チーム天狼院

わたしの長所はちょうちょ結びが下手くそなところ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事;鈴木佑香(チーム天狼院) 
 
この日もわたしの挨拶より先に、あのセリフが聞こえてきた。 
 
「ゆうちゃん! もー、またエプロンの紐ほどけてる。 ほら、やってあげるから後ろ向いて!」 
 
強引に引っ張られたわたしは為されるがままじっとして、結び終わるのを待っていた。アルバイト先のお蕎麦屋さんで働いてもう1年が経つ。パートのおばちゃんや主婦さん達には毎回恒例と言っていいほどに、「ゆうちゃん! 紐!!」って叱られてエプロンの紐を結び直してもらってる……というか強制的に直されてる。 
なんて冗談半分で友達に話したら、「自分で綺麗に結べるようになったら?」って呆れられた。……ごもっともだ。そりゃそうだ、もう20歳にもなる女子がちょうちょ結びできないなんて自慢することじゃないよね。 
 
小さいころから手先が器用なほうじゃなかった。折り紙だって、あやとりだって、楽しんで自分からやった覚えがない。今だってできるかどうか……。細かいものも苦手だった。小学生の頃、同世代の女の子の間で流行っていたシルバニアファミリーに憧れて誕生日に買ってもらったけど、袋から開けたパーツが想像以上に小さくて結局一度も遊ばなかった。中学の時も家庭科の授業で玉止めができなくって居残り練習したくらい。とにもかくにも手先が器用じゃない。 
そもそもちょうちょ結びって誰から教わったんだろう? 学校で教わった記憶もないし、「ちょうちょ結びはこうやってやるんですよ」なんて誰かが教えてくれたわけでもない。教わって無いのだから下手くそで当たり前じゃないか!  
 
と言っても、教わる機会が無かったちょうちょ結びは、日常のいろんなタイミングでよく使う。できないとかなり不便だ。ラッピングや洋服のリボン、それにエプロンだってちょうちょ結び。でも一番不便なのは毎日履いてるスニーカーの靴紐もだ。足のサイズが大きいわたしはヒール靴やかわいいデザインのものが入らないし、外反母趾気味なのもあって、大体履いているのはスニーカー。となると、毎日と言っていいほどちょうちょ結びをする。 
 
 
この日もスニーカーを履いて友達と2人、駅前でお茶をして帰るときだった。 
 
「またぁ?(笑)」 
 
わたしの靴紐がまたほどけていた。ついさっき結び直したのに。道の端でしゃがんで結び直している私に、友達がふと頭上で
「私だったら面倒でギュって固結びしちゃうけど、何回も結び直すとこやっぱりゆうかだよね」と呟いた。 
どういうこと? 友達の言ってることがよくわからず聞き返したら、ゆうかの長所の話しなんて言われてその時は余計に分からなかった。 
 
歩く度にわたしの下手くそなちょうちょ結びはほどけてゆく。ほどける度にしゃがんで結び直して、また歩く。ただの繰り返しだ、と思っていた。どこが長所なのか……。 
 
そういえば、今まで全部頑張って頑張って、失敗して、また頑張って、の繰り返しだった。 
 
習い事も一緒に始めた友達と比べて一番上達が遅かったし、中学校から始めた吹奏楽部でのクラリネットも上達するのに時間がかかった。高校受験、大学受験も思い通りの結果にはならなかった。今まで思い通りにならなかったことの方が多い。何度も頑張るのが怖くなって嫌になったけど、次の日にはまた歩き出している。 
 
わたしは何回だって結び直してまた歩き出す。上手く仕事はこなせないかもしれない。失敗だってたくさんしてしまうし不器用な私は壁にだって何度もぶつかる。けれど何度だってわたしは気合を入れ直して歩き出せる。ほどけてるよって教えてくれる、注意してくれる人も、靴紐を結び直すまで待ってくれる、支えてくれる人が私にはいる。それに、「もー、しょうがないなぁ。やってあげる」って面倒見てくれる人も私にはいる。 
 
ほどけた分だけ躓くけれど同じ分だけわたしは結び直して前に進める。 
 
確かに、わたしの長所だ。そういうことか。 

さらっと呟いていたけど、褒めてくれてたんだなぁと少し照れ臭い。 

今度会った時、「確かに、わたしの長所はちょうちょ結びが下手くそなところだね」って友達に報告しよう。 

 

言いたい事伝わったよ、ありがとうなんていうのはちょっと照れ臭いから。 
 
 
≪終わり≫ 

***

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