チーム天狼院

人は目に見えないものが見えてる


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記事:北村祥子(チーム天狼院)

わたしには感情がないと思っていた。
 

「祥子には情熱がある」
「生に対してのパッションに満ち溢れてる」
 

前者は仲のいい友達がグループチャットで各メンバーの長所を一言ずつ挙げてくれた時の言葉。後者は恋人だった人がわたしのたくさんいいところについて書き連ねた最後に、「なにより」として挙げてくれた。でも情熱って感情と何だか関係のありそうなものだ。目に見えないという共通点もある。自分の認識と周りの人達が思っていることはどうやら乖離がありそうだ。
 

全然ピンとこない。情熱ってなんだ?

 
 

わたしが感情について思い当たる節があるとすると、友達と話していて、良いことを言われたから嬉しい、とか、良くないことを言われたから悲しい嫌だなぁ、とか。その程度だった。ある種、事務処理するかのように出来事をプラスかマイナスに振り分ける、みたいな。そこに強く突き動かされるような心の動きはない。自分の出来なさが嫌で泣くこともあったし、仲間と一緒に頑張ってその成功に感動したこともあった。もちろん心から思ってはいた。偽りの気持ちではないんだけど、やっぱり単純作業というか、芯まで響くものではなかった。
 

そんなわたしの信念を一変させる出来事があった。

 

高校三年生、センター試験の後、多分1月25日くらいだったと思う。満点も狙えるフランス語の試験で大失敗をした。多くの国立大学といくつかの私立大学では英語の代わりにフランス語を使って受験できる制度があるのだ。過去問と同じように解ければ9割は取れるだろうと見積もっていた。そんな本番で7割にしか届かなかった。小学生高学年か、中学生か、気付いた時にはどんな時にも頭の片隅に大学受験のことがあった。常に偏差値の高い大学に進学しなくてはいけないという思いはまとわりついて、勉強は面白いとか好きとか考える余裕がなくて、とにかく義務だった。その大学受験の大事な大事な本番でミスしたのだ。今までの努力と時間、もっと言えば人生は何だったんだ。人生で自分を優等生だと思ったことなんて一度たりともない。なんなら今でも劣等生だと思っている。一緒にフランス語の授業を取っていた同級生5人の中で一番できが悪かった。自分は不器用で手順を覚える必要があることはなんでも時間がかかる。母親の「自分は優秀だった。いつも成績は一番や二番だった」という言葉に苦しめられ続けていた。だから私立大学に指定推薦で進学した母とは違う、国立大学を目指した。けどその夢は断たれつつある……。第一志望だった国立大学どころか、これじゃあ出願を予定している大学はどこも入れてくれない。高校で文化祭の実行委員を全力でやって最高に楽しかったけど、振り切って毎日朝から晩まで遊んだ訳でも部活に打ち込んだ訳でもない、勉強あるから、って思って制限かけてきた今までわたしの中途半端な人生どうなっちゃうの!!! 受験に振り回されて生きてきたのに、その受験さえもこのままでは不甲斐ない結果で終わるよ!! 崖っぷちだよ!!
 

そんな時、指定校推薦で慶應法学部に進学が決定していた親友と学校の近くですれ違った。わたしはすがる思いでフランス語の先生に添削をお願いした帰りだった。かけてくれた言葉は思い出せない。誕生日が近かったからそれに関連することかもしれない。そんなことはどうだっていい。
大事なのはその時の空気だ。もう本当に温かくて優しくて心が包まれた。相手が言葉には出さないけれど、奥ではしっかりと応援してくれているのが心に直接届いた。わたしは何かを受け取った。そして震え、一気に救われた。柔らかいけれど、強い力があった。ああこんなことってあるんだなあ。他人と融合しているような気がした。これが初めての感情との出会いだと思っている。
 

それ以来、感情のことが知りたくて知りたくてしょうがなかった。いっぱい考えた結果、感情は能動的なものと受動的なものの二種類があるんだと思う。能動的感情は意志で自分発信のもの、受動的感情は駆り立てられる他人発信で自分の制御が効かないもの。わたしが感情だと思ってきたものは受動的感情に該当する。
わたしはもっとこうやって生きたいとか、よりよくなりたい、自分の知らないことに関心を持ってこれしてみたい、そういうエネルギーはあるタイプだと思う。から、周りの人達はそれを目にはできないけれども、感じ取って「情熱がある」って言ってくれたんだと思う。感情はないと思って生きてきたけれど、ちゃんと能動的感情はあって、受動的感情を感じてなかっただけなんだ。
 

人の心を感じた時、人の心は動く。感情は流れる。その人の心の美しさを何かに残して留めておきたい。この出来事以来、わたしの夢だ。相手から影響を受けて自分に生まれた感情を大切にする。もちろん、人間には愚かでダメダメなところもある。そんなところばかりと言ってもいいくらいだ。でも、それも含めて、人と人が真剣に向き合って関わり合うって本当に尊い。相手の心に宿ったものが移植される。それが自分の中で何を生むか。その関わりは予想できないから面白い。だって人の心に働きかけてまっすぐに思いが届くのは人にだけしかできないことだ。どんなに人工知能が発達しても。発信することだけじゃなくて、受け取ることができるのは人の素敵なところだ。そして、人の潜在意識は幸か不幸か必ず伝わる。マイナスの感情を抱いていたら、口には出さなくても絶対相手にわかる。
感情は目に見えないけれど、確かに人と人の間に流れていて、人はそれをちゃんと見ることができるんだ。
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