チーム天狼院

我が家から去るテレビと家族との深いい話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:小峯美保(チーム天狼院)
 
「テレビ買う?」
 
耳を疑った。
 
理由がはっきりしないのに物を買うことのあまりない旦那の一言。しかもボソボソと、相手に聞こえないほどの声で話すのが主流の旦那。その口から、聞こえている事にも、驚いた。
長いこと会話の成り立ってなかった旦那の合いの手の入れ方にも唖然。
 
二度目、耳を疑った。
 
「あ、そやね、ま、これでも困ってないよ。子供がじっくり見るのも週に何度かだけだし、私もつけてるいても耳で聴いてる事が主だしね」
 
私は、言葉の通りそんなにテレビに依存していない。じっと前に座って見る時間がないのも手伝って、言ってくれたものの、あまり気のない返答をしてしまった。
 
「そう?それなら構わないけど。液晶って割れたら全体的に、こんな風に変わってくんやな、びっくりや」
 
旦那は、いつになくそう言って、反応の薄さに物足りなそうだった。
今思えば私のそのリアクションは、自分でも返答すらあんまり覚えてなくて、かなりそっけく見えたと思う。
 
この時期私は、秋の学校行事で頭がいっぱい。その上起こる様々な子どもの起こすアクシデント。少々疲れた状況ではあったと思う。その時は、土曜登校に出かけた子どもの居ない、つかの間のぼーっとした時間。久しぶり旦那と一緒にテレビを見ていたというより、音と画面の変わる方向を見ているという感じだった。そんな中の旦那の問いかけに、損得感情や物欲が働く事はなかった。
それよりもテレビを買う為、家電量販店に見に行く事で時間を取られる事の方が惜しかった。家電量販店を覗く事は好きで、せっかく旦那もいつになくフレンドリーにしてくれて、出かければ息抜きもできたかもしれなかったが、その時の私には、ピンとこない事だった。
 
実は、旦那の話にあったように、うちの現在のテレビは、液晶が割れている。幸い割れている箇所が左下の隅の打撲箇所を起点にして、上下に10センチほどの黒い帯が通っている状況。
通販番組の価格のところが上手く隠れてしまい、これが購買意欲を抑えるのにもってこいの状況で、珍しく困っているより便利な事になっている。ドラマではそんなにガン見しない限り、ストーリーがわからないという事もなく、
 
「なんやろね、だれがいるんやろね。見えへんけどおもろいねぇ」
 
などと子供との会話も広がり、楽しいテレビ時間もうまれ、案外我が家に円満を作り出すテレビ鑑賞スタイルにあっている。
情報番組でも、ゲストコメンテーターの紹介で向かって左端の人は、紹介される声で名前しかわからない。毎朝、好きで見ているNHKの朝番組、『朝イチ』でのスタートトークも、博多華丸・大吉の姿しかない。今ではお二方の大ファン。イノッチ、有働アナの譲れない頃を忘れつつあるくらい定着している状況だ。
 
それでも面白がりながらもすぐさまわからないのでちょいちょい困る事の一つは、「天気予報」。
週間天気予報の地域がわからない。だいたいうえから、北海道、東北、関東、東海、近畿、中国四国、九州、沖縄、これはワンシートで出される場合。
ツーシートで「まずは、東日本」「つづいて、西日本」となる場合、それによって、知りたい京滋地方を予測して、だいたい割り出してみる。
 
そして、これはあんまりよろしくないのだが、「地震速報」の時。
震度がわからない。あった地域は、右側で左に通常「震度〇…市町村」という具合に縦に並んでくる。
どれくらいの地震かは、速報からの「ここで地震に関する詳しい情報をニュースデスクから」というような展開でしか察する事は出来ず、親子のリレーションと会話が絶える事なく続き、大丈夫であろうと終息する。先日も地震速報が出た際に
 
「お母さん、地震やけど滋賀でやって!おばあちゃんとこや一番上!えーっ、ここも揺れてる、気がついてないし、震度1かな?揺れてないよな。おばあちゃんとこ、大きかったら電話せなあかんけど、大丈夫かな」長男のスピーチ。判断が的確である。
 
長男は、テレビがこういう状況になる前から、我が家のスピーカー的存在ではあった。しかし、さらに先を予測することが加わり、判断力にスピード感が加わった気がする。そしてそのアナウンスをうけ、次男が私の携帯を叩く
 
「ほんまはどうなの?調べて電話しないと」
 
若干8歳と11歳のリレーションである。親バカではあるが間近でみていて、頼もしい。
こうなるとあまり困るより、我が家でのコミュニケーション能力の向上に貢献してくれているかの様なテレビ。愛おしい気持ちさえ生まれていたのだ。
 
そんなある時、なんだか出演者の顔が黄色い気がする。
いやでもこれ、4K対応のはず。4K放送が導入された時にチューナーとかを外付けすることにより、あの素晴らしい画質が目の前に広がるという、ちょっと良い仕様である。
そんなテレビが液晶の破損により、一部の破損だけでなく、全体に白っぽく黄色っぽい画質にどんどん変身していっていた事に急に気が付いた。
 
急に悲しくなった。
一緒に壊れても見にくさを楽しめれば、映らなくなるのがずっと先だと思っていた。壊れてから、家族の思い出のシーンにテレビがいた。
テレビは、もう家族の一員のような存在だった。
近く来る別れの時。
 
「ありがとう 楽しかったよ、壊してごめんね」
 
私も子供も名残惜しい別れるなりそうである。
 
***

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2018-10-27 | Posted in チーム天狼院

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