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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:小池友妃子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「えっ! どうしてここに?」
20時15分を過ぎた頃、まちづくりの担い手育成講座(通称名:マチスク)のワークショップの最中に、参加する気満々の8歳の娘があふれんばかりの笑顔で会議室へと入ってきた。
 
娘は、3年前から、私と一緒に毎年定期的に行われるこの講座を受講している。彼女以外はみんな大人。第1回目は娘付きでの受講という形であったが、翌年から、彼女の努力により受講生として認めてくれた。みんなが彼女を受け入れてくれたお陰で、彼女はどんどん積極的に取り組むようになった。休憩時間には飲み物を配ったり、講座修了後は毎回片付けを手伝ったりと彼女ができることを誰にも言われることなく、自ら率先して行っていた。
 
しかし今回私は、1年ぶりに開催されたこのマチスクに娘を受講生として申し込まなかった。それは彼女が陸上を始め、19時から始まるこの講座に間に合わないという理由からであった。この日も18時過ぎに陸上の練習に送っていく時に
「今日からママはマチスクが始まるから、お迎えはパパだからね」
そう伝えていたのに……。
 
娘は迎えに来た主人に
「今日からマチスクだから、このまま送っていって」と伝えたらしい。
どうしても学びたかった娘。来たら受け入れてくれると思ったのか、満面の笑みで入ってきたのだ。私は扉に背を向けていたので、すぐには彼女に気づかなかったのだが、みんなのうおぉと懐かしむような声に一体誰が入ってきたのかと気になり、顔を後ろに向けたのだった。
 
講師の先生は、すぐに娘の席を作ろうと動き始めていた。
 
私はとっさに席を立ち「どうしてここに?」と娘に駆け寄った。すると私の雰囲気から気まずいと思ったのか、娘は何も言わずに足早に教室を去って行ってしまった。
 
そうまるで青春映画のワンシーンで必ずあるようなシュチュエーション。私は娘を追いかけ彼女の左腕をギュッと捕まえた。彼女の目から涙が一粒流れ落ちたかと思ったら、一瞬にしてコップの水があふれ出すように涙が止まらなくなった。
 
私は娘の気持ちを落ち着かせ、二人で会場に戻った。講師の先生をはじめ、みんなが娘を快く受け入れてくれたお陰で、徐々に場になじんできた娘。それはまるで雪解け水が徐々に流れ出す時のように、みんなの気持ちの温かさが娘の気持ちを穏やかにしてくれているようだった。
 
今回の講座のテーマは「Withコロナ意見交換会」。コロナ禍において、自分たちの地域や団体が活動する上で悩みや不安、困りごと、新しく始めたことなどを共有する講座内容。
 
グループワークで、「コロナ以降、気づいたことや発見、工夫していること、新しく始めたことは?」という事に対し、大人である私たちは、ZOOMミーチングであるとか、整理整頓とかの意見。一方娘は、陸上とスイッチを始めたという意見。
また「コロナ状況下地域や団体の活動で困っていること、悩んでいることは?」という事に対して、大人はイベントがなくなった。人に会えなくなった等という意見が出る中、娘は宿題が多くなったという意見。
 
当然ながら、彼女の目線と大人の私たちの目線は違った。しかし、彼女の困った宿題の問題についてを次週解決する問題の一つとしてみんなが受け入れてくれた。娘は、はにかみながらも喜び、来週も必ず講座に参加すると心に決めた。
 
翌週。当然のように陸上を休み、マチスクへ。
グループ分けで娘は私と別のグループになると決めた。講師がコロナ禍の中での不安や悩み困りごとをストーリー化してエピソードを5つ作ってきた。このエピソードをグループでどのように解決していくのかを話し合い、共有化した。大人の私でも解決策に困ったエピソードもあったので、彼女がグループの足手まといになっていないかと気にはなってはいたが、自分自身も解決策を考えるのに余裕がなかったので、娘は大丈夫だと開き直ることにした。
 
休憩を挟み、5つのエピソードに対して20分間でアンサーストーリーを創作するワークショップがはじまった。解決方法やアイディアを含んだ「物語」作成をするのだ。8歳の娘に解決策などを盛り込んだ物語なんて書けるわけがないと思い、彼女のグループに迷惑をかけることが申し訳なく思っていた。
 
いよいよ発表。
 
娘に与えられていたエピソードは、待望の赤ちゃんが生まれた夫婦が、遠く離れた曾祖父母に見せに行くために会いたいけど、曾祖父母が近所の目や自身が持病を抱えている。どうしたら良いか悩んでいることを解決するためのアンサーストーリーを作るということ。
 
娘が発表できずに泣いてしまうのではと思うと、いたたまれなかった。
しかし娘の声は、私の予想を反し、はっきりと自信を持って大きな声で発表していた。
「えっ! 自分で考えたの? それとも誰かが考えてくれたのを発表しているの?」と疑うくらい娘のアンサーストーリーに驚きを感じていた。
 
娘の考えた解決策、それはコロナ禍だからレンタカーを借りで休憩しながら会いに行けばいいよね。写真や動画、TV電話で話せばいいよね。あるいはもう一緒に住んでしまえばいいじゃないというものを夫婦の会話として発表。
 
すごい! 夫婦で会話しているその情景がはっきりと浮かんできたのだ。そして続いての4人の発表がオムニバス映画を見ているかのようにしっかりとしたストーリー展開を見せたのだった。
 
たった20分でここまでできあがるの? 私は娘を信じてあげれなかった自分を恥じた。
 
娘のグループの発表が終わった時、講師の先生の目にもキラリと光ものが見えた。
 
私は、職業柄様々な人々の悩みや不安を聞いてきた。時としてその解決を自分しかできないと思い、一人で悩み苦しむこともあった。私はこの2日間の講座での娘の姿を通して、決意と覚悟、協調性、認めること、受け入れること、そして信じることを学んだ。勝手に決めつけて人を判断してはいけないのだ。
 
後で娘に聞いたのだが、アンサーストーリーを作るときに、自分だったらどうするかを考えて、素直に書いただけだという。
 
人を信じ、そして素直に受け入れることで、お互いが気持ちよく成長し合える。
 
私の悩みに対するアンサーストーリー。
 
これもまたきっと私自身で気づくことができるように娘によって書かれたもののかもしれない……。
 
 
 
 
***
 
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2020-11-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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