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一人暮らしの1Kで「オッケーグーグル」と一日十回言う生活を始めて得られたもの


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記事:過客(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
会社の人にスマートスピーカーを貰った。
スマートスピーカーとは、声に出して命令すると、音楽を再生したり、今日のニュースを読み上げたり、会社までの道がどれぐらい混んでいるか報告したりする機械だ。スマートスピーカー対応の家電と連携させれば、「ただいま」と言うだけで、部屋の明かりとエアコンとテレビをいっぺんにつける、なんてこともできる。
 
声だけで機械を操るなんて、いかにも未来的だ。しかも家電一つ一つを、リモコンやらスイッチやらで制御するのは、些細なことだけれど結構面倒くさい。その面倒から解放されるのは確かに便利そうだ。
 
新しいもの好きな私は、早速スマートスピーカーを中心にした部屋作り、すなわち「スマートホーム化」に取り掛かった。先日、ついにスマートリモコンという機器を手に入れて、スマートスピーカーを中心としたスマートホーム化はおおむね完了した。実際に数日スマートホームで過ごしてみて、感想を端的に表すと次の通りだ。
 
スマートホーム化で、うちがボウリング場になった。
 
もちろんボウリングのレーンが出現した訳ではないし、私の家は一人暮らしの1K、レーンどころか廊下と呼べるものも無いような狭さだからこれはもちろん比喩である。しかし、この比喩でなければスマートホーム化の真のメリットは伝わらないのだ。
 
うちはボウリング場になった。そう、ボウリング場になったから、日々の暮らしの「ちょっとした不便」が、「遊び」に変わったのである。
 
ボウリングは何が面白いスポーツ(遊び)だろうか。一番分かりやすい魅力は、ストライクを決めた時の爽快感だろう。自分が放ったボールが的を弾き飛ばす様を見るのは気持ちがいい。しかしそれは、ボウリングだけが有する楽しさではない。ダーツやシューティングといった他の的当てゲームにも共通しているものだ。
そうした遊びにはない、ボウリング独自の魅力、それはボールを投げてからピンを弾くまでのあの『間』にあると思う。
 
ボールを投げる位置からピンの場所までは約十八メートルもあるそうだ。それ故に、ボウリングは自分がアクションを起こしてから、ピンを倒すという結果を得られるまでに、決して短くはない時間の『間』が発生する。
長いレーンを、自分が放ったボールが滑るように駆け抜けるあの絶妙な『間』は、プレイヤーの心を緊張させる。それが見事、狙い通りの的を倒した瞬間に、緊張した心が一気に緩む。この緊張から解き放たれること、スカッとする解放感こそが、ボウリングならではの爽快感に繋がるのだ。
 
実は、この「緊張と解放」という心の動きが、スマートスピーカーで何かを命令する時にも発生する。
 
部屋で一人、くつろいでいる時を想像してみてほしい。暑くなってきたので、「オッケーグーグル、エアコンをつけて」と命令するとする。スマートスピーカーは、自分から一メートルほど離れた位置にある、チェストの上に置いてある。小さい声だと反応しない。早口だったり、口ごもったりすると「よく聞えませんでした」と言われてしまう。よって、丁寧に、はっきりと、やや声を張って告げる。「オッケーグーグル、エアコンをつけて」
この時、一人きりの部屋に緊張が走る。どうだ? と。聞こえたか? やったか?
 
「オッケーグーグル、エアコンをつけて」という、言い終わるのに最低二秒はかかり、そこからスマートスピーカーが応答するまでの、一秒程度の間。声に出すというアクションを起こし、スマートスピーカーが反応するまでの緊張感。それは絶妙な加減でボールを放ち、長いレーンを滑るように転がっていく様を見守る時と、同じ心持ちなのだ。
 
そしてその緊張感は、「分かりました、エアコンをオンにします」と告げられて一気に融解する。パコーンとピンが弾け飛ぶ代わりに、エアコンから涼しい風が吹き出す。やった、上手くいったと安堵し、そして小さく「フフッ」と笑ってしまうのだ。
緊張がゆるむと、つい人は頬が緩んでしまう。これはきっと一人でボウリングしている時、ストライクを決めてニヤリと笑うのと同じ現象なのだ。
 
おそらくここまで読んで、「スマートホーム化は不便なままだ」「わざわざ面倒なことをして何が面白いの?」と思う人が大半だろう。その通り、スマートホーム化は思ったより便利にならない。「スマートスピーカーとは執事である。なぜなら言葉一つで些事をこなしてくれる」なんて比喩は使えない。リモコンを探し回る手間こそは省けるが、劇的に生活が便利になる訳ではない。
しかし、「ボールを転がしてピンを倒すことの何が面白いの?」と思うだろうか? きっとそうは思わないだろう。なぜなら、それが便利さを求めての行為ではなく、遊ぶための行為だと知っているからだ。
 
遊びは便利さから程遠い。しかし面倒ごとを塗りつぶしてしまう快感が遊びにはある。私はスマートスピーカーによるスマートホーム化で、日常のちょっとした面倒が遊びに変わった。ちなみに我が家はルンバとも連携をさせて、「オッケーグーグル、掃除して」と言うとルンバが掃除を始めるようにもなっている。「掃除して」と言うと、やや置いてルンバがせかせか動き出す様を見ると、やっぱりフフッとしてしまう。張り合いがない日常を変えたい人は、スマートスピーカーを導入し、毎日十回呼び掛けて、毎日十本ストライクを決めるのはいかがだろうか。
 
 
 
 
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2020-08-23 | Posted in メディアグランプリ

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