チーム天狼院

ピカソの絵って正直わかる?


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記事:秋田珠希(チーム天狼院)

私はピカソがわからない。
芸術作品に対して「わかる」なんておこがましい。それはそうだろう。でも、感情が動かないのはまた別だ。
「ふーん……」
なんと反応したらいいかわからないまま、終わってしまう。

画家の大家、パブロ・ピカソを知らない人はほぼいないと思う。芸術といえばピカソを思い浮かべる人もいるかもしれない。それほど有名な画家で、偉大な画家だ。ファンも多い。
でも、私はよくわからない。
ピカソの展示に行って、延々とピカソの絵を見ていた私は、わからなさすぎて悲しくなってきた。
「これは好きかな」と思うものはあるけれど、「えーっと……」となる絵も少なくない。
それが芸術だと言われればそれまでだけど、やっぱり感動したいじゃないか。
「うわ、ピカソさすがだわ……」とか言ってみたいし。
でも目の前の絵は黙ったままで、私に開いてくれている気がしなかった。
なんというか、共通言語がない感じ。扉が閉じられていて、とっかかりがない。 自分の凡人ぶりを見せつけられる。

そんな私が、原田マハさんの『暗幕のゲルニカ』を読んだ。ピカソの作品、「ゲルニカ」の話だ。

世界が不穏な時に、芸術作品に何ができるのか。

生存も危うい時代、贅沢の骨頂であるアートの役割とは何なのか。

2001年とピカソの生きていた時代の第二次世界大戦あたりの話を交互に展開させ、作品全てを使って問いかける。
そもそも「ゲルニカ」という絵は、パリに滞在していたピカソが、故郷スペインの内戦を憂いて描いた絵だ。ナチスに代表されるファシズム政権の魔の手が迫っていたスペインに救いの手を、という願いを込めて描いた絵だ。
ナチスの勢力が迫っていた当時も問題作だったが、今見ても十分恐ろしい。
そんな恐ろしい力のある絵を、周りの人々は周囲に広げようと必死になった。
わかる、わからないは問題にならない。ただ、その衝撃を広げるために。

 芸術作品はよくわからない。逆に簡単に理解されたらもう芸術作品ではないのかもしれない。ピカソもそうだが、もっと私が「?」となるのが現代アートである。人気のある印象派の絵に対して、現代アートは一般的にも「なんか難しそう……」「意味わかんない」と抵抗を感じる人が多い。
それでも、「ゲルニカ」は衝撃を与え、人々を動かした。現代アートの作品も然り。相手によっては人を動かす力を持ったものなのだ。
その力が「わからない」人でも物語からその追体験をすることはできる。

加えて、作中には、「ゲルニカ」を愛し、守り、広めていこうとする人々の姿を書かれている。登場人物はピカソだけでなく、そのパトロンやキュレーター、ピカソの恋人が書かれるため、制作の様子や現代の美術業界も覗き見ることができる。
彼らの目線から、作中で「ゲルニカ」は以下のように紹介されている。

「モノクロームの舞台に繰り広げられる、戦争の惨劇。兵隊も戦車も武器も殺し合いも描かれてはいない。それでもこれは紛れもなく戦争の場面だ。
 死んだ子供を抱いて泣き叫ぶ母親。戦慄して振り返る牡牛。折れた剣を握りしめて息絶えた兵士。腹を切り裂かれ、いななきわめく馬。灯火を掲げて窓から乗り出す女。驚いて駆け出す女。両手を高く上げて天を仰ぐ女。燃え上がる炎。開きかけたドア。」

ゲルニカは、今では誰もが見た事があるような有名な絵だ。だからこそ、衝撃という意味では薄まってしまっているのかもしれない。私も実際そうだったし、正直初めて見たときの感想は、 「戦争を描いた絵なんだ」で終わっている。
でも、この物語の中では当時の人々の動揺、専門家の目から見た「ゲルニカ」、どういう思いを持ってこの作品が描かれたかがわかる。ある思いを持って「ゲルニカ」を見ている人の目で、作品を見ることができる。
当時のバックグラウンドを理解した上で絵を見ることができる、というのは嬉しい。それが、なぜこの作品がここまで力を持ったのか、という疑問に対する答えになる。

作中で、
「————この絵を描いたのは貴様か」
と問いかけたナチスの将校に、

「いいや。この絵の作者は————あんたたちだ」
とピカソが答えるというシーンがある。

これがピカソが伝えたかったことの一つで、これが世界に衝撃をもたらした犯人だ。

この一部分だけではよくわからないかもしれない。薄っぺらい言葉でしか書けないのが悔しい。
でもそう思って「ゲルニカ」の画像を見ると、見え方が全然違う。「ふーん」で終わらず、感情が生まれる。
「ゲルニカ」はスペインのマドリードにあるから、そうそう見に行く機会はない。でももしも本物を見ることができたら。
「見れてよかった」
心からそう言える気がする。

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