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メディアグランプリ

うっかり檻に居座るところだった


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:イマムラカナコ(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
「英会話のスクールに、一緒に通ってみない?」
 
職場の先輩からそう持ち掛けられた時、すぐに返事ができなかった。
本当は、ものすごく引かれたのだけれど。
 
大学を卒業して、ほぼ使うことのなかった英語。
 
仕事でもないのに、40歳を超えて、できないかもしれないことに敢えて取り組むのは、何だか億劫に思えた。
挑戦したいという思いがピョコンと芽生えていたにも関わらず、何かが私が一歩踏み出すのを阻んでいた。
 
英語を使うのは、正に年に1回だけだった。
実は、大学時代からドイツ人の女性と文通をしていた。
文通と言っても、年に1回のクリスマスカードに近況を綴った手紙を添えて、やり取りしているだけだ。
彼女はネイティブ並みに英語が上手く、クリスマスカードに同封される便箋には、毎回何枚にもわたって、びっしりと彼女の生活や出来事が書き連ねてあった。
そして、このやり取りは、かれこれ30年近く続く毎年の恒例行事になっている。
 
この文通のようなものを、長い間忍耐強く続けてくれている彼女に、私は感謝でしかない。
 
何故なら、私の文章ときたら、シンプルそのもの。
……お元気ですか? 私は元気です。家族に○○なことがありました。今度は○○なことがしたいです。今年は○○に旅行に行きました、
……まるで、小学生の夏休みの絵日記みたい。
彼女の文章と比べると恥ずかしくなるが、クリスマスシーズンに間に合うことを目標にして、毎回下手な手紙に後悔を残しつつ、ポストへ投函していた。
 
英語自体は、好きだった。
中学生になれば英語が始まるからと、地元の英語塾に小学校5年生から通い始めた。
英語を習うことにワクワクしたのは、きっと小学生の頃に好きだった海外の物語の登場人物やその国の文化に近づいた気がしたからかも知れない。
中学、高校と、英語は私の得意科目だった。
大学も英語関係の学部に進んだ。
 
なのに、である。
大学を卒業し、ほぼ英語を使うことはなくなった。
言語は使っていなければ、どんどん忘れていく。
 
英語とは無縁の生活を続けているうちに、ドイツ人の彼女への手紙には、定型的でありきたりの文章しか書けなくなった。
それでも、毎年送ることは続けたかったから、何とか寄せ集めの文章でやり過ごしていた。
考えれば失礼な話である。出せば良いというものでもないのに。
 
実は今まで、私は彼女と会ったことがない。
大学時代の友人のつてで、彼女を文通相手として紹介されたのがきっかけだった。
いつか、ドイツ人の優しい彼女に会いに行ってみたい。
写真で見る、可愛らしい彼女の子どもたちとも会いたい。
手紙のやり取りだけで、ここまで続いた縁を大切にしたかった。
 
やっぱり、意思疎通ができる程度には、英語を上達させたい。
自分の思っていることを、きちんと手紙にしたためたい。
 
恐る恐る始めた英語レッスンは、私の予想に反して楽しかった。
先輩は、分からないときは、はっきりと分からないと先生に言った。
その潔さが心地良く、おかげで私も妙なプライドを捨てることができ、間違いを恐れなくなった。
 
その一方で、悲しいくらい知っているはずの単語が出てこなかった。
ぼんやりとそういう言葉があることは思い出すのだが、それははっきりとした形にならず、すぐに霧のように消え去ってしまうのだ。
退化とは、こういうことかと実感した。
自分の記憶力の悪さを、ひしひしと感じるのだ。
だからといって、努力もせずに年齢のせいにして誤魔化すのは違う気がした。
 
スクールに通い始めて、今年で5、6年目になるだろうか。
今では、1時間のトークレッスンも、臆せずに言いたいことを伝えられるようになった。
もちろん、ボキャブラリーはまだまだ足りていないし、先週教わったことを、今週になったら忘れていることもあるけれど。
 
でも、確実に英語を学ぶことの楽しさを見出している。
小学生の時に感じた、海外の人たちの生活や文化に触れられるワクワク感が再び戻ってきた。
そして、自分の言いたかったことが伝わる喜びに、やりがいを感じるのだ。
少しずつではあるが、前進できていることが自信へとつながり、更に上達したいという思いが強くなった。
 
ドイツの彼女へ手紙を書くことが、前よりも楽しくなった。
満足のいく出来とは言えないが、伝えたいという熱意は便箋の枚数にも表れていると思うから、心意気だけは買ってほしい。
 
何かを始めるのに遅すぎるということはないと、誰かが言っていた。
年齢や、できないという思い込みなどは、自分自身を囲っている心の檻のようなものではないだろうか。
私たちは、人目が気になるのか、はたまた諦めの成せる業なのか、外が気になるくせに、なかなか檻から一歩を踏み出そうとはしない。
 
目に見えないものに捕われて、下を向いて足踏みしているのはもったいない。
顔を上げて見渡してみれば、まだまだやりたいこと、やれることがたくさんある。
 
心の檻からの脱出。必要なのは、そこから抜け出す勇気。
ウロウロしていたら、目に見えぬ看守に引き戻されてしまうからご用心。
さあ、足枷を外し、檻の中から自由に羽ばたいて、人生を楽しむ一歩を踏み出そう。
脱出できれば、世の中には自分を幸せにできるものが案外溢れているから。
 
 
 
 
***
 
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2020-08-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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