メディアグランプリ

挨拶は「最後の手段」になりうる


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:岩井聡史(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 

「もういいです。口を開かないでください」
 
アルバイトを始めて1ヵ月で、パートのおばさんから国交断絶が言い渡され、そこから冷戦状態に。
そして、現在アルバイトを始めて2ヵ月、パートのおばさんと友好関係にある。
交戦状態から一転、どう友好関係にまでなったのか。
僕がしたことは、挨拶だ。
だが、その挨拶が「最後の手段」となり、友好関係を築くにいたったのだ。
 
飲食店でアルバイトを始めたのは、2019年8月。
小さな店舗だから、開店前にも僕を合わせて3人しかいない。
店長のおばさん、パートのおばさん、そして僕だ。
 
業種柄、食料品の規則は非常に細かい。
材料の入った袋をさわるときは手袋を、でも袋を切るためのはさみを使うときは手袋をしてはいけない、など。
僕はまず、この細かい規則を覚える必要があった。
 
当たり前だが、初めはわからないことだらけで、逐一パートのおばさんから注意を受けた。
もちろん、僕も教えてもらっているから、注意を受けるたび「ありがとうございます」と言った。
 
しかし働き始めて、2週間後くらいのころ。明らかに注意の内容が変わってきた。
「今、はさみを消毒してないですよね? 何回言われたら覚えるのですか。」
僕ははさみを消毒していた。
パートのおばさんは大量の揚げ物をしていたし、僕と位置的に離れていた。
消毒のきりふきの音なんて聞こえるはずがない。
 
「いえ、教えて頂いた通りにやりました」
「言い訳しないでください。やっていないものはやっていないのです。」
 
明らかに敵意が含まれていた。
その時のことを、仲良くなったあとに聞いてみたら、当時僕のことが非常に嫌いだったそうだ。理由は、僕が一度後片づけをせずに帰ったことが原因だったらしい。
 
そこから段々と注意に人格否定が含まれるようになり、僕も流石にイライラして言い返すようになった。
そして例の一言。
口を開くな、と。
そこから僕もあまりに腹立たしかったので、何を言われても、パートのおばさんを無視することにした。
 
知人にこのことを話したら「そんな状態やと君もストレスが溜まるやろ? だから関係を良くするためにも挨拶だけはしといた方がええで。」と言われた。
 
挨拶だけで関係が良くなるような段階じゃない、正直そう思ったが、確かにストレスはあったので、実行することにした。
 
とにかく挨拶を続けてみた。
もちろん、無視され続けた。
 
ある日のこと。
あまりにもひどく言われている僕をみかねて、店長のおばさんがパートのおばさんに注意をした。注意と人格否定は違うし、ミスをするのはお互い様だ、と。
今度は店長のおばさんとパートのおばさんのケンカが始まり、その日、パートのおばさんは怒って帰ってしまった。
帰り際、僕は挨拶をしてみたが、案の定無視された。
 
ところが、だ。
翌週、憂鬱になりながら出勤すると、なんとパートのおばさんが僕に話しかけてきたのだ。店長の教え方だと岩井さんはダメになる、と。そこからパートのおばさんの愚痴が始まり、僕は適度に相槌をうって聞いてみた。
そして、その日を境に現在にいたるまでパートのおばさんと友好関係にある。
 
仲良くなったきっかけは、店長とパートのおばさんのケンカだ。
しかしパートのおばさんが店長の愚痴を僕に言ったのは、たぶん僕が挨拶をし続けたからだと思う。愚痴を言うだけなら、家族や友人にも言えただろうし、僕を愚痴を言う相手に選ぶ必要はなかったはずだ。
それなのに僕を選んだのは、僕が挨拶を続けたことで、関係を改善したいという意思を見せ続けたからだろう。
 
僕は、挨拶は「コミュニケーションの入り口」だと思っていた。
でも、その人とのコミュニケーションが断絶された、または断絶されそうなとき、挨拶はコミュニケーションの「最後の手段」にもなりうる。
 
険悪な人間関係を一発で良くする方法なんてない。あれば誰も人間関係に悩まない。だけど挨拶を続けることで、その人との関係を完全に遮断せずにすむ。険悪な人間関係でも、関係をなんとか持ち続けることで、改善するチャンスを待つことができる。
 
あのとき僕がパートのおばさんを無視し続けたら、店長とケンカしたあとも、僕に愚痴を話さなかっただろう。そして僕は今もストレスフルに働いていたはずだ。
 
嫌いな人と関係を良くしようとするのは大変だし、できれば嫌いな人からは離れ続けたい。でも離れたいから離れられることは、社会においてそうはない。
だからこそ今どうしても嫌いな人・苦手な人がいる人は、挨拶という「最後の手段」を続けてみてほしい。関係改善という逆転の機会を逃さないために。
 
 
 
 
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2019-11-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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