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隣の芝生が青いからこそ見つけることができたもの


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:深谷百合子(ライティング・ゼミ特講)
 
 
世の中には、どれほど努力したって必ず成果が出るとは限らないことがある。
私にとってのそれは、「妊娠、出産」という経験だ。これだけは、どんなに努力しても叶わなかった。
 
同じ時期に結婚した仲の良い友人は、結婚してすぐに子供ができた。
「わぁ、いいなぁ。私も早く子供がほしいな。子供同士が同級生だといいのにね」
 
そんな会話をしたものの、私には一向に兆候は現れなかった。そうして1年が過ぎた頃、「お子さんはまだ?」と色々な人から聞かれるようになった。
 
「早く欲しいんですけどねぇ。こればかりはなかなか……」
そう苦笑いしながら、心の中では焦っていた。「不妊症」という言葉がちらついた。
 
「とりあえず、検査を受けてみようか」
そんな軽い気持ちから始まった妊活だった。検査の結果は異常無しだったけれど、一向に状況は変わらなかった。いくつかの病院を渡り歩いた末に、不妊専門外来のある病院で、本格的に妊活を開始した。
 
それからというもの、期待と失望を繰り返す日々が続いた。周りの友人達には次々と子供ができた。
「おめでとう」と言いながら、素直に喜べない自分がいた。「また先を越されちゃった、どうして私だけ……」と思うと悔しかった。でもどうにもならなかった。
 
毎日病院と家を往復する日々。治療の後は身体が何となくだるい。街角で大きなお腹をかかえた幸せそうな妊婦さんを見ると妬ましかった。
 
自分だけが置いてけぼりになったような気持ちがしていた。あと何回同じことを繰り返すのだろう? 病院へ向かう駅のベンチに座って、そんなことをボンヤリと考えていた。私はこのままずっと家と病院を往復するだけの人生なんだろうか……。
 
ふと見上げた駅のホームには、同じ年頃の女性が颯爽としたスーツ姿で立っていた。何か楽器のような大きな荷物を抱えた女性も居る。皆楽しそうに、生き生きしていた。そんな彼女達の姿を見ていたら、不意に怒りのような気持ちがこみあげてきた。
 
「こんなの嫌だ。私だって、私だってまだ色々なことができるんだから!」
 
そして、その日を境に私は病院へ行くのをやめた。
 
それから半年後、私は仕事を再開した。自分が誰かの役に立てていることが嬉しかった。最初は短時間のアルバイトだったけれど、新しいことを覚えるのが楽しくて、正社員並みに働いた。そして、2年後には別の会社へ移り、正社員として本格的に仕事を再開した。
 
それからしばらくして、シンガポールへ出張する機会を得た。シンガポールには一人友人が住んでいる。私と同じ時期に結婚した仲の良かった友人だ。今はご主人の転勤に伴ってシンガポールに住んでいるのだ。
 
しばらく年賀状だけの付き合いになっていたけれど、私は思い切って彼女に電話を掛けてみた。
 
「今度仕事でシンガポールに行くことになったよ。久しぶりに会いたいな」
「本当? じゃあ家に遊びに来てよ。ホテルまで迎えにいくから」
 
そうして久しぶりに会った彼女には、もう3人の子供がいた。
「子供同士が同級生になるといいのにね」と言い合った時に生まれた子は、もう5才になっていた。
 
「子供3人欲しいって言ってたもんね。良かったね」
元気に走り回る子供達を見ながら、私はこの時自分が心から「良かったね」と思えていることに気が付いた。
 
「昔はさ、すぐに子供ができていいなぁって思ってたんだ。なんか羨ましくてさ。私はもう諦めたけど、やっぱり子供が居るといいよね」
私がそう言うと、彼女は思いがけない一言を言ったのだ。
 
「私はさ、逆にこうやって仕事をバリバリやって、海外まで出張に来れるっていうのが羨ましいよ」
 
「え? そうなの?」
「うん、お互い自分にないものを羨ましいって思うんだね」
 
そう言うと私たちは「隣の芝生は青い」と言いながら、二人でケラケラと笑った。
 
そうなんだ。私たちは人に有って自分に無いものを求めたがる。それが時に執着に変わる。あの時私は皆と同じでいたかった。でも、「子供が欲しい」という執着を捨てたら楽になった。そして、その後に新しい目標ができた。「一人前の技術者になりたい」という目標が。
 
新しい目標ができて、自分の成りたい姿がハッキリすると、人のことが気にならなくなる。それはきっと、目指すゴールと自分の足元だけに集中するようになるからだろう。
私は昨年、自分の生きる世界が変わって、自分のゴールを定めきれずにいた。そしてまた自分に無いものを求めようとしていた。「私にはこれがない、あれがない」と自分に無いものを数え、勝手に苦しんだ。
 
でもある日見方を変えてみた。
あの日シンガポールで友人が
「お互い自分にないものを羨ましいって思うんだね」と言ってくれたように、私に有って他の人には無いものがあるはずだ。それを探し出していこうと。
 
そして今、私は新しい目標に向かって歩き始めている。目指すゴールから目を離さない限り、再び迷うことはないだろう。
 
 
 
 
***

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2021-01-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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