メディアグランプリ

惣菜と言う勲章


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:大村侑太郎(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
多分、働いている人の大多数が望んで今の仕事をしているわけじゃない。
誰もが現状に不満を持ちながら、それでも日々の生活の糧を得るため、今日と言う日を生きるため働いている。しんどいことだ。心の中で「もっと違う職場なら」「もっと環境が良ければ」と思うこともある。
こんなに頑張っているのに誰も自分を見てくれない、そう悩む時もきっとある。
特に、社会人になったばかりの若い方などは尚更そう思う時があるかもしれない。
だけど、誰も見ていないなんてことはない。そのことを僕が感じた体験がある。
 
「これ、良かったら食べてみてください」
そう言って、店員の方が僕に惣菜のパックを渡そうとした。
「え、いいですか? ではお金払います」
僕は財布に手を伸ばす。
「あ、お金はいいですよ。サービスですから」
優しい声で店員は答えた。
「すいません、ありがとうございます」
僕は頭を下げて店を出た。態度はあくまで平静に勤めようと努力した。
けれど、心の中では涙が出るくらい嬉しかった。
 
今の職場に転職して半年になる。長く非正規雇用で務めた前職を辞め、ようやく見つけたのが今の職場だった。
無我夢中で仕事をこなすだけの日々が過ぎると、ある程度落ち着いて仕事について考えることができる。勿論、やりがいも感じている。しかし、今までの仕事に比べると体力的にきついことも多く、ちょうど夏の時期に入っていたこともあり疲労の度合いが今まで以上に濃ゆくなっていた。
仕事内容を詳しく書くことは出来ないが、一人で客先を訪問する仕事をしている。その点では気楽さもある。だが、毎日汗まみれになって働いても誰も僕のそんな姿など見てもいなければ、知らないという虚しさを感じるようになっていた。
クリエイターのように自分の仕事を世の中に発信できるわけでもなく、成果が直接の数字として見える仕事でもない。そんなことは最初からわかっていたはずだった。しかし、頭で理解することと現実に自分の身でそれを体験することは別問題だ。
日によってはあまり昼休みが取れないこともあり、考えることがどんどんマイナスなことしか考えられなくなっていた。
 
そんな仕事の中で数少ない楽しみが昼休みに食べる弁当だ。僕が良く行く店は今の時代にしては安く、量もそれなりのものを提供しており重宝している。
店員と世間話などをしたことはないが、毎日のように同じ格好で現れる僕を覚えていてくれたのだろう。向こうから「こんにちは」と挨拶をされる時もあった。
そして、ある日いつものように弁当を買った僕に惣菜をサービスとして付けてくれた。
 
嬉しかった。心の底から嬉しかった。
 
勿論、無料で食べ物が多く食べられるという喜びもある。だがそれ以上に僕が感動したの「ここに生きている僕という存在を見ている人がいた」と思えたからだった。
まるで作業のような繰り返しの日々に、自分自身が機械の部品のように感じてならなかった。実際、会社と言う枠組みの中ではそうした在り方は間違っていないとは思う。自分の立場で会社のために何ができるのか、そのためには個人的な感情や不満を抑えて自分の役割に徹しなければならない。
だが、必要なことだと理解していながらも成果が見え辛いことをやっていると自分が本当に生きていると言えるのかさえ疑問に思っていた。
 
そんな気持ちを、この惣菜を頂けた出来事が変えてくれた。
 
自分を見ているのは何も自社の人間だけではない。その日その日に出会った多くの人が自分の姿を見ているのだ。
その人たちには僕がやっている仕事の成果はわからないだろう。だけど、働いている僕が今ここに生きているということをその人たちはちゃんと見ている。
誰かがきちんと見ていてくれるのだ。
 
惣菜をもらったことは、まるで勲章を得たような出来事だ。
これ程顔を覚えてもらっているということは、それだけ仕事を続けてきたという証明だ。
仕事を続けていけるかと不安に思っていたが、自信にもなった。
改めて弁当屋の方には感謝を表したい。
 
誰かがきっと自分を見ていると言われても、根拠のない言葉に反発したくなる人もいるかもしれない。
その気持ちはよくわかる。僕もそうだった。
だけど不満を持ちながらやっている仕事でも、どうせ生活のためにしないといけないなら続けられる仕事であれば根気強く続けてみることをお勧めしたい。
自分の存在を示すためには、続けていくことが何より大切だ。
そして自分を見ているのは会社の人間だけではない。根気強く続け先には、貴方だけの勲章をもらえる日がきっと来る。
 
 
 
 
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2019-09-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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