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メディアグランプリ

薬箱のような本棚がほしいと気づいた日


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:田口純美(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
「おかあさん、これ何? どういうこと?」
八歳の長女の視線の先にあるテレビが、沖縄の平和の礎に新たな刻銘が追加されたというニュースを伝えている。
戦争で亡くなった人を偲んでお名前を石碑に記すのよ。
私がそう答えても長女は不思議そうな顔をしている。それもそのはずだ。現代の日本を生きる八歳に、どんな言葉を持って「戦争」を伝えたらよいのか。私は途方に暮れる。だいたい、私の父親でさえ、第二次世界大戦終戦後の生まれだから戦争の記憶を持っておらず、私は親から戦争経験を聞いたことすら無いのだ。
 
あ、そうだ。いいものあるわ。私は、録画しておいた映画を思い出し、再生した。
これ見てみようか。
 
「この世界の片隅に」
 
美しく優しい昭和の広島の景色の中、ちょっとぼんやりした主人公の成長が足早に描かれていく。長女は絵が好きなこともあってか、このアニメ映画にひきこまれている様子だ。主人公の結婚あたりから、のんびりした主人公の空気感をよそに、世の中は戦争の色がだんだん強くなっていく。
 
戦争部分は、長女にわかるように少し解説をする。
「飛行機がたくさん飛んできたでしょう。敵が爆弾を落としに来てるの。」
「食べ物は、決められた分しか買うことができないんだね」
「これは防空壕といって、爆弾が落ちてくる時に逃げ込む穴だよ。」
「この光は、広島に原子爆弾という特別な爆弾が落ちたときのことだよ」
長女は無言で映画を見ている。真剣な瞳をむけて。
 
途中から物語に現れた小さな少女を見た長女が、私に訊ねる。
「おかあさん、この子死んじゃう?」
 
うん。あとのほうでね、死んじゃう。
戦争の物語ゆえ避けて通れない死。いろいろなかたちで失われていく命。いくつもの死がこの物語には出てくる。死だけではない。遊郭。軍港。戦争孤児。正義という建前で失われる普通の生活。それでも気持ちになんとか折り合いをつけて前を向いて生きる普通の人々。
長女の心の中では、どんなふうにこの物語が受け止められているのだろうか。
 
長女と映画を見続けているうちに、最近のコロナウイルスによる緊急事態の日々を私は思い出していた。コロナウイルスを「敵」と、コロナウイルスとの戦いを「戦争」と言ったメディアもたくさんあった。たしかにそうかもしれない。緊急事態のなかで、それまでの「普通の生活」ができなくても、生きていかなくてはならない。突然の死が愛する人を奪い絶望しても納得がいかなくても、残された人々は生きていかなくてはならない。戦争は、前線で戦っている人たちだけのものではない。
生きているといろんなことがあるよな。コロナウイルス緊急事態の日々を経験したためか、今までとは少し違って、私は戦争も自分から遠くないことだと感じた。見直したことで気づく自分の変化。世の中も私も変わり続けているのだ。
 
ふと時計に目を向けると、いつもの入浴の時間が近づいている。明日も朝から登校だ。まだくいいるように映画を見ている長女だったが、寝る時間が遅くなりそうだったので、戦争のシーンを選んで駆け足で映画を見終えた。
 
「コミックスもあるから読んでみる?」
引越ししてからまだ開けていない段ボールから本を漁り、「この世界の片隅に」のコミックス上中下巻を探し出して、長女に渡す。
 
その晩から一週間以上、長女は毎晩コミックスをめくっている。ルビのない読めない漢字もあるはずだが絵から伝わるのか、コミックスを読んでいるときは、ひとことも言葉を発することなく、じっくりじっくり飽きずにページを進めている。これだけ没頭しているのは初めてだ。
 
私は嬉しい。
 
私が長女に初めて手渡した漫画が「この世界の片隅に」であったこと。
私が好きなものを、長女も気に入ってくれたということが嬉しい。これは、中学生や高校生の頃に、友人と本や漫画の貸し借りをしていた時の感覚と同じ。それに、自分の子供と読んだ本の感想を話し合うことができるようになった。長女も成長している。
 
そしてもうひとつ。長女が気になった「平和の礎への刻銘」というきっかけから、映画や漫画というツールを使って、長女自身の感性で戦争にふれたことが嬉しい。私という曖昧で自信のないフィルターを通した情報ではなく、映画や漫画から知る、という方法があることを長女が知る機会にもなった。
 
これから成長するにつれて、子供たちは学校で習わない・教科書に載っていないできごとに直面していくだろう。変化のスピードの早い世の中でも、困った時は本や映画が役にたち心の支えになるかもしれない。親が子供にやってあげられることなんてほんのぽっちり。見守って、応援して、祈るしかない。子供たちからの質問には、これ読んでごらん、と今回のように本を手渡していきたい。そんなかたちで子供たちへエールを送れたらいいな。
 
やっぱり、次に引っ越したらリビングに大きな本棚を作ろう。そこに家族みんなの好きな本を並べたら、きっと漢方薬の薬箱のように、じわりと効く本棚になるだろう。
あ、また夢が増えた。
 
 
 
 
***
 
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2020-06-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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