メディアグランプリ

お母さんの梅干し


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記事:早藤 武(ライティングゼミ・「超」通信コース)
 
 
「2週間ずっと雨降っているよ。今年は梅干しを作るのは無理じゃない?」
 
私の母親は、趣味も兼ねて6月に入ってしばらくすると家族で使う用に1年分の梅干しをどっさりと作っています。
小さな頃から母親が梅干しを作っておにぎりを作ってくれていたのもあって、私は梅干しが大好きです。
しかし、東京の6月は梅雨の時期に入って見える景色はずっと雨です。
今年はうまく梅干しが作れなくて美味しく食べられないかもしれません。
 
「大丈夫よ。母さんは昔から晴れ女だから梅を干す頃には青空が続くわよ」
 
朝のテレビでちょうど映っている天気予報を見ても雨の傘マークが綺麗に並んでいました。
梅干しを完成させるには大体3日間は天日干しをしなければいけないので、3日間は晴れていないといけないということになります。
 
しばらくして、母親が買い物から帰ると大きな買い物袋いっぱいの梅干し用の梅の実を2袋ほど買って帰ってきました。
 
「そろそろ、梅干しを作る準備をしておこうかと思ってね」
 
今朝のテレビの天気予報を見てみたら、週間天気予報は相変わらず傘マークだらけです。
 
「本当に大丈夫なの? テレビは雨マークが並んでいるよ?」
 
天気予報が雨マークばかりで流石に不安になって母親に伝えました。
 
「大丈夫よ。母さんは晴れ女だから任せなさい!」
 
こうはっきりと返されては、これ以上私からは何も言うことができずに学校へ行く時間となって中学校へ登校しに行きました。
 
学校で授業を受けている間も、雨は続いているため外で運動する事もほとんどできない状態が続いていました。
時々、昼間に雨が上がって青空が少し除くのですが、すぐに空は分厚い曇に覆われてしまって雨がまたザーッと降り始めます。
 
体育もほとんど外の運動ができないので、たまには思いっきり外でサッカーをしたりして友達とグラウンドを駆け回りたいなと授業を受けながら思っていました。
 
放課後になって学校から家に帰ると、母親が夕飯の支度が終わってニコニコと楽しそうに梅干し作りを進めていました。
 
透明な大きな容器の中に丸々とした青梅がたくさんぎっしり詰まっています。
塩漬けにして、しばらくすると梅が漬かって梅の実が干せる状態にまで熟成するのと梅酢が一緒にできてきます。
 
数週間漬け込んでから、いよいよ天日干しする段階となるのですが天気予報は梅雨の様相で傘マークだらけです。
 
「お日様の下に干せる晴れのタイミングが来るから大丈夫よ」
 
そうして母親が言っていた次の週には、今までの雨模様が何だったのだろうと思うくらいにすっきりと空は晴れ渡りました。
 
「ずっと雨ばかりだったのに、ホントに晴れた!」
天気予報からの情報では7月に入るところで、ちょうど梅雨明けが宣言されてしばらく東京近辺は晴天に恵まれると言われていました。
 
「ほらね。ちゃんと晴れてくれたでしょう? これで今年も美味しい梅干しができるわよ」
 
ニコニコと話しながら母親は平べったいザルを何枚も用意して、塩漬けにしていた瓶にいつの間にか赤紫蘇も入れていてよく漬かっているのが中学生の僕にもわかります。
母親は漬かっていた梅の実をザルの上に丁寧に並べていきました。
そして家のベランダの風通しの良いところにザルを置いて、梅の実を太陽に当ててあげていました。
 
万が一、通り雨に振られてもベランダの雨除けの屋根があって風通しが良いところにザルを避難できるように位置取りをしているようです。
 
後になって中学校の理科の勉強で習ったのですが、日本には四季があって春が過ぎて夏になる前には梅雨前線がしばらく日本の真ん中あたりをウロウロする時期があるというのです。
 
この知識があれば、雨ばかりの梅雨を乗り越えたら晴れが続くというのは予想できたのでしょう。
しかし、母親は常日頃から晴れ女であることを自称していて、自分にとって大事なタイミングの時には天気が晴れてくれるのだと僕たちに話をしてくれていました。
 
大人になった現在の僕が昔を振り返ってみて、母親は自分がやりたい事をできる素敵なタイミングはきっとやってくると強く信じていたからこそ、雨予報が続く週間天気よりも幅広く天気予報の情報を集めて、梅雨明けのタイミングについての情報も集めたりしていたのかもしれません。
 
すぐに梅の実をお日様の下に干して、美味しい梅干しが作れるように準備を進めておけば、いざ晴れるというタイミングがやって来たときには動き出すことができます。
そして、母親がつくった梅干しは夏バテを吹き飛ばすくらい美味くてすっぱいので、おにぎりの具によく合いました。
 
きっと雨の週間天気だけを見ていたら、天日干しはしばらく無理だろうなと楽しみにしていた梅干しづくりを途中で諦めていたかもしれません。
 
きっとできるはずだから、自分にできることをしてどっしり構えておこうという母親の心構えが見本となって、現在の僕は自称「晴れ男」を名乗っています。
 
そのおかげで、趣味のキャンプに行くときも近所では強風や雨だったとしても出かけた先は何故かちょうど晴れているということもあるのです。
 
 
 
 
 
***

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2021-05-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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