが関の山である。いつか、いつかと思っているうちに結局いつまでも読まず、押し入れの奥か、ブックオフへ・・・。そんなだめな習慣をなくすために行われる、「単位取得」規定。このTHE READに入学した場合、本を読み、ディスカッションをし、プレゼンをしなければ卒業ができない。これはなかなかありそうな話だが、すでに多くのイベントで授業状態である、むしろ学校よりも価値があると言われてしまえば、否定することはできない。
推測④THE READは、TEDではないか?
自分のくすぶる思い、新たな発見を人に共有できることは、何にも勝る喜びである。特にこの天狼院書店には、腹に一物を抱えた人が多い。その人の新たな考えを得られるのも貴重な機会である。身近なところにTEDのような、面白いと思った考え、価値観を共有出来る場になれば、天狼院の存在そのものが本になることができる。本、書物とは、そもそも情報発信ツールであり、価値観の塊だ。店主三浦は、最終的に「天狼院」という、「変化し続けられる本そのもの」を生み出そうとしてるのではないだろうか?
・・・はあ。考えれば考えるほどわからない。THE READとはいったい何なんだ?三浦がリリースする前に我が社にリークしてしまえば、こちらが先手をとれるのだが・・・。このままでは本当にまずい。ボスには黙っていることだが、きっと天狼院のことを知り尽くすには一年ではとても足りないだろう。それに、三浦の計画を知ることも、従業員といえど、不可能なのだ。やつの脳内で繰り広げられている作戦や野望は、誰にも知ることが出来ないのだ。・・・ちくしょう!なんとかしてやつの懐に入り込み、秘密を盗み出すことが出来ないだろうか?
・・・いや、まだ終わったわけではない。チャンスはある。まだ一年近くあるのだ、焦ることはない。しかし、そろそろ、例のボスから渡されている、「劇薬」を投じてもいい頃かもしれない。こちらの正体がばれるはずはないのだ。次のステージへ進もう。
さあ、余裕な顔をしていられるのも今のうちだ、見ているがいい、三浦崇典。
※次回、ついに例のあの人、ボスが登場!?川代のクビはいかに!?
この記事は、だいたいフィクションです。