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あの日、歯医者が占い師に見えた

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記事:Risa(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「虫歯になりかけの歯がありますね。歯周病も進んでいて初期とはいいがたいです。初期と中期の間ですね」
今年の春に歯医者で言われた。
 
内心ショックだった。
なにしろ、私はもともと虫歯になりにくいたちだったから。
虫歯になったのは小学生の時1度か2度あっただけ。
それ以降は虫歯治療とは全く縁がなく、歯医者に行くのはごくまれに歯石をとってきれいにしたい時だけだった。
そしてこの時はまだ歯医者が占い師だなんて知らなかった。
 
「定期的にクリーニングしていたら歯周病にもなりにくいんですよね」
歯科衛生士は言う。
 
虫歯にならないがために歯医者に通わなかったのがあだとなったようで、なんだか複雑な気持ちだった。
 
歯医者に行ったのは、10年近く住んだ町を離れる直前。
引越す前に念のために問題がないか検査したくて、近所で一番きれいでよさそうなところを選んだ。
期待通りよい歯医者だった。
清潔でおしゃれだったし、しっかり歯のレントゲン写真をとってモニターに映したのを見ながら説明してくれた。
画像を見せられて「初期の虫歯と初期とは言えない歯周病」と言われたら素人は真に受けるしかない。
 
引越した先では虫歯が気になりつつも、コロナ騒ぎのせいで歯医者に行く気にはなかなかなれず、重い腰を上げたのはようやくコロナに慣れた秋だった。
 
「虫歯もないし、歯周病も大丈夫ですね」
こちらの歯科衛生士は言った。
 
えっどういうこと? と私は耳を疑う。
 
前の歯医者と同じでレントゲン写真をモニターで見ながらの説明だった。
半年前にあったはずの「初期の虫歯」と「決して初期とはいいがたい歯周病」はどこにいったの?
 
担当の歯科衛生士によると、レントゲンを撮った時に写った影を虫歯と言う歯科医もいるとのことだった。
 
「全く問題ないですよ。歯周病もまだ大丈夫です。虫歯になりにくいんですね」
 
ここの歯医者では私の歯は治療の対象ではなく、半年に一度定期健診に来てクリーニングするだけでいいらしい。
その診断に安堵しつつ、虫歯の有無という一見明らかに区別がつきそうなことですら歯科医によって判断が違うということに驚いた。
 
歯医者ってもしかして占い師なの?
 
占いではよく生年月日が使われ、そこから導き出されるある情報をもとに占い師はその人の過去や未来について語る。
 
私の生年月日はいつだって変わらないから、どの占い師も同じことを言ってもよさそうなのに、一度たりとも同じことを言われたことがない。
例を挙げれば、占いで子供は女の子が2人できると言われたこともあれば、男の子が2人と言われたこともある。
結婚も子供もまだだから、どちらが正解なのか、はたまたどちらも違うのかはまだわからない。
手相を見てもらっても、私の未来について語られることは人さまざま。
 
どうしてそんなことが起こるのかというと、生年月日や手相は同じでもそれをどう解釈するかが違うからだそうだ。
流派によっても違うだろうし、同じ流派でも占い師個人も経験によって解釈や表現に差が出てくる。
 
きっと、医療だってそうなのだろう。
同じ症状でも、それをどう解釈するかは医師によって違うことがある。
 
今回は虫歯がないor初期の虫歯というどちらにしても極めてお気楽な症状だったけど、もっと重大な病気の診断でも似たようなことは起きているのではないだろうか。
なぜなら、厳密な基準があるのは確かだけど、最後に診断を下すのは人間なのだから違いがあったとしても不思議ではない。
 
だからこそセカンドオピニオンという仕組みがあるのだとうなずける。
医者によって違う解釈をするのだから、別の医者ならどう言うだろうか、もしかしたらもっと希望のもてる診断を下すかもしれないと患者が期待するのは理にかなっている。
 
患者は専門家を前に無力なのではなく、診断という見積もりをいくつかもらった後で、どれを採用するかを判断する役割がある。
相手がいくら専門家とはいえ、患者は自分の健康を医者にまかせっきりにはできない。
どの専門家に判断を仰ぐかを決めるのも患者であれば、その結果をどう受け止めてどんな治療を受けるのかも患者が決めること。
 
患者にはそんな自由がある。
 
図らずも異なる診断を受けた私がどうしたかというと、引越した先の歯医者の診断を信じることにした。
つまり、私は虫歯もなければ、歯周病でもない。
これまで通り、私の歯は虫歯になりにくいのだ!
 
次に歯医者に行くのは半年後の定期健診。
それまで、歯をきれいに磨いて虫歯無しの期間を更新しようと思う。
 
 
 
 
***
 
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2020-10-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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