金運がない『黄金のフクロウ』
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記事:布井健登(ライティング・ゼミ 秋の集中コース)
「へええ。買おうかな」
母が新聞折り込み広告をジーっと見ていた。「金運を呼ぶ黄金のフクロウ」 「ん?」 と僕の目にも入った。
広告の写真ではあるが、このフクロウはとてもかわいい。目がクリクリっとしていて、頭と胴体のバランスも実にキュート。うちのプードル「福」が一番かわいいが、この子はその次にかわいいかも。
思わずまじまじと広告を見る。体長は10センチ程度で手のひらサイズ。材質は樹脂で、金の塗装をしているようだ。雑な言い方かもしれないが「たわしに金メッキを付けた」イメージだろうか。
さらに言うと、かわいい上に金運付き。「宝来宝来神社 (『ほぎほぎじんじゃ』と読むらしい)」 という、宝くじが当たるご利益がある神社で清められたものらしい。
ほうほう、なるほど。そうなるとお値段はいくらなのか? が気になるところだ。
値段を見た。その瞬間、僕の心の中に「?」 マークが点灯した。そうだ、母にこのフクロウの値段を当てさせよう。どんな反応が出るのか楽しみだ。
「いくらだと思う?」僕は母に聞いた。すると母。「なんでも鑑定団」好きなので、値段を当てることには、すぐ乗ってくる。
母は自信満々に「3万円!!」 ブブー、はずれ。「え?もっと下?上?」 と悔しがる。
「もっと下だよ」 「じゃあ、1万5千円!!」 ブブー、はずれ。「ええ~?もっと下?」「もっと、ずぅっと下だよ」
「じゃあ今度こそ。7千円!!」 ブブー、はずれ。「もうわからない。答えを教えて」 と母はギブアップした。
「正解を言います」 母はゴクッと息をのんだ、は言い過ぎか。
「2,888円です!」
正解を伝えると、母は即答した。「じゃあ、いらない」 「なぜ?」 と聞くと、「ご利益があるとはとても思えないから」 だという。実は僕もそう思った。
僕は経営者でもあり税理士でもある。だからこのフクロウに対して「どうしたらこのかわいいフクロウをたくさんの人に届けられるかな?」 と考えてしまう癖がある。
このフクロウの会社は、2,888円というお値打ちな価格だからこそ、たくさんの人に幸せが届けられると考えたのであろう。確かに高いものは、数は売れない。
しかし、安ければ数が売れるのか? と言えば、そうとも言い切れない。日常使うティッシュとかサラダ油とか、どこにでもあるような消耗品に関しては安いほうが良いに決まっているが。
一方、一点ものとか価値が高いと感じられるものについては、「安いから買うか?」と言われると、「安いから怪しい」の言葉が真っ先に浮かぶ。
見事な黄金色、目がかわいい、小さく材質は低コストだがスタイルがいい、金運の神様がついている。ここまでついて2,888円だと、「金運を呼ぶ黄金のフクロウ」 なんて謳わない方がかえって売れるのではないかとさえ思った。
もちろん人それぞれなので、「2,888円で金運のフクロウが手に入るなんてラッキー」と考える人もいるだろう。でも、広告を見て信じる人なんてごくわずかだ。
価格決めは、ビジネスにおいては重要な要素だ。これは「儲かる・儲からない」以前の問題。そもそも売れなければ、大量のフクロウの在庫を抱え廃棄処分。会社は倒産してしまうかもしれない重要な死活問題だ。
僕なら1万円、いや9,800円の値段をつけるだろう。その方がきっと売れる。2,888円だと「ワタシ、自信アリマセン」とこの会社が自白しているようなものだ。
こんなにかわいいのに売れないと「金運に見放された黄金のフクロウ」になる。
実は、値段を高くした途端に売れた事例がある。
僕の会社では子を持つお母さん起業家向けに「なごやなでしこ」という、ビジネスの基礎を安価で学べるコミュニティを立ち上げている。
そのメンバーの1人に、サンドブラストでという工法で、とてもきれいで上品なグラスやボトル、ランプなどのガラス製品を加工して販売するお母さん起業家(Hさん)がいた。「ガレ」という西洋のブランドをご存知だろうか?あの「ガレ」を思い起こさせるような、高級感あふれるガラス製品を作る女性だ。
当然かなり手間がかかるだろうと予想していたが、ビンゴ。材料の調達から始まって、模様の型紙づくりは既成のものではなく、すべてオリジナル。すっぴんのガラス製品に型紙を貼って、砂を吹き付けて、完成までに使う時間、体力は相当らしい。
そんな上質で手間がかかる芸術品のグラスを2000円とか3000円で売っていた。「だって、高いと売れないから」それが当時のHさんだった。
僕はこう答えた。「ガレが3000円だったら、僕は買わないな。Hさんのこの品質なら、もっと高くないと怪しいよ」
Hさんは思い切って値上げした。僕が後で見て「前と価格差が大きすぎじゃね?」と笑ってしまうほど。その結果、売上がアドバイス前の4倍に跳ねあがり、さらに家族との時間をたっぷりとれる余裕まで生まれたそうだ。
これは、売値は原価や手間賃の積み上げではなく、「『顧客が感じる価値 > 売値』で決まる」 という典型的な例だろう。これから「お値段当てクイズ」 をするときは、「適正な価格かな?」 も考えると面白いかもしれない。
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