チーム天狼院

かっこ悪いのは案外楽しかったりする


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記事:秋田珠希(チーム天狼院)

「バレーボールって、案外かっこ悪いかも」
そう思ったのは、人生最初のバレーボールの試合の時だった。
私は高校1年で、控え選手としてベンチ入りはしていたものの、試合には出ていなかった。選手の荷物置き場が観客席にあって、私はそこに荷物を取りに行った。
観客席から試合を見ると、選手たちを上から見る形になる。控えの選手としてベンチから試合を見る時とは、視点が変わる。
上から見たバレーボールは、どことなく不格好だった。
前に体重移動させてボールを拾うものだから、どうしてもどこかつんのめって転んだような印象を与える。腰を落として構える体勢もそもそもスマートではないし、そこからボールを拾うフォームは自ら地面に突っ込むかのようだ。
花形とされるスパイクも、綺麗なフォームで打つのは難しい。だいたいボールに合わせ、無理のあるフォームになる。ぴょんと跳ねてボールに触るだけというスパイクでないものになってしまうこともある。
何でこんなにかっこ悪いことを、わざわざやってるんだろう。
その日、なんとなく幻滅して帰ったのを覚えている。

私は、高校で初めてバレーボールを始めた。中学の頃の体育の授業でバレーボールをやったのが楽しかったからというのがその理由だった。
あとは、少年ジャンプの「ハイキュー!」に影響されたということもある。プレーシーンがとにかくかっこよかった。漫画の中の登場人物たちは、どんなプレーをしていても精彩をはなっていた。
現実と漫画は違う。
それはわかっていたのだが、部活に入った私を待っていたのは予想以上のギャップだった。
「遅い! もっと足動かせ!」
「はい!」
顧問に怒られながら、ボールを追う日々。文字通り、足が動かない。前に落ちるボールを力なく見てしまう。
前に動くのに、こんなに力が必要なのかと思った。
動こう、と思う間にボールは地面についている。しかもボールを拾おうとしているわけだから、ボールが地面に着くところを見ているわけだ。
見ているだけで何もできない。あの無力感は忘れられない。
試合を見たのは、そんなことを感じていた時だった。試合を上から俯瞰して見た私は、予想外のかっこ悪さにがっくりきてしまった。
もっとかっこいいものだと思っていた。必死な姿はかっこいいものだと思っていた。だから頑張っていたのに。
そんな希望は粉々に砕かれた。
かっこいいスポーツなんて、そんな幻想を抱く方が間違っていたのだ。
必死にボールを追いかける姿勢が、私にはひどくかっこ悪く見えた。

それからもバレーボールは続けた。
幻滅したからといってやめる方がかっこ悪いと思った。部活の時間、ひたすらボールを追いかけた。素人で、下手くそな私が部活についていくには、たとえどんなに情けなくても、かっこ悪くても、全力でやるしかなかった。
素人だった私は、部員が少なすぎてベンチ入りすることはあっても試合に出ることはない。初めて試合に出たのは、高校2年生の頃、一つ上の先輩が怪我をした時だった。
初めての試合。
緊張で硬くなった。
先輩に大丈夫だと声をかけられた。
「ボールは上に上げればいいから」
取りやすいトスにしようとか、余計なことは考えなくていいということなんだろう。それにしたって難しかった。
やっと緊張がほぐれた、試合中盤のことだった。
トスが相手のスパイカーに上がった。
来る。
身構えた。スパイカーの腕が後ろに回され、ボールを叩く。
ボールが落ちる。
落下点はコートの前の方にいる人と後ろにいる人のちょうど真ん中くらい。
私の右斜め前。
足が、出た。
ボールの落下地点に、前のめりに突っ込んだ。
フォームのことは忘れていた。ただ、ボールを落としたくなかった。
絶対私が取る。
パン、という音とともに、ボールが腕に当たったのが見えた。
「上がっ、たっ」
ちょうど自陣のトスを上げる人の位置にボールが上がっていた。
トスが上がり、先輩がスパイクを打つ。
ダアンと音がした。ボールが体育館の床に跳ねた。

私、レシーブ、でき、た……?

歓声が聞こえた。
「ナイスレシーブ!」とハイタッチされた。
顧問にも、先輩方にも褒めてもらった。
でもそれ以上に、ボールだけが見えたあの瞬間が忘れられなかった。
自分が素人なことも、フォームがかっこ悪いことも、全部消えたあの瞬間。
必死にボールに突っ込んだ時の、雑音が消えたような感覚。
ボールが上がった時の、ゾクゾクするような快感。
心の中でガッツポーズをした。
ああ、みんなこのためにやってるんだな。
他のことは、もはやどうでも良かった。

部活から引退して、バレーボールに触れることもなくなった頃。
「何必死になっちゃってんの」と言われるくらいが丁度いい、と言われたことがある。
そのくらい頑張れ、人と差をつけるにはそのくらいやれといったニュアンスだった。かっこ悪く思えても、結果を出すためには必要なことだと。
でも、私は違うと思う。
そのくらいやらないと、楽しくない。

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