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名古屋のソウルフード、スガキヤが、変えないものとは


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記事:リサ(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
この夏、「スガキヤ、大量閉店」のニュースが飛び込んできたとき、名古屋ではちょっとした騒ぎになった。
「え! ウソ、うちのそば、閉店リストに入ってる、どうしよう」
「うちの近くは、なんとか大丈夫だった」
なんともいえない焦燥感にかられた多くは、筋金入りの名古屋人たち、私もその一人だ。
 
スガキヤは、名古屋発祥のラーメンチェーン店で、創業74年になる。
魚介だしと豚骨をあわせた乳白色のスープに、麺、チャーシュー、メンマ。うすく刻まれたネギもパラパラとのっていて、値段は、なんと330円!
しかし、その安さをなめてかかってはいけない。
一口飲むと、そのまろやかな味に、ん!!! と驚く。
魚介の旨味と豚骨のコクをまとめあげるかのように、ほのかな塩味が加わっていて、思わず、飲み干さずにはいられないスープだ。
 
そのスープを飲むときには、スプーンの先がフォークのように割れた、スガキヤオリジナルのラーメンフォークというものを使う。
割りばしの大量消費に配慮して生み出されたそうなのだが、麺、スープどちらも、食べやすいような食べにくいような代物である。デザイン性の高さから、ニューヨークの近代美術館に展示されているという事実には、地元民でも驚く。
 
店では、キャラクターの「スーちゃん」のイラストが迎えてくれる。
「ペコちゃん」やら、「チコちゃん」やらは、全国区かもしれないが、名古屋で、スーちゃんの顔を知らない人はいない。
右手にはラーメン、左手にはソフトクリームをもっている、目のまんまるな笑顔の女の子だ。
 
スーちゃんがソフトクリームを持っているのには、ちゃんと理由がある。
もともとスガキヤは、戦後すぐに、甘味処として産声をあげた。ところが、ラーメンを食べてから来る客が多かったので、いっそ、それも一緒に出そうじゃないかと、形態をかえたのだ。
だから、スガキヤでは、ソフトクリームだけを食べる人も大勢いる。
ラーメンを食べる時も、ソフトクリームとセットで食べるのが、定番なのである。
 
あれは、祖父母に連れられて行った、5,6歳のころのことだ。
いつも残した分を食べてもらっていた私が、「今日はぜんぶ一人で食べる!」と豪語したので、二人は、おお~と声をあげて笑った。
私は、ひじを張って、どんぶりを覗き込むようにして、一心不乱に麺を食べつくすと、注文したソフトクリームを取りに行った。誇らしげに再び席につくと、祖父が「スープひと口飲んでから、ソフトを食べてみい。交互に食べると、うみゃあで(美味しいぞ)」と言った。
まず、ラーメンフォークで、乳白色のスープを口に入れてみる。当時、表現力は持たなかったが、塩気のきいた旨味たっぷりのスープだ。そのあと、ソフトクリームを一口…… つづいてスープ…… またソフト…… きっと私が大きく目を見開いたのだろう。祖父母がまた声をあげて笑った。しょっぱさ、甘さ、しょっぱさ、甘さ……
 
スガキヤは、ポテチのチョコレートコーティングや、塩アイスのはるか昔に、すでに、「甘じょっぱいスイーツ」も、さりげなく提案していたのである。
 
高校時代は、部活帰りに、毎日のように通った。
しかし、大学で東京に出た私は、そこで、1990年代の空前のラーメンブームを味わうことになる。学生生活の4年間で、ありとあらゆる種類のラーメンを食べつくし、再び名古屋に帰ってきたときには、スガキヤ? あ、スガキヤねえ、という感覚になっていた。
 
その後、名古屋にも大型ショッピングモールが増えはじめ、スガキヤ以外のラーメン店も軒を連ねていった。地方の名物ラーメン、つけ麺、まぜそばといったブームに乗じて新しい店舗が入るたびに、スガキヤか…… また今度でいいや! と、視界から追いやってきた。
 
しかし。
大量閉店なんてイヤだ。なくなるのはぜったいにイヤなのだ。
今、一番近い店舗がどこなのか、スガキヤのホームページを開いてみた。
 
「いつものおいしさ、いつもの価格、ずっと変えないために、ずっとかわりつづける」
 
トップ画面いっぱいのスーちゃんの笑顔とともに、音声が流れた。
 
さらに見開いていくと、フードトラックの依頼受付や、自宅用のスガキヤの乾麺類をつかった「アレンジメニュー」がでてきた。そのレシピの数には、驚いた。
麺だけ使って、チーズトマトパスタにしたり、粉末スープで、大根の煮物を作ったり。そばめしにしたり、つけ麺にしたり。なんと、まぜそばまで…… もはや、スガキヤのメニューでもなんでもない提案の数々だった。
 
「なりふりかわまず」と笑う人もいるかもしれない。
しかし、そこに、74年間続いてきた、スガキヤの底力を見たような気がした。
 
食べ方がどう変わろうと、そんなことは関係ないのだ。
スガキヤが「ずっと変えない」と宣言しているのは、どんな食べ方なら、幸せになってもらえるかを考え続けることなのだ。
 
スーちゃんの笑顔に、亡くなった祖父母の笑顔が重なる。
そういえば、東京出身の夫を誘ったことは、まだ一度もなかった。
ソフトとスープを交互に食べたら、どんな顔をするのかな……
想像したらワクワクしてきて、私は、スマホのLINEを立ち上げた。
 
 
 
 
***

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2020-11-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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